第17話 おじさん異能力チートだけどショッピングモールの生存者がめっちゃ怖い。

「おっとここも行き止まりかー」

 隠密透明化を使ってショッピングモール一階の正面から入ったのは良かったけど

「うーん、行けるところが限られてるなあ」

 あちこちが防火シャッターによって封鎖されていた。シャッターを壊すわけにはいかないしな……横にある扉にも鍵がかかっている。

 どうやらこのままフロア全体を回るのは難しそうだ。


 さて、どうしたものか。


「どうしましょうかね?」

「いれテェ……イレてェ……」

 隣にいる女ゾンビに聞いてみたけどもちろん返事はない。というか俺に気づいてない。隠密効果のせい……いやおかげだな。声も聞こえていないようだ。

「あ゛ぉ……ぉ……」

 のろのろと別のゾンビが目の前を通過していく。

「…………なるほど」

 隠密透明化のおかげでゾンビたちを近くでよく観察しているうちに、俺はゾンビに二種類のタイプがあることに気づいた。

 ただ呻き声をあげているだけの奴と、同じ単語を繰り返している奴がいる。

 どちらとも戦って……というか一方的に倒してみたが違いがあるようには見えなかったし……他に何か違いがあるのだろうか。

 なんというか、単語を繰り返してる奴は不気味度が増すんだよなー……。


「ここもだめか」


 もう少し行ければ吹き抜けのある辺りに着くんだけど……ここからは行けないか。だったら……


「そうだ。屋上からいってみるか」


 せっかく正面入口から入ったけど、仕方ない。

 一度外に出て屋上に回るとしよう。



「明かりがついていたのはどこだったかな……」


 夜になってから来るべきだったか?

 俺は飛行魔法を使いまずはモールの外周を見て回る。どこもボロボロで、やはり一階には生存者は残っていないか。

 屋上から中に入って、二階に降りるとしよう。



「ん?」



 誰かいる。

 屋上の壁にもたれながら眠っている女の子と、その隣はおそらく女の子の愛犬だろうか。


「おお、生存者発見だな」


 寝ているところ悪いけど、ちょっと起こして話を聞くとしよう。

 あ、犬が起きた。


 俺はそのまま女の子に近づき……怪しまれないよう精一杯爽やかな挨拶をした。




★★★




「ウギャ――――――!!」

 ショッピングモールの屋上で悲鳴があがる。俺の。うん、俺の悲鳴だ。

 尻には女の子の連れていた大型犬が「グルルルル」と呻き声を上げながら噛みついていて


「もげるぅ! ケツもげるぅ!」


「チョコ太郎ストップ!」

 女の子がそう言うと、大型犬はパッと離れ彼女の側へ戻っていった。

 俺はそのまま地面に崩れ落ちる。

 持っていかれた……ケツが……持っていかれた……。

 両手で自らの尻の有無を確認し……あ、良かったあったわ。

 女の子はひとり「夢じゃないのか……」なんて呟いてるし! こっわ! 夢かどうかの確認にここまでするの!? しかも俺の尻で!? 最近の子コワイ!

「おじさん」

「へっ?」

 女の子に呼ばれ顔をあげると、毛布でわからなかったがその子が着ているのが制服だとわかった。女子高生が仁王立ちし俺を見下ろしている。

 おいおい女子高生だったの……か……あ……パンツが、見え……


「うおおおおおおおッ!?」


 俺は顔をおもいっきり逸らした。

 ヤバイヤバイ! 最近そういうのめちゃくちゃ厳しいのに! 異能力チートが覗きで逮捕とか馬鹿すぎるだろ! 今そういうのマジで厳しいからダメゼッタイ!

「おじさんさ……」

「はえっ!? あっ、は、はい何でしょうか!?」


 女子高生は怪訝そうに俺の方を見て、


「……本当に」


「なんだ今の声は!? 何かあったのか!」


 突然屋上の扉が開いた。

 そこには二階にいた生存者たちが数人、俺を見るなり


「誰だお前は」


 ですよね。

 まあそうなりますよね。


「ええーと……」


 全員の視線が俺に向いている。こんなに人から注目されたのなんて、昔一度会社のプレゼンに立った時以来だなあ……そうそう、あの頃俺はまだ新人で資料をど忘れするわ噛みまくるわで散々な結果だったっけ……しかもそのあとの飲み会で上司に散々どやされて……ああ……あの時は本当につら


 なんて思い出に浸ってる場合じゃねえ!!



「お、俺は山本って言います。山本紘太です」



 慌てて名乗るが、全員の顔は相変わらず険しいままだった。というかめちゃくちゃ睨まれてないか? え、なんで?


「……じゃあ山本さん、こっち来てもらえる?」

「あ、ハイ」

 言われるままに俺は屋上に駆けつけた人達の後についていく。おそらく他の生存者たちがいるところへ連れて行かれるんだろうなーなんて考えていると

「……おじさん」

「ん?」

 女子高生が小声で話しかけてきた。なんだい女子高生? そういやさっき何か言おうとしてなかった?

 女子高生は俺の方をじっと見て

「……さっきみたいなのは、あまり人にペラペラ話すべきじゃないよ」

 それだけ言って先に二階へと降りていった。彼女のあとに続いて大型犬、たしかチョコ太郎って呼ばれてたな、チョコ太郎が俺の方を一度振り向き「ふんっ」と鼻を鳴らした。


 さっきの話?

 俺が異能力チートだって話だろうか。

 それを話すべきじゃない……か。なんでそんなことを……。それでも彼女がそう言った時の真剣な眼差しが引っかかり、俺も少し様子を見ることにした。



 二階に降りると、そこでは残りの生存者たちが身を寄せ合っていた。思ってたよりかなりの人数がいるな。

「西園寺さん」

 その中のリーダーっぽい奴の前に連れていかれる。

「その人は……」

「屋上に隠れてたんですよ、こいつ」

「屋上に……?」


 西園寺さんとやらは信じられないという表情で俺を見る。まあいきなりこんなおじさんが来ても困るよねー……


 …………ん? 今隠れてたって言った?


「いや俺はっ」

 慌てて訂正しようとしたその時だった。


「このっ! 卑怯者があああッ!!」


 突然怒り狂ったように金髪男が俺の方に走ってきて


「えっちょ!?」


 なんだいきなりと思ったが時すでに遅し。

 そいつの右ストレートで俺は殴り飛ばされていた。

 俺はおもいっきり床に倒れ、わけのわからない展開に「え? えっ!?」とキョドりまくる。

 なんで殴られたの俺? ていうかなんで初対面でいきなり殴るのコイツ? コワ! めっちゃ怖いんだけど頭おかしいの!?


 周りを見れば誰も金髪を止める気配すらない。

 むしろ全員が俺を蔑むような眼差しをしてるんですが。

 いやなんで? という顔で女子高生の方を向くと、彼女は苦しそうな顔で小さく首を振った。



「山本さん、と言いましたよね」



 西園寺が近づいてきて、俺に手を差し出す。

「実は昨夜五人の犠牲が出たばかりで……そのせいもあって彼は気が立っているんです。まさか突然殴りかかるなんて……抑えられなかった僕の責任です……すみません……」

「あ、いえいえ、こ、こちらこそ……?」

 俺はその手を握り返し、起き上がる。


 そうか、昨日の夜に……かなり悪いタイミングだったんだな俺……


「ですが」

「?」


「我々が命懸けで過ごしてきたこの二週間、一人だけ協力せずに隠れていたあなたにも責任があるんですよ」



 ……………え?



「なので、これからその責任分の仕事をしてもらいますね」



 そう言って西園寺は下の階をゆっくりと指差す。



「山本さんにはひとりで、食料庫まで行ってもらいます」



 その瞬間、周りが一斉に凍り付いた。

 しかし俺だけは



「……ハア」


 そうですか。

 え、そんなんでいいの?

 見れば西園寺の背後では同じグループなのだろうか、大学生くらいの若い奴らがニヤついていて。おうおう腹立つなこいつら。許さん。

 なんかよくわからんけど。

 どうやら俺はパシリにされるらしい。


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