第28話、OVA『フォトン』が出て堀江由衣のEDに衝撃を受け映画『ラブ&ポップ』に身を苛まれ三洋証券の破綻を目の当たりにする

【平成9年(1997年)11月の巻・上】


 『フォトン』というOVAが好きです。「天地無用!」シリーズの梶島正樹が原案を手がけ、舛成孝二が監督したアニメーションで、平成9年(1997年)11月21日に第1話が出てから平成11年(1999年)2月18日までに全6話でリリースされました。堀江由衣のほぼほぼデビュー作にあたるアニメとしても知られています。パンチの効き過ぎたエンディング「PINCH!」は聞けば耳に残る歌声です。いろいろな意味で。


 「天地無用!」シリーズが好きだったこともあったのですが、「月刊アニメージュ」が掲載していたOVAレビューで、いつも辛口のあさりよしとおが星を4つも付け、ほかの4人も星5つが3人に星4つが1人と最高に近い評価ぶり。これは面白いに違いないという思いから発売日にLDで買った『フォトン』の中身は、冒頭から山ほどの裸が登場して目を引きつけるだけでなく、「ストーリーの骨格も作画の完成度もすべてにおいて1級品の作品」だったようです。疾走があって爆発があって謎もあって。オリジナルですからさっぱり見えない展開に興味を惹かれました。


 「あー」とか「うー」とかしか言わない主人公フォトンの竹内順子も、その新妻にさせられてしまったキーネ・アクアという美女を演じた黒田由美も、まるで人間兵器みたいな存在で、ヒロインなのかお騒がせキャラなのか不明だったアウン・フレイヤの堀江由衣も、当時はそれほど知られていない声優陣でした。新鮮さを買ったのでしょうか。後に竹内順子は『NARUTO-ナルト-』でうずまきナルトを演じ、堀江由衣は『ラブひな』の成瀬川なるを経て大ブレイクを果たします。そんな2人の原点と言えそうなアニメです。


 監督の舛成孝二もこの後、『R.O.D』のOVAやテレビシリーズ、『ココロ図書館』『かみちゅ!』『宇宙ショーへようこそ』といった作品で評判になります。そうしたさまざまな原点を持った作品もまた、LDなどで出た後にDVDにはなりましたがBlu-rayにはなっておらず、DVDにはとてつもない値段がついています。言及することで『VIRUS』同様に注目が集まり、復活へと向かえば良いのですが、それだけの力がわたしにはありません。どうか応援を『フォトン』に。そして『VIRUS』に。


 『新世紀エヴァンゲリオン劇場版』の春と夏の2作に続いて、庵野秀明監督が手がけた映画を試写で見ていたようです。これが実写ということで、製作が公表された時には誰もが驚きました。村上龍の小説が原作の『ラブ&ポップ』です。見た印象は「監督庵野秀明(新人)はやはりタダモノではなかった」といったものでした。


 「小型のCCDカメラらしきものを額とか足の付け根とかに取り付けて撮った映像を多用したり、電子レンジの網ごしとか扇風機の回転するプロペラごしとかに撮った映像をつなぎあわせていく手法などは、アニメでもたびたび見せた作画の文法に近いものがある」。そんな感想も持ちました。


 内容については、「4人の女子高生を軸に展開されるドラマを見続けていると、映像という目眩ましの向こうから呼びかけてくるメッセージに気がつく。それは背骨に焼け火箸を突っ込まれてかき混ぜられるような、実に不愉快な気分だが、やがて不愉快に思った理由が、自分の心の疚しい部分、劣等感、罪悪感が映画の中に映し出されていたからなんだと気がついた瞬間、画面から押し寄せてくる強大なパワーに圧倒されている自分がそこにいる」といった感想を上げています。


 4人のヒロインたちの中にあって、ひとり目的を持たず生きている三輪明日美演じる少女を捉えた内容から、「普通であることに素晴らしさではなくつまらなさを覚え、優越感ではなく劣等感を覚えてでもどうしたらいいのかわからない、わからないなりに何かしようともがき苦しむ今のすべての人たちを、体現した姿なんじゃないだろうか。男にも女にも子供にも大人にも、等しくなんらかのメッセージを伝える映画」と評しています。


 手話ができてヌイグルミに話しかける浅野忠信の豹変。エンディングに流れるへたくそなカラオケの『この素晴らしい愛をもう1度』に載って渋谷川を歩く女子高生たちの勇ましさ。いろいろと特徴もあって何度も見返す必要を感じたようですが、果たしてDVDは買ってあったのでしょうか。


 「週刊SPA!」に「エッジな人々」というコーナーがこの頃にはできていて、そこに現代アーティストの村上隆が登場しました。今でこそ世界が名を知るアーティストですが、当時はまだ新聞もあまり取りあげていない時代に、よくぞ一般週刊誌が取りあげたものだと感心しました。「『日本はアートも音楽もなくて結局アニメの国だ』みたいなオタク的論法にそのままハマっちゃう」と語っていたようで、一部エリート主義を牽制しつつ広く届けていくような活動が必要といったあたりを示唆していたようです。


 金田伊功的ギミックのカタマリのようなアニメ作品を作りたがっていることが紹介されていて、この頃から映像への興味が強くあったことが分かります。その夢は後に結実しますが、まだまだ続く夢は途中でいろいろある様子。『シックスハートプリンセス』はどこまで来て、どこへと向かっていくのでしょう。


 そんな村上隆を取り扱っていた小山登美夫ギャラリーから、奈良美智の作品展が12月に開かれるという案内が来ていました。当時担当していた「SPA!」の書籍紹介コーナーで作品集『深い深い水たまり』を取り上げていて、人気が高まっているアーティストだとは感じていましたが、まさかここまで世界で大爆発するとは。「可能ならば1枚2枚3枚と作品を購入して」みたいとウエブ日記には書いてあります。もし可能だったら今ごろは……。叶わなかった夢を追うのはいい加減にしないと、心が潰れそうです。


 三洋証券が潰れました。バブル崩壊があり証券不祥事もあって株価が低迷しながら、それでも準大手だけあって続けて来た経営が行き詰まりました。休日出勤していたこともあって11月3日の午後8時から、東京証券取引所で開かれた記者会見に行って話を聞きました。預けたお金がなくなるかもしれない銀行とは違い、保護預かりしてもらっている株券は、それを勝手に売り買いでもしていなければ帰って来ますから顧客に不安はなかったでしょう。社員の人には将来への悲嘆がよぎったと思います。今になってその気持が分かります。


 ちなみに三洋証券で会長を務めた土屋陽三郎は灰皿のコレクターで、「たばこと塩の博物館」に寄贈をしていて渋谷にあった時代に展示室で見ることができました。墨田区に移転した今はどうなっているのでしょう。毎日が日曜日のようになってしまた今なら、好きな時に見に行けそうですが、当時の三洋証券の社員同様、心が落ち着かないのでしばらくは無理そうです。


 これから21日後の11月24日に、四大証券の一角だった山一証券が自主廃業を発表します。野澤祥平社長が涙を流しながら「社員は悪くありませんから」と訴える映像は、平成の経済史を語る上できっと出てくる場面でしょう。この山一の廃業話が、不思議とわたしのウェブ日記には触れられていません。書くに耐えなかったのでしょうか。今となっては分かりません。


 このほか、中国に行った話とか、CD-ROMの界隈に感じていた話がありますが、長くなりそうなのでこの月は上下に分けます。


平成9年(1997年)11月のダイジェスト、上編でした。

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