第36話、スタジオジブリで鈴木Pが映画館は音響を良くしろと吠えアニメ『AWOL』が評判にならずに終わり『サクラ大戦2』に時間をとられ飯野賢治が友だちを作れと諭す

【平成10年(1998年)4月の巻・下】


 中央線沿線はアニメーションスタジオの宝庫で、三鷹にはプロダクションI.G.があり阿佐ヶ谷にはサテライトがあり武蔵境にはJ.C.STAFFがあります。そして東小金井には何があるかと言えば、あのスタジオジブリがあります。


 三鷹から立川方面へと向かう途中で降りて、少し線路を戻った辺りに立つそのスタジオジブリで、ブエナ・ビスタ・ホームエンタテイメントが、ビデオシリーズ「ジブリがいっぱいコレクション」の1本として、『もののけ姫』をいよいよビデオ化して平成10年(1998年)6月26日から発売することになったという発表を開いたので行きました。


 目黒のアルコタワーにあったブエナ・ビスタ・ホームエンタテインメントを尋ねていた頃、だいたいラフな格好で出迎えてくれた星野康二代表が立場を上げたからか、背広にネクタイ姿で来場していたのに対し、鈴木敏夫プロデューサーはチェックのシャツにコットンパンツに裸足で雪駄という格好。最近のような作務衣姿ではなかったですが、スタジオジブリ・カンパニーのプレジデントという当時の役職にある人には見えませんでした。


 会見では、星野代表から全米での『もののけ姫』公開に向けた声優選びが進められていて、配給のミラマックスがアシタカ役をレオナルド・ディカプリオにするべく工作を行っている旨、報告がありました。モロ役はグレン・クローズでジコ坊役はロビン・ウィリアムズかジム・キャリーかダニー・デビートといった具合にスターがそろい踏みとなっていましたが、結果はアシタカがビリー・クラダップでモロはジリアン・アンダーソン、ジコ坊はビリー・ボブ・ソーントンとまるで違った人たちに。ちょっとラッパが吹かれすぎた感じです。


 鈴木プロデューサーは、「映画は映画館で見て欲しいし、作る側も映画は映画館で回収できることを1番に考えて作らなくっちゃダメ」だからと、ジブリ作品はパッケージを結構な値段でリリースしていましたが、『もののけ姫』に関しては「もう回収しちゃったから、ビデオはまあおまけみたいなもの」だということで、4500円と映画としては安い値段で発売することになったようです。今から見ても結構安いかしれません。目指す本数は500万本とのことでしたが、どれくらい行ったのでしょう。


 あと、鈴木プロデューサーは「最近の映画館は上を2割もカットしたりドルビーとは名ばかりの酷い音声を流したり。ビデオの方がよほど映画に近い形で見ることができる」とも話して、映画館の音響にクレームをつけていました。以前に取材した時にも、作品が良ければ客は来ると勘違いしている劇場の増加を嘆いていたようです。昨今、音響監督の岩浪美和によって、爆音なり極音なりドルビーアトモスといった音響に凝った上映が進められています。映画館を特別な場所にする試みとして、認知され人気になっています。20余年前にそうした指摘をしていた鈴木プロデューサーは、やはりタダモノではなかったと言えそうです。


 会見の後はスタジオジブリの見学会。奥の方で色がいっぱい描かれたチャートを周囲に配置して横に絵の具をズラリ並べたちょっと年輩の女性が、若い人にあれやこれやと指導していて、「おお彼女こそがジブリを色で支えた保田道世さんだと感動の眼差しを」贈りました。届いたかは不明です。2016年に亡くなられたのは残念です。


 壁にはコンピューターの配置表が張ってあって、1台1台のコンピューターに「アシタカ」とか「エボシ」とか「パズー」とか「シータ」といった名前がつけられていました。ちょっと大きいコンピューターが空調の入った部屋にあって、名前はやはり「ししがみ」だったようです。


 屋上には、有名になったトリケラトプスの頭の骨のレプリカもあったようです。良い風に当たって、こういう環境で人はゆとりというものを味わえるんだと思った記憶。後、いったんの閉鎖を経たスタジオジブリですが、宮崎駿監督の長編への復帰を受けて活気は戻ってきているのでしょうか。そして良い風は吹いているのでしょうか。仕事でなくても見に行きたいと思いました。幸いに時間はたっぷりとありますから。


 4月ということで、テレビアニメが始まったり終わったりしていたようです。始まった作品では『トライガン』の格好良さにうなっていました。当時はまだ、内藤泰弘の原作コミックに触れてはいませんでしたが、どこか謎めいたところを秘めながらも普段は三枚目然とふるまうヒーロー、ヴァッシュ・ザ・スタンピートが追いつめられて逃げ出して、ドタバタしながらそれでも相手をやっつけてしまう「王道」を行くヒーローぶり、絡むメリル・ストライフとミリィ・トンプソンというヒロイン2人のコンビっぷりに引きつけられました。メリルの声は急逝された鶴ひろみさん。凜とした声を聞かせてくれました。


 一方、『AWOL -Absent Without Leave-』というアニメが月をまたいで最終回を向かえたようで、見終わって「これほど評判にならなかったアニメは世紀のアニメブームの中でも本当に本当に珍しいんじゃなかろーか」という感想を書くくらい、盛り上がらないまま記憶の片隅に追いやられている感じです。


 もっとも、主題歌の「ROCKET DIVE」はX JAPANのhideで、ソロになって初のシングルとして注目されていましたし、番組では自作「ピンクスパイダー」のCMも流れ、これからの活躍が期待されていました。けれども5月2日に死去。そこで『AWOL』への関心も高まるかと思ったものの、触れられた様子はありませんでした。


 連邦を裏切って叛乱を起こした軍人を鎮圧するため、犯罪者だが一芸を持ったものたちを送り込んで戦わせる、という設定のミリタリーSFアニメで、玄田哲章が演じる愚直な軍人が目立っていたという記憶がありますが、いかんせんLDくらいまでしか出ず、DVDが出た気配はありません。今はいったいどうすれば見られるのでしょう。二〇世紀末の気になるアニメの上位10本には確実に入る作品と言いたいです。


 ゲームは4月4日に発売された『サクラ大戦2~君、死にたもうことなかれ』をしばらく遊んでいました。今は無きメッセサンオーで購入し、都営地下鉄が発行していたTカードのサクラ大戦バージョンを抽選で当てて喜んでいました。神崎すみれをメインに『スミレ大戦2』としてプレイしていたようですが、印象として7人に隊員が増えたことで、戦闘場面が少し長くなったり、1話に戦闘が2回もあったりして、1話を終えるのに2時間くらいはかかっていたようです。


 映画を1本見られる時間を楽しめる、それが10話以上もあるのですから結構な話ではありますが、それだけ物語を作り込んでも今はどれだけの本数が出るのかと考えた時、発表された『新サクラ大戦』が従来からのドラマティックアドベンチャーではなく、アクションゲームになったのも分かります。遊んでどう感じるか。気にはなりますがプレイステーション4を導入している余裕もない身、感想はプレイヤーにお任せします。


 そんな「サクラ大戦」シリーズを手がけた広井王子が、コナミのゲーム学校の入学式で喋って、33歳でゲーム業界にデビューするまでに、たくさんの血の涙を流して来たけれど、それを見せるのは絶対にダメ、なぜならゲーム業界はサービス業なんだから、お客さんがいてそれを楽しませるためには、何人死のうが何人倒れようが、それを外に伝えることはない、出来たものだけがすべてと訴えたそうです。これぞプロフェッショナルですね。


 そして同じ入学式では、ワープの飯野賢治も登場して、何年も講師の仕事をやって来て感じたのは、伸びるのは友だちの多い人で、どこか暗い雰囲気の漂っていた学生に向かって、このままでは全員ダメになるぞって脅してたようです。これも真理です。いろいろと壁にぶつかった時、支えてくれるのは友だちだということでしょう。まさに壁にぶつかっている自分だけにそう思います。


 飯野賢治は、朝日新聞社の週刊誌「AERA」の「現代の想像に」も取りあげられていて、相当な苦労をその地位にたどり着いたことが明かされました。ゲームアナリストの平林久和やゲーム作家の飯田和敏が、飯野賢治の持つ作家性や純粋さを裏付けるコメントをしていました。友だちが多かったから、世間的には無茶に見えたプラットフォームの大移動も、分かってもらえて非難も起こらなかったのかもしれません。


 記事が、「入交さんとは週3回会ってます。大きな会議にも呼ばれます。大川功さんとも仲がいいですし、アスキーの廣瀬さんも……」という飯野賢治の言葉を取りあげられたのは、そこに危うさを感じたからもしれません。大人の人たちを満足させるために何かを失ってはいないか、といったことも思い浮かびました。


 偉い人たちのお墨付きを得て作る自由を得たのは、クリエイターとして正しい戦略にはなっていました。けれども、お墨付きという暗黙のプレッシャーに縛られては意味がありません。飯野賢治の場合はどう働いたのでしょう。蜜月がピークを迎えた『Dの食卓2』より後で、ワープと飯野賢治は何かを残せたのかと考えた時、どこかで踏み間違えた道があるような気がします。と、まさに道を踏み間違えている最終のわたしが言えることではまったくないのですが。


平成10年(1998年)4月のダイジェスト、下編でした。

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