第22話 ゾンビインパクトが想像以上にシャレにならん。

「タカシくん大丈夫か!?」

 ゾンビの大群を一階へ落として、俺はまず場にいるメンバーの安否を確認する。

 タカシくんは沙織さんによって身体にくっついたままの手首を剥がされながら「はい、なんとか」とふらつき、腰をついた。沙織さんは「このやろー! くそやろー!」とゾンビ憎しと手首を取り外しては吹き抜けの下へ投げている。ゾンビのことをめちゃくちゃ怖がってたみたいだけど、成長したんだな沙織さん……。


 周りを見渡すと、この場にいる人数がかなり減っていることに気づいた。そういえばさっきの騒ぎでパニックになって逃げていった人達いたな……まあ二階フロアのどこかにはいるだろう。

 とにかく今は秋月ちゃんを捜すことが優先だ。



「あの、山本さん……」

 沙織さんがおそるおそる口を開く。

「さっきのって……一体どうやったんですか? そこの壁も」

「あー……」

 そういや言ってなかったよね。うーんそのまま言ってもいいものなのかどうか。

「まあうまく説明はできないんですけど、俺にはスーパーパワーがあるってことです」

「は、はあ……」

 あ、見てわかるわ。これ絶対伝わってないやつだ。


「とにかく俺は今から秋月ちゃんを捜しに行きます! 念のために皆さんは屋上へ移動して……」



 その時だった。

 頭上から突然耳をつんざくようなラッパの音と、それに続いて賑やかな音楽が流れ出した。馬鹿みたいにうるさい陽気な音楽に合わせて女性の声で『おはようございます!』と続く。

『本日のご来店誠にありがとうございます! ご来店のお客様にお客様大感謝祭のご案内を致します!』


「な、なに……?」

「これ、店内放送?」

「どうしてこんな……」

 今度は何が起きたんだと全員が天井のスピーカーを見上げ

「…………なあ、この放送……二階のスピーカーからしか流れてないぞ……」

 誰かがそう呟いた。その言葉に全員の顔が強張る。



「…………ま、まさか」



 ガガガガガガガガガ!



 重い鉄製のものが開いていく音が一斉に鳴り始めた。一階と二階を繋ぐあらゆる通路の防火シャッターが上がり始めたのだ。

 シャッターの向こう側にはゾンビの大群、おまけに二階は大音量で店内放送中ときたもんだ。ならどうなるか。


 答えは最悪だ。

 口が悪いがこんなのクソッタレすぎる。

 まさに最悪の事態だった。


 防火シャッターが完全に上がりきる前、すでに半分程開いた時点で一階にいたゾンビたちがその下をくぐり抜け押し寄せてきた。その様は昔野生動物特番か何かで見たヌーの群れだ。ライオンに追われながらひしめき合って疾る大群。

 ただ今回の場合はこいつらが捕食する側なのが大問題なわけで。


「くそが……!」


 おもわず俺は悪態を吐くと


「全員俺のそばに来い! はやく!」


 大声で叫ぶ。

「は、はい!」

 すでに近くにいたタカシくんと沙織さんはすぐに駆け寄ってくる。他の人たちもどうすればいいのかわからず狼狽えていたが、しかし状況が状況だけに従ってくれた。 それでも数人しかいない。

「あとの人たちは……っ」

 そうだ。さっき半数以上がどこかに逃げて行って



「ぎゃあああああああ!!!!」



 悲鳴が上がる。それどころか二階フロアのあらゆる所からか断末魔の絶叫。絶叫。絶叫。


 遅かった。

 先程逃げて行った人たちの声だ。彼らは一階から押し寄せてきたゾンビに捕まったのだ。そしてすでに俺たちのいる二階フロア中央部分、吹き抜けにもゾンビの大群が迫っていた。

「くそ……っ」

 気合い入れろ、俺!

 とにかく今近くにいる人たちだけでも守ることに集中するんだ!

 走ってくるゾンビたちを全員倒すか?

 いや数があまりにも多過ぎる。店内放送につられて外の駐車場にいたやつらまで集まってきているな。これでは終わりが見えない。MPが尽きればおしまいだ。

 ならどうする?


「全員屋上へ走れ!!」


 安全な場所を確保し、そこへ逃がす!

 まず俺は真っ先にこちらへ突っ込んでくるゾンビの大群を火炎球ファイアーボールで倒し、屋上へと続くルートを確保する。

「今だ! 走れ!」

 ゾンビ第二陣が来る前に全員を屋上へ行くよう促した。

「みなさんはやく! こっちです!」

 タカシくんと沙織さんが真っ先に動き、他の人たちを誘導してくれた。この場にいた全員は俺の指示に従い屋上へ向かって真っ直ぐに走り出す。


「よしいいぞ!」

「うあ゛ぁ゛あ゛――――ッ!」

「ち、もうきたのか」


 追いつかせるわけにはいかないんでね。

 いわば俺は殿しんがりってやつだ。


 さっそくやってきた第二陣のゾンビの大群に、今度は水属性魔法を発動させる。

水砲弾アクアショットだくらえ!」

 火炎球ファイアーボールほどの殺傷力はないが、それでも大群を一気に押し戻す。水圧によりゾンビの腐った肉体はぐちゃぐちゃに潰されそのまま一階へと落ちていった。


 だがすぐに第三陣がやってくる。

 やっぱり数が多すぎてキリがないな。ひとまず俺は先に屋上へ行った人たちの後を追いかけ


 視界の隅で、激しい吠声をあげながら走るチョコ太郎を捉えた。


「チョコ太郎っ!? おい!!」


 あいつ、屋上に行かなかったのか!?

 いや相手は犬だ。言葉も通じないだろうし当たり前だろう。だが秋月ちゃんの大切な愛犬だ。

 助けないと!


「戻れ! こっちにこいチョコ太郎!」


 俺はどこかに走っていくチョコ太郎に向かって叫ぶ。だがチョコ太郎はチラリとこちらを見はしたが、そのまま足を止めることはなかった。迫りくるゾンビの大群の中へと突っ込んでいって、姿は見えなくなった。


「あいつ……!」


 人間しか襲わないゾンビなら放っておいても大丈夫だっただろうが、こいつらは人間以外でも襲うし食べる。町を見て回っていた時にペットらしき動物を見ていないのだ。


 だが、それでもチョコ太郎のあの様子を見るにきっと……あいつは秋月ちゃんを捜しにいったんだ!


「秋月ちゃん……っ」


 俺もすぐにチョコ太郎と供に行きたいが、今は


「山本さん!」


 タカシくんが屋上へ続く階段の上から呼んでいる。全員屋上へ避難できたのだろう。いや、全員ではないな。ゾンビたちが大勢押し寄せてきた時に俺のそばにいた人たちだけだ。最初いた人数の半数以上はどこかへ行ってしまった。すでにゾンビにやられた人たちもいて


「た、たすけてくれええええええ!!!」


 どこからか悲鳴が聞こえた。

 俺はその声がした方を向き


「そのまま屋上のドアを閉めてろ!」


 タカシくんがドアを閉めたのを確認して、階段前に防壁を作る。これでゾンビたちは屋上へは登れない。


「たすけてええええええ! だれか! だれかああああ!」


 悲鳴は続いている。


「今行く! まってろ!」


 俺は声のする方向へと駆け出した。

 今はここにいる人たちの救助が優先だ……チョコ太郎、秋月ちゃんを頼むぞ。

 秋月ちゃん……無事でいてくれよ!


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