第18話 コントラスト城

白い城壁、頑丈な城門、長い廊下に赤いカーペット。


屈強な兵士が等間隔に配置されている城内、その前を忙しそうに通る使用人達。


城下町と水平線を見渡す事が出来る場所に聳え立つこの建物は、コントラスト王国で最も有名かつ、最も捻りの無い名称だと有名な《コントラスト城》だ。


そんなコントラスト城に、私は無理やり足を運ばされている。




何故ここに居るのかと言うと、背負い投げ事件の直後……ライのお迎えである四頭のペガサスがひく豪華なペガサス車が、緊急時以外馬車・ペガサス車立ち入り禁止区域である校舎前の石畳に現れた事が始まり。








「ライっ、あんたペガサス車がここまで入ってきたら駄目だって、分かってるのよね!?」




投げ飛ばし事件の後、激しく言い争いをしていた勢いが残っている事もあり、野次馬だけではなく新聞社の取材人まで集まってきたにも関わらず、子供を怒る母親のごとく私は怒り続けていた。


それに対して、ライも負けじと言い返してくる。




「俺は王のたった一人である実子、第一王子だ。昇降口までペガサス車で迎えに来るはずだったのに、俺が狂暴女に襲われ終わっても着いていなかった。御者は解雇だな。」




さっきまで尻が痛い、腰が痛いと嘆いていた奴がよく言うよ。


口と学力のレベルだけは上がってる所だけ見ると、未来の国王としてやっていけるのかが心配だ。


顔と中身が全く違う、これをギャップ萌えと思えるなら良いのだが、残念な事にライはギャップ萌えではなくギャップ萎えとでも言った方が正しいだろう。




「スノーホワイト、乗れ。」




「どこの俺様だよ。」




「コントラストの王子様だ、いいから乗れ。」




巧い返しに乗せられて、イザベラに一言伝えてから私はペガサス車に乗った。


私が普段乗るペガサス車内もかなり豪華だと思っていたが、久しぶりに乗った王族専用車は褒めるを通り越して気が引ける豪華さ。




シンデレラも乗車を躊躇する事間違いなし……なペガサス車は、一流御者の巧みな技によりグンッと高度を上げて、それでいて安定感のある空中飛行を保ったままコントラスト城までの安全運転を果たした。


それにより、身勝手なライの解雇宣言は、ライ自身が訂正。


御者のおじいさんはライと付き合いが長いのか、まるで孫を見守るかの様に微笑んでいた。


もっと厳しく行こうよ。


こいつ、車内で私に「父さんに絶対謝らせるからな!」って、屑宣言しているのだから。








そんなこんなで城に着き、現在は王族や王と親しい貴族が使う広間に居る。


細かな刺繍がほどこされたテーブルクロスがひかれる円形テーブルに、お互いの顔を見れる形で座りつつライの言い分を聞いているのだ。




「こーであーでそーで、それで今、スノーホワイトを連れてきた!」




途中眠くもなったが、これから色々起こるのだから、必殺技である目を開けたまま寝る技を出すまいと、自分の腿をつねりながらライの話が終わるまで耐えきった。




私はこの先で待っている言葉を知っている。




「ライ……。」




肩を震わせて、地の底から現れる怪物の様に低い声で、王はライの名前を呼んだ。




チクタクチクタク、柱時計が王の言葉の間を最大限まで引き立たせたその時。




「スノーに謝れぇぇぇ!!」




「フッ。」




あ、いけないいけない。


王の言葉を聞いたライの顔が、面白すぎて冷静に噴き出してしまった。


我ながら性格の悪さが目に見える


いつからこんなになったのか……ま、取り敢えず誤魔化そう。




「はっくしょん……花粉症なものでして、続けてください。」




………。




「謝れぇぇぇ!!」




「なんでだよ父さん!」




「何でじゃない! お前はスノーに自慢するといい、内緒で大学受験した。スノーも同じ大学を受けると伝えてからは、余計に努力したな? ここまではまだ良い。しかし、スノーが首席合格してからというものの、お前は毎日『あいつには実力では負けない』『カンニングしたに決まってる』『あの日は高熱があった』などと、事実を認めようとしない。そんなお前を叱っただけで、合格したことは私は誇りに思っていたのだ! それなのに、スノーを突き飛ばすなんて……グリーンのドレスが台無しじゃないか! あと、お前は思いっきり突き飛ばしたのに、スノーはお前に怪我なんてさせていなかった。手加減して投げたのに、お前は『怪我させられた』『骨が折れたかも』なんて言いおって!!」




王様、分かりやすい説明ありがとうございます。


あなたの台詞だけに、ライの全てが詰まっていますよ。












「スノー、息子が本当に悪かった。」




ライが涙目のままお手洗いに行くと席を外したら、改めて王は謝ってきた。




「母親がいれば、少しは違うのかもしれないが……子育てというのは実に難しいものだ。」




「お妃様は早くに亡くなられた……と聞いていますが、ライだってもう少し大きくなれば、きっと次期国王に相応しくなられると思いますよ。あれは性格の問題です、ちょっと芯がひん曲がっただけなので矯正でどうにかなるでしょう。」




王の前で第一王子についての正直な意見を述べれる……貴重な立場なのだろうが、もはや慣れ過ぎて何とも思わない。




「ハハハ……スノーにはライも敵わんな。将来、あの子を尻に敷いてくれる妻を娶れると良いのだが……。」




……はいはい、そーゆー話ですか。




「そうですねぇ、世界は広いですし、アレを尻に敷くのに抵抗のない方は何処かにいらっしゃるのでしょう。」




「そ、そうだな。」




前々から気づいてはいたが、この国では王族と国内の貴族が結婚すると、とにかく国中が大喜びする。


通信機器も存在していない世界で、恋愛結婚が主流というのは良い。


だがしかし、王族・貴族となれば話が違ってくるのだ。


目線が近い者同士が惹かれ、結婚するのは好きにしてくれて構わない……が。


幼き頃から仲が良いと、親同士も仲が良い事が多いので、自然とそーゆー雰囲気になってしまう。


ライの馬鹿が気付いていない……それだけの事実に私は救われる。




おお、そうだスノー。お前が来ない間に、色々な美術品が増えたのだが……久しぶりに観賞するか?」




これは、王なりの気遣いである。


私が嫌な気分にならない為に、ライが何かしでかした後にはいつもの倍程王らしさが消える。




「勿論です、我が家とは比べ物にならない程、素晴らしい品を観賞出来ますので。」




余所行きの喋り方だが、美術品観賞が好きなのは本当だ。


作った芸術家の想いが込められている作品を観ると、時間が止まったかの様に時を忘れられるから。


有名だろうが無名だろうが、感心した作品だけを集めている王の事を私は尊敬している。


心に響く物は手に入れる……ある意味平等な思想を持っているお陰で、コントラストは平和なのかもしれない。




「スノー、他に観たい物はあるかね?」




観たい物……あ。




「……そうだ、アレはまだありますか?」




「勿論、1番のお気に入りだからな。」




王は回廊の突き当たりをぼんやりと見る様にして、穏やかな声で私に答えた。




「私も……あの花瓶が、1番のお気に入りです。」




回廊の突き当たりには、展示ケースが置いてあり、その中に飾られている物がとても好き。


ゆっくり……一歩一歩近づいていくと、隣を歩いている王の目に涙が溜まっている事に気がついた。


……そして展示ケースの目の前まで行くと、作られた当時のままクッションの上に乗せてある。




「いつ見ても、これに敵う物なんて無いわ。」




……数ある芸術品の中でも、私と王の一番のお気に入りは……いびつな形の花瓶なのだ。


これは数年前に、スノーとその親友で作った物で、唯一無二の一点物。


初めて陶芸をしたからか、陶芸家の先生がどう感想を言おうか、かなり迷っていた事を覚えている。




「……陛下、今月も『会いに行っても』宜しいでしょうか?」




私は突き当たりにある窓から、少し遠くに見える海を眺めながら聞いた。




「もちろんだ、『あの子』はとても喜ぶだろう。」








そして今。


広間のテーブルにて、お手洗いを済ませて先に座っていたライと合流し、三人で思い出話に花を咲かせている。




「スノーが来てくれないかと、最近ずっと思っていたよ。」




ライを叱った時と違い、威厳に満ち溢れた顔が、今はとても優しい笑顔になっている。


ほんの少しの悲しさを瞳に宿して。




「すみません、魔法を覚えるのに夢中で。」




「ほう、どこまで覚えたんだね?」




王が興味津々な顔で聞いてくる。


その顔が少し子供っぽく思えたが、そういえば王は32歳……まだたったの32年しか生きてないんじゃない。


子供っぽく思えて、当然と言えば当然だ。




「どうなんだよ、スノー・ホワイト。」




ライが挑発的に聞いてきた。




「炎魔法は苦手ですが……水魔法は得意です。氷魔法と動植物魔法も一般的な部分はだいたい………。」




私は本当の事を包み隠さずに言った。


そう……炎魔法が『苦手』なのだ。




「なーんだ、俺なんか部屋の壁を焦がすくらい炎魔法を使えるんだぜ!」




「お前はコントロールが出来ておらん!すぐ調子に乗るからだぞ!」




ライは張り切って言ったが、すぐさま王に制される。


ここは1つフォローを……。




「私もコントロールは苦手です……。だって、私もライもまだ10歳ですから。」




そう、魔法なんてまだ10年しか使っていないのだ。


今まで魔法が存在する世界に産まれなかったから、大体はライと平等。




ゴーン ゴーン




……雑談を交わしていると、あっという間に正午を知らせる鐘が鳴ってしまう。




「もうこんな時間……今日は午後から予定があるので、これで失礼させていいただきます。」




「もう帰んのかよ、ちっ。」




舌打ちすんなよ、また王に怒られるって。




「帰ってしまうのは残念だが、予定があるのなら仕方がないな。スノー、父さんに今度飲もうって伝えておくれ。」




王が少し寂しそうにしながらも、私に言伝てを頼んでくる。




「了解しました。今度会いに行くって、あの子に伝えておいて下さい。」




「……ああ、伝えておくよ。帰りのペガサス車を用意させよう。」




「いいえ、大丈夫ですよ。ライ、また明日。」




「うげっ、明日も会うのかよ。」




王の気遣いは嬉しかったけれど、私は箒で帰りたかったので断る。


そして、ライの頭に軽いチョップを当てて城を後に。


城門までの長い道のりは、走った。


フォームには自信があるけれど、今日ばかりは崩れてしまう。


時間制限なんてないのに、何かに迫られている気がしてならなかったから。


城門を出た瞬間に、箒で空へ飛んだ。










ザザーンッと、崖に波がぶつかる音が聞こえる。


そう、私は海の近くまで飛んできた。


ペガサス車でも来る事は出来るのだが、それでもここには一人で来たかった。


大切な人に、会うからだ。




「久しぶり。今度って言ったけど、来ちゃった!」




「弟は大変ね、勉強はできても馬鹿だよね。」




「崖の上の原っぱって、地平線まで見えるんだね。」




「ここの草を維持するために、防御魔法で風に乗る塩だけを除けてるらしいよ。」




「ここに住めてるなんて、羨ましいなぁ。」




「ねぇ、少しだけ、悲しんでもいい?」




「あんたと同じ事をするだけだから……いいでしょ?」




「こっち側になるのは辛いね。」




「少し肩を貸して……寂しいの。会えなくて。」




「あんたの肩は、あの時から硬いままだね。」




「もう少し、もたれかからせて。」




私は白い十字架に、頭を乗せ、寄りかかっている。




「また、いつか、会えるって、信じてる。」




「その時は、教えてね。」




返事がない事は、数年前から分かっているけれど、話しかけるのだ。




忘れない為に、覚えている為に。

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旧版 三度目の転生~今度こそ幸せに天寿を全うしたい~ @YUKI_SIRO

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