第二章
第40話 ゾンビサバイバル始まったけどいつ異能力に目覚めるの?
もしゾンビが出たらどうする? なんてくだらない議題を面白おかしく、又は真剣に論じ合う事はそれなりにまあある。ネットのスレでも定期的にあがる話題の一つであるし、友達同士のくだらない話のネタにもなる。
しかし問題なのは、ほとんど誰もがそれをネタとして捉えすぎているという点だ。
現実的にゾンビが現れるなんて、ゾンビパンデミックなんて起こらない。所詮は映画やアニメ世界でのみ存在する話だとそう思い込んでいるからだ。
だからこそ、だ。そんな馬鹿な連中はゾンビパンデミック発生時早々に死んだ。 きっとわけがわからず喰われ、絶望し、絶命しただろう。
ただでさえ通り魔殺人鬼や暴漢にすらも対応できない無能な平和ボケども。
パンデミック当初にネット動画で見た警察官達はゾンビ一匹にすら対応できていなかった。
これが映画やアニメの中ならもう少しは戦えていただろうか?
だが現実は非情である。現実は悲惨である。
ならば我々人類は忌々しきゾンビどもには敵わないのか?
答えはノーだ。
「不死者たちの最強の味方は我々の無知であり、最悪の敵は奴らについての知識だ」
彼、
子供と呼ぶには大きく、大人と呼ぶにはまだまだ未熟な若者。年齢は16歳であり、学校へは行っていない、謂わば不登校児である。
学校へ行かなくなった理由はひとつ。
つまらないから。
至極単純な理由だ。
決してイジメにあったとか孤立したとか弱者御用達の理由などではないんだ。俺は他の奴らとは違うのだと誠は頑なにそう思う。
誠が自分自身がコミュニティから逸脱した存在であると気づいたのは中学二年生の頃だった。クラスメイト達はあの流行りの曲かっこいいとかあの服欲しいとか(それが普通なのかもしれないが)
かたや誠は電子の砂漠を彷徨いながらこの世界を探求しその深淵を覗こうとしていた。そして理解してしまったのだ。
くだらない。何もかもがあまりにも幼稚だと。
誠にとってクラスメイト達は、狭い檻に飼われた哀れな猿にしか見えなかったのだ。猿、猿、低能な猿。うるさい猿。
自分は猿とは違う。いや、こんな猿を人と呼ぶのであれば自分は人ですらないのかもしれないとも思った。
世界からの逸脱者。それが自分なのだと。
狂ってる? それ褒め言葉ね。
やがて中三になる頃にはすでに、誠は学校へは行っていなかった。
誠は優越感に浸りながら辺りを見渡す。
現在彼がいるのはマンションの屋上にある菜園だ。今日食べる分だけを収穫していく。
このマンションはいくつもの不動産経営をしている両親が所有する物件のひとつであり、誠だけの城でもあった。学校へ行かなくなった誠を想い提供したのである。世間から見ればとんでもない親馬鹿か、はたまた出来の悪い息子を隠したかったのか。
どちらでも構わないと誠は受け入れていた。
結果としてそのおかげで彼はこうして生き延びているのだから。元から外に出ずマンションごと引きこもっていたおかげなのだから。
そしてさらに、誠は数少ないゾンビパンデミックを発生当初時点で対策をとることができた人間でもある。
ほとんどの時間をネットで過ごしていたからこそ、その情報を得るのが早かった。
海外掲示板やSNS、動画サイト等でそれこそようやく日本でもニュースになる以前にだ。
海外掲示板ではチラチラとゾンビ目撃情報の噂がたっていた。
この噂話もネタ扱いされていたが、誠は実直にも
「備えなければ――」そう思い至ったのである。
通販や宅配サービスで物資や武器を集め、マンションの出入口を予め封鎖した。それを見た近所の住人に何を馬鹿な事をと笑われたとしても今にわかるさと鼻で笑ってやった。
そして――運命の日。
日本最初のゾンビとされている動画配信者の男が搬送中に救急隊を襲ったというニュースが流れた日。誠は真っ先に理解したのだ。
『【速報】ゾンビ、ガチで出る』
だからネットのスレもたててやったのだ。
信じたなら備えろ。信じなければ死ぬだけだ。
あとは勝手に盛り上がるスレを眺めながら、日に日に悪化していくゾンビパンデミックを傍観する。世界はあっけなく終わるだろう。
しかし自分だけは特別だというなんの根拠もない薄っぺらな驕りとともに、誠はそれをただただ見ていた。
誠しか住んでいないマンションの屋上にはソーラーパネルが設置されており、菜園もある。
いわゆる夢の屋上菜園というやつだ。きっと誠がいなければそれなりに裕福な年配層からか、老人ホームにでもして金も取れただろうに。
「これでいいか」
野菜を採り終え屋上に設置されている憩いのスペースへ。
そこから景色を一望すればなんということでしょう。ゾンビ、ゾンビ、一面ゾンビである。
まさに終末。誠は眼下で徘徊するゾンビに愛銃コルトパイソンを構え、トリガーを引く。
パチン、という軽い音。
排出されたBB弾が弧を描き落ちていく。どう見てもエアガンだが誠の脳内では本物の拳銃に変換されていた。なんなら本物の銃弾どころかその銃口から眩い光の魔法が放射されているつもりだ。
ひと通り脳内でゾンビと戦う自分の物語を楽しんだあとは昼食だ。本日で十五日連続のカップラーメン。種類も豊富に買っておいたのでまだ飽きはこない。ちなみに今日はナポリタン味である。
そして付け合わせに先程採ったばかりの胡瓜を齧る。
そうやって過ごしながら、誠は日課であるゾンビウォッチングをし、ネット掲示板にその様子を書き込んでいた。といっても最初の頃は多かった閲覧者もほぼ大半が消えている。書き込みやSNSの更新はさらにだ。
自宅籠城していた連中も死んでいっているのだろうなと誠は見ず知らずの引きこもり達を少しだけ憐れみ、でもそれがおまえらモブザコのポジションだよねーと納得した。
そう。この物語の主人公は自分であると誠は自負している。
が、誠はこの安全なマンションから絶対に外へは出ない。冒険だなんだとわざわざ死地へは赴かない。ゾンビ映画やゾンビドラマの主人公なら物語を展開させるためにロードムービーよろしくと冒険に出て、そこで出会った仲間と協力したり仲間が死んだりヒロインが出たりヒロインが死んだり登場人物増えすぎたりもはやゾンビ相手でなく人間同士の戦いにでもなっていくのだろう。シーズンだけが無駄に増えて内容はどんどん薄っぺらになっていくのがオチだ。まさに炎上不可避。
だからこそ誠は外には出ない。
そもそも外に出れば絶対に苦労するのが目に見えているのだから。ならば悠々自適な今の生活を維持する方が大正解だろう。
「…………うん?」
ゾンビウォッチングの最中、誠はとある群れの中に違和感を見つけた。いや、正確にはあるゾンビにだ。セーラー服を着用していることから中学か高校生だろうか、そのゾンビは群れの中で何故か目立って見えた。何かがおかしいのだ。
そしてその理由に気づいた時、誠はまずあり得ない、と思った。
そのセーラー服はキョロキョロと辺りを見回しながらポケットからスマホを取り出し、ゾンビ達の写真を撮り始めたのだ。まるで記念写真でも撮るように。
ゾンビでは、ない。
生存者だ。間違いなく、そのセーラー服の少女は生きていた。
生存者でありながらゾンビの群れの中を平然と歩いているのだ。そいつはふと顔を上げる。
「……あ」
まずい、目が合った。
誠は咄嗟に身を屈めて隠れるが遅かったようで。そいつは誠に向かって手を振っている。しかもあろうことかこちらに向かってくるではないか。
なんだ、なんなんだよと誠は泣きそうになりながら慌てて愛銃コルトパイソンを握りしめる。
そいつはマンションの真下までやってくると
「ねーそこのきみー大丈夫――?」
気持ち悪いくらいに明るく声をかけてきた。
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