第29話
創太があの迷宮「創神の塔」から落ちてその後、団長の機転により迷宮を脱出。その後、王たちは勇者たちのケアが必要だと考えたため、一度王都の城へ戻りしばらくの休息を与えようとしていた。
この理由は大きく分けて2つ。
1つ目に誰が死んだか、誰が生きているかの確認が必要だった、それも精神状態が悪いかなどの細かい情報が必要だったからである。
ちなみに無能である創太1人だと知ると王たちは安堵したと思うと、やれせいせいしただの、やれ良かっただのという死者を蔑む言葉を貴族たちの間で飛び交っていた。さらにひどい者は勇者の前や王の前に暗にその意味を持つ様なことを言っている奴も少なくない。それでは勇者に面目が立たないと王が直々に処分したが王も同じ考えを持っているかもしれない。
次に2つ目 勇者の強化だ、今回の迷宮攻略で勇者の弱さというものを深く痛感した。
肉体的・ステータス的にではなく、精神的に若いということだ。勇者は王たちにとっての切り札だ、勇者たちは絶対に負けてはならない。負けてしまえば国民の不安は一気にあおられ、パニックに陥るだろう。そこを魔人族に突かれてしまえばおしまいだ。
そうしてここにやってきた勇者達クラスメイトだが、何か雰囲気が悪く、クラスいつものムードメイカーも調子が悪い、勇者筆頭である坂上も暗い顔だ。そして一番悪いのは優衣だ、魔力を限界まで消費して味方を回復していたので、今の今までずっと眠っている。
「はあ…」
そしてこの不幸な少女に寄り添っている少女は速水 凜。そして今病室のベッドでもう5日も眠っているのは雪風 優衣。
「貴方は…苦難でしょうね、寝ても起きても――」
もういっそのことずっと眠っておいても…などという考えが頭の中に浮かんだが、とっさにその考えを振り払う。
「貴方が起きても…創太君は――――」
「うっ、ううっ……」
「起きたの?返事して優衣!」
「うっ。ううっ、あれ。凜————えっと…ここは?」
「まず落ち着いて、説明してあげるから—————」
こうして、凛は優衣に向けて説明を行った。
「そう…なんだ。所でさ、その創太君は?ここにいるんだよね?ありがとうって言っておかなくちゃ 創太君は?どこ?」
「創太君は…落ちたよ、迷宮の谷底…奈落に」
「えっ……嘘だよね、凜でもさすがに…嘘つかないでよ、凜でも…さすがに許さないよ」
凜は目尻に涙を浮かべながら、それでも真実を優衣に優しい声で言った。
「創太君はねぇ、私達の殿となって退路を作ってくれていたんだけど、退却の時に足を滑らせた…んだと思う。コカトリスも暴れていたし、仕方なかったのかもしれない、でも 創太君がいなければ私たちは…みんな死んでいた」
「本……当に?創太君は……もう…いない?」
優衣が思い出すのはあの夜の事、2人でコーヒーもどきを飲み、語ったあの時。異世界であそこまで気を許した時は無いだろう。
優衣は泣いた、声が出るまで泣いた。凜の胸を借りて泣いた、凜もサムライガールと呼ばれる所以が少しわかった気がする、そして優衣が覚悟を持った目で凜を見つめた、そして
「創太君はコカトリスとほぼ同じぐらい強い…のかな」
「ええ。多分5分も持ったんだから、私達よりも強かったと思う」
「そう…そうなんだ、じゃあ 創太君が生き残ってる可能性も…あるんじゃないかな」
凜は優衣の目を見つめた、目の前にいる少女の目には、どんな逆境も超えてやるという覚悟の目があった。そして
「だからさ、私、迷宮を全部攻略して、創太君を見つけ出す。そして私が伝えたい事…全部伝えるよ……私の想いも、だからさ…手伝ってくれないかな?」
「えっ?」
「お願い。凜、これは私が今やらなくちゃいけない事だよ」
「ええ、分かったわ、優衣、私も手伝う。そして優衣が創太君に聞かせたかった事、聞かせてもらおうかしら」
「うんっ!ありがとう。凜!」
そうして2人は抱き合った。まるでこれからの使命を全うするべく覚悟を持つ者かどうかを確かめ合うように。そこにいるかどうかを確かめ合うように。
そして2人は、新たな決意を固め、これから向かう災難へと歩み出そうと、そう決めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます