第18話 異能力チートおじさん、パシリにされる。

 ショッピングモールの二階にあるフードコートにはテーブル席はもちろん、入っている飲食店を借りれば調理場もあるため食事の際はここに集まることになっていた。それと同時に全員の精神状態や健康状態を把握するためでもある。


 すでにガスや水道が止まっており調理をすることこそできないが、まだ生きている電気のおかげで冷蔵庫が使えるのは唯一の救いだろう。

 それでも電気だっていつまでもつかわからないと西園寺は言っていたが。


 全員で少しずつ西園寺が持ってきた缶詰を分け合う。量がかなり少ないのを見るに、本当にもう食料がないらしい。

 あ。ちなみにだがもちろん俺の分の食事はなかった。こればかりは仕方ないね。

 配給している西園寺に頭を下げられたが別に気にしないよと断り、フードコート内に散らばるようにして座っている生存者たちを見渡す。


 お、いたいた。俺はフードコートの隅に真っ直ぐ向かい、女子高生の隣へと腰かける。


「なに?」

「いやー……」


 つい隣にきてしまったのはいいが、何から話せばよいのやら。

 しかし今彼女以外の人達からはあからさまなくらい印象悪いんだよなー俺……

 どうやら全員からは俺だけ一人でずっと隠れていた卑怯な奴だと誤解されているようで。

 弁解すべきなのだろうか……うーむ


「…………顔、大丈夫だった?」

「えっ?」

 なんて考えてたら女子高生の方から話しかけてきた。彼女はドッグフードをチョコ太郎に与えながら、横目でちらりと俺の方を見る。

「さっき、殴られたでしょ?」

「あー……まあ、うん」

 あの金髪め。俺が体の弱いタイプの、そう、痛風系ヘルニアおじさんだったらどうするつもりだったんだ! ごめんなさいじゃすまないだろうに。

 やれやれと殴られた頰を摩ると……腫れはすでにひいていた。痛みももうない。

「うん?」

 おもいっきり殴られたはず、だよな……? なんだよあいつ案外力がないんだな。


「全然平気だよ」

 俺は答える。

「……みんな、最初は今みたいじゃなかったんだよ」

「え?」

 そう言って彼女は膝を抱え、顔を埋める。

「この二週間みんなで協力し合って生き残ろうとしてたんだけど……助けもこなくて、昨日五人も死んじゃって……きっともう、限界なんだと思う……」

「そっか……」

 ここに来た時から、生存者たちの顔に余裕がないのはなんとなくわかっていた。でもこんな状況なんだから仕方ないことだ。

 俺だって異能力チートがなければきっともう死んでいただろうしな。でも


「……きみは?」

「え?」

「きみは大丈夫なの? 他の人より落ち着いて見えるけど」

「私にはチョコ太郎がいるから」

 だから大丈夫。そう言ってチョコ太郎を抱きしめる。

「あとおじさん」

「ん?」

「きみじゃなくて秋月あづきだよ。草加秋月くさか あづき

「お、おう。わかった、草加ちゃんね」

 あらためてよろしくと握手を求めたが

「秋月の方で呼んで。名字はあまり、好きじゃない」

「あ、うん。じゃあ秋月ちゃんね。そうだ。なら俺のこともおじさんじゃなくて名前で呼んでくれたら嬉しいなあ……なんて」

 すると秋月ちゃんは軽く笑い

「そうだったね……じゃあえーと、紘太さんね」

 そう言って俺の手を握り返した。

 おおうまさかの下の名前呼びかい……最近の若い子ってこんなものなのかなあ……。俺はちょっと気恥ずかしくなったが


 あ、そういえば。


「秋月ちゃんさっきさ、屋上で何か言おうとしてなかった?」

「え? あー……」

 あれか、と秋月ちゃんが視線を正面に向ける。

 その先にはフードコート内にいる他の生存者たちと、例の金髪のいる大学生グループ、そして西園寺がいた。


「私も本当はこんなこと言いたくないけど……みんながほんとに良い人じゃないかもしれないってことだよ」


 生存者だからといって全員信用するなということだろうか。まあ、気持ちはわかるけど。あの金髪なんてずっとイライラしてるし……うん。許さん。


「なんとなくわかるけど、なんか怪しい人でもいたの?」

「……わかんない、でも」


 秋月ちゃんの表情は、どこか寂しそうだった。



★★★



 二階フロアにある窓から西の空に傾いていく夕陽が見える。夜間はモール二階にあるわずかなフロアのみ明かりをつけ過ごすらしい。

「電気がついてるとみんな安心できるから」

 俺の横で秋月ちゃんが言う。

「え、なんで?」

「だってまだ電力が通ってるってことは、発電所とかは無事、最低でも人が生きてるって事でしょ?」

 あー、なるほどなあ。

 たしかに言われてみればその可能性があるか。最近では無人の所も増えてるって前に会社の誰かが話してた気がするけど……それでも隔離された空間にいる生存者たちにとったら、止まっていない電気が自分たち以外の生存者がいる証しでもあるのだろう。


 ……俺って電気も出せるよな。

 ふと自宅で試し撃ちしたデスビーム、もとい電撃破を思い出した。うーんアレもなんとか改良しないとなー。





「山本さん」

 日が沈む頃西園寺に呼ばれ吹き抜けの方へ向かうと、そこにはすでに生存者たちが全員揃っており俺を待っていた。その中には秋月ちゃんもいて、なぜかおもちゃの太鼓を持っている。

 よく見れば他のみんなもそれぞれ鍋やら楽器やら手にしていた。

「え? 今から演奏会?」

「なわけないでしょ」

 きっぱりと秋月ちゃんに否定された。


「やつらを誘導するためですよ」

 西園寺が大きなボストンバッグを持ってくると、それを俺に渡す。

「僕らが吹き抜けから音を出してやつらの注意を引いておきます。その間に山本さんには倉庫へ行って……」

 そしてもうひとつ、手書きされた地図を渡される。そこには食品売場からのルートが書かれていた。

 へー、ここから食料庫に行けるわけかー。ショッピングモールってこんなになってんだなあ。


「紘太さん」

「うん?」

「…………本当に、大丈夫なの?」


 秋月ちゃんが心配そうに聞いてくる。

 その周りにいる他の人たちも、西園寺の案を止めはしなかったが、さすがに不安そうだ。というよりも呵責の念に苛まれてるような顔で。

 まあいくらなんでもたった一人で食料調達なんて無理だと思うのは当然だろうし普通に考えて殺されに行かせるようなものだもんな。それをわかっていて行かせるのは心が痛むってことか。


「大丈夫大丈夫」


 だからこそ俺は余裕のピースサインを全員に向けてアピールしてから


「ああ、それと吹き抜けで音出すのはいらないですよ」


 そう付け足すと全員が目を丸くし、心苦しそうだったのが一転こいつ馬鹿なのかという表情に変わる。


「……山本さんそれはどういうつもりで」

 さすがの西園寺も怪訝そうだ。

「いや、そのままですよ。それじゃあ行ってきますねー」


 そう言って俺は西園寺に言われた食品売場付近に繋がっている防火扉へとノリノリのスキップで向かってやった。よし、これでみんな安心してくれたはずだ。


 しかしそんな俺の後ろ姿に秋月ちゃんは呆れ、その横にいたカップルが「あの人頭おかしいのかな」と呟いたが、俺には聞こえていなかった。



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