6. 回想シーンは後で一回だけ、他は語りの中で。苦手だから
◆
オッチマ:突然の
「これでよし」
翌朝、ボクは“観察用”の垢でうーみんさんに
昨日の調査はコイトさんと個人垢の交流を追いきれず切り上げた。
◆
「モロズミさん、きょ、今日は」
六限の地理が終わり、ゴミさんが声を掛けてくる。
多めの宿題が出た放課後は残って三人でやることが多い。
「ごめんね、今日も……」
と、二人のいるユキの席の辺りに行って
ユキは斜め後ろ、ソコツネさんの方を見たまま『そう』とだけ答えた。
地理の先生に
◆
うーみん:初めまして😊 確かに金曜会う予定でしたが、急に断られてから連絡が取れません。心配です、、、😪😪
うーみん:オッチマさんは彼のお友達ですか❓
再び木工室で、ボクはツイッターに向き合っていた。
胡坐の足に広げたノートには『オッチマ』の
オッチマ:
こえ部の終了
オッチマ:私も諏訪に住んでいて、中学の同級生と一緒に会うはずだったのですが、その友達も学校に来ないんです。
うーみん:大変ですね😨
オッチマ:それで実は同級生の彼女とは@struggle_kaさんを通してしか知らなくて、ツイッターの垢とかもわからないんです。彼と親しくしていた中学生位のアカウントなど、何か心当たりはありませんか?
ちょっと苦しかった?
冷えたフローリングの上でモジモジお尻を動かしていると、やっと返事が来る。
うーみん:すいません、ざっとフォロワーを見直してきましたけど、はっきりわかる中にはいませんでした😪
うーみん:ところでオッチマさんは女の子ですか❔❔
うっ。
やっぱりコイトさんみたいな感じの人なのかな。
うーみん:あ
うーみん:ごめんなさい。変な意味じゃなく。実は、
「えっ」
オッチマ:違います、でも、どうして
うーみん:はっきりとはわからないんですが、@struggle_kaさんと交流があって、貴方の同級生かもしれない人が一人いるんです
うーみん:ソコツネさん㊙情報というアカウントを知っていますか❓
少し顔を上げ、一つしかない戸の方を見る、何となく。
オッチマ:ソコツネさんも同級生です
うーみん:😲😲
うーみん:私、オカルト
どうしよう。
マナちゃんを探していたはずがとんでもないものにぶち当たってしまった。
返答を考えてまた顔を上げると、戸に付いた窓の向こうで髪の短い女子生徒が横切るところだった。耳に白いマスクの
……マナちゃん!?
驚いて立ち上がったボクはスマホと戸を数回
戸を開けて飛び出すと、また人がいてぶつかりかける。
さっとボクを
マナちゃんは彼女の行く先にはいない。ボクは別方向へ歩き出す。
うーみん:それでは、基本的なところから
◆
ソコツネさんはうちのクラスにいる本物の怪談だ。
小学校から浮いてたそうで、本人も一人でいるのが好き。
かつて彼女は普通の中学生だった。
二年でまた同じクラスになっても、ボロい筆箱や授業で当てられた時の
それが変わったのはGWが明けた頃。
『ソコツネさん、シャー芯買えなくて緑のクーピーでノートとってたよ』と、クラスの
何だか生々しくて、おかしくて、それから
『カラスを給食のパンで捕まえようとしてるの見た』
『シバタとは
『父親は「俺より強い奴に会いに行く」と言って
色々なソコツネさんの
ところがその一月後、ツイッターに一つのアカウントが出現する。
ソコツネさん㊙情報
@sokotsunemaruhi
東中二年四組ソコツネさんの㊙情報をお届けします
この垢はツイッター上の東中生の
『ソコツネさんはカラスの眼球を主に食べ、又はヤマネの肝を好む』
『ソコツネさんの
気味が悪くて
ソコツネさんは友達もスマホも持っていないから知ることは無い。それにスマホを持っている子は学年でも半分以下、ツイッターをやっている子はもっと少数。だからそれはほんの十数人によるただの
夏休みが明けるまでは。
二学期初日、ソコツネさんの机にカラスの
次の日ソコツネさんの鞄に
誰かがソコツネさん㊙情報の
恐らく㊙情報のフォロワー達――ソコツネクラスタ――がしていると考えられる、この不気味なネットと現実の
『ソコツネさんに関った人間は人生
ソコツネさんに関ろうとした人が
㊙情報が
彼女は世界でたった一つの、怖がらせるんじゃなくて怖がらされる怪談なのだ。
◆
一階南校舎の木工室からロの字の校舎を
情報交換は二階に上る辺りで終わった。
うーみんさんの話からはコイトさんのように東中生以外の人も相当数がソコツネクラスタの一部になっていること、クラスタ内の交流はグループDMで行われていることがわかった。
:@struggle_kaさんは若い子と話したくて
:ところで今度は貴方やお友達の事を聞いてもいいですか👀❔
うっ。
:いや違うんです。何かお友達が㊙情報なのかの手掛かりがないかなって
:第三者の目から見ればわかることもあるカモ😅
うーん……。
渡り廊下に留まり、自分やマナちゃんのことをポツポツ書いてみる。
バタバタバタ。
入力の途中でソコツネさんが北校舎方面に走り抜けていった。
:なるほど。一年の頃は同じ部活だったんですネ😃 今はどうなんですか❔
また歩き出し、北校舎の教室を
耳を
テニス部の
:幼馴染が、、、大変でしたね😪😪
:それじゃあお友達と親しくないのは、、、その時のことで❔❔
そうじゃないと否定する。
マナちゃんは確かに人の悪口をよく言うし最近は
:そうなんですね。
:てっきり元から攻撃的な子なのかなと思っていたんですが、、、
:同級生を飛び降りさせるような子だったら㊙情報の中の人だとしても不思議じゃない🤔
胸の中の何かがギュッと
二年の教室を見終わり、西校舎の方へ。
:テニス部のこと、もっと聞かせてくれませんか❓
なぜそこにそんなに
:
:去年のに
テニス部の関係者を疑っているんですか?
:そう
:そうじゃなく‼ オッチマさんを疑ってるわけじゃな
英研と数研をそっと見ながら通り過ぎる。
オッチマ:僕もテニス部に関係あるかもしれないと考えていました。
ボクを動かしてきた予感はそういうものだったのだ。
:すいません、よくわからないのですが、
:止めたいのはお友達のことですか、㊙情報ですか❔
無論マナちゃんだ。
でも㊙情報が彼女だとしたら……!
自然と
:落ち着いてください😅話を戻しましょう。
:ひどいことをされて幼馴染さんが飛び降りた後はどうなったんですか?
ボクは南校舎の西の突き当り、図書室のドアを開ける。
氷解け去り
さては時ぞと 思うあやにく
今日も昨日も 雪の空 ……
ユキがカーペットの床にフラフラ立ちながら歌っていた。
松葉杖は傍らのテーブルに座るゴミさんが持っている。
そのテーブルの上に並ぶのは今日の宿題だ。
「ほらもう大丈夫」
ユキはゴミさんに向け自慢げに言う。
「でも、ユキちゃんもド、ドジだよね、氷割ろうとして足にヒビ入れるなんて」
「うるさいな」
幼馴染は
「ミハル」
ユキが薄い笑顔で両手を広げ、立てることをアピールする。
バタバタバタ、背後から走る
ストーブの
「ごめん、今、忙しくて!」
逃げるように図書室を出て、近くの階段を踊り場まで駆け上る。
そこで『飛び降りてません』とうーみんさんに返信した。
:あの、あれ、さっきと話が
:でも幼馴染ですよね、貴方や学校が何かしたから廃部になったんじゃないですか?
バタバタバタ、靴音が
マナちゃんかも知れないのにボクは足早に階段を上る。
すぐに女子トイレの個室に入る。他に人の気配は無い。
バタバタバタ、近づいて、遠ざかる。
オッチマ:誰も何もしてません
オッチマ:ボクは先輩やみんなが怖くて、
オッチマ:ずっと一緒にいた、幼馴染だったのに
しばらく返信が無くて、ゆっくりと深呼吸した。
トイレを出て、鍵の掛かった調理室から様子を見ていく。
:、、、失礼しました😯
:話を整理しましょう。幼馴染さんが部内で睨まれて、ひどい目にあって。結局、飛び降りはあったんですよね、その後廃部に。
:南校舎の三階から飛び降りたのは誰なんですか❓
ボクが返信したところで、ギイとトイレの戸が開く音がした。
バタバタバタ。
ボクは居ても立ってもいられず走る。足を
人のいない家研、家庭科室を抜け、吹奏楽部のうるさい音楽室に近づいていく。
音楽室は南校舎三階、西の突き当り。
靴音は迫る。
ボクは分厚い
トランペットやサックス、色々な楽器を抱えた女の子らが目を丸くしている。
ストーブがよく効いていて暖かい。カーテンの
もう逃げられない。
その場で息をつくボクの脇をソコツネさんが追い抜く。
彼女は吹奏楽部の子らの間を
強風が吹き、カーテンが舞い上がる。
ソコツネさんはそのカーテンが戻る前に、開け放たれた窓の
飛ぶ寸前に身をくねらせ、右肩からこちらを向きながら落ちていく。
彼女の行く先の地面にはブルーシートで隠された跡がある。
ユキをいじめていて、マナちゃんの親友で、雪の空になったハルカちゃんの跡が。
震える唇を強く
でも、みんなが傷付いた。
だから、もう二度と繰り返さない、そう決めたんだ。
◆
あの窓は誰が開けたんだろう……。
ボクが立ち尽くしていると、吹奏楽部の子が一人、カーテンを
ボクは頭を下げてから防音扉を閉めた。
ブルッとスマホが
:複雑なんですネ🤔手掛かりがあるといいんですが、、、
ボクはちょうど思い出したことを告げる。
初めにクラスのLINEで緑のクーピーのことを書いたのは、マナちゃんだ。
◆
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