第14話 大学生の朝

……頑張ろう。








そんな事を思った日から、早いもので二年が経った。


そして今日は、私……スノーホワイトが大学へ入学する日。








「にゃ~お。」




入学式当日、午前六時。


今回も読まなければいけない入学生代表としてのスピーチ……机の前で紙を折りたたみ背筋を伸ばし、はきはきと聞き手に心地良い声で話す練習を一人でしていた。


そんな私の事情など知らずに、呑気にだらけた鳴き声をあげるミシュリー。


部屋の中をうろうろと歩いているが、たまにチラッと私を見てくる。


朝食の催促とは分かるが、イザベラが呼びに来てくれるまでご飯が出来ていない事を知っているはずだ。


それなのに、ミシュリーは飽きずに「にゃ~お。」と鳴く。


この声で少し肩の力が抜ける、これが良いのか悪いのかは分からない。




「ご飯はまだだって、もう少し待ちなさい。」




「にゃ。」




分かってくれたらしい、大人しくソファーの上に飛び乗り毛繕いをし始めた。


毎日トリートメントをしているかの様に質の良い毛は、撫でると肌触りが最高で現実を忘れられる気がする。


どの人生でも生き物に癒されてきたから、スノーホワイトにもミシュリーが居てくれて本当に良かった。




「ねえ、ミシュリー。私は今日から大学生だけど、流石に死なないよね?」




今まで何度か転生の事を相談してきたが、猫は喋れないので聞いてくれてるかは分からない。


それでも話すのは、ミシュリーは逃げないからだ。




「私今までで1番長生きしたのが大学生までだから、ほんの少しだけ心配なんだ。」




私は机からソファーに……ミシュリーの隣に腰を掛ける。




「私が死ぬのは構わない、人殺しだから。でも、スノーホワイトが死んだら駄目なの。スノーホワイトは、この世界で必要とされているから。」




私は死んでも良い、だけど美咲もレイも美代も死んではいけなかった。


美咲の時は親友を置き去りに。


レイは自分と同じ道を歩むであろう弟を。


美代は優しい父母と友達を……そう、この三人が死んだ事で悲しませた人がいる。




「……お父さんとお母さんに会いたい。」




私がレイの時に感じなくなったホームシックは、優しい世界で育てられた美代のせいで、今では戻ってきてしまった。


もう死んだ人に会いたいだなんて、思っては供養にならなそう。


だけど、また……あの生活がしたい。


豪華なドレスを着て過ごさないで、トレーナーを着て過ごしたい。


パーティーはお菓子を友達と持ちよったものがいい。


叶わないし叶えてもらえる資格が無いと分かっていても、人生の節目と呼べる日にはこんな気持ちになる。




「どうしたら、私の人生は終わるんだろうね。」




崖から落ちても、恋人に殺されても、バスにはねられても私は死ねなかった。


試すとしたら自殺……とも思ったが、父母を悲しませたくないし、魔法が使えても体力があっても命は一つだから試せない。


だったら、天寿を全うする……これなら試せる。


スノーホワイトは、なんとしてでも生きるのだ。


それでも、今までの経験からして途中で死ぬ可能性は十二分にあるから。




「ミシュリーを巻添えにしたくないから、何かあれば私の元から逃げるんだよ。」




そう伝えると、私と目を合わせてくれていたのに、いきなり顔を背けられた。


嬉しい様な、そうではない様な。




コンコン




ドアを絶妙な力加減でノック、これはスノーホワイトの専属使用人メイド。




「入って頂戴。」




「おはようございます、スノー様。お食事の準備が整いました。」




時計を見ると、ミシュリーに話しかけ始めてから30分も経っていた。




「着替えたら行くわね、ミシュリーは先に行って食べていても良いけれど……。」




「んにゃ。」




ソファーの上から動かない、私を待ってくれるらしい。




「では、私はお部屋の外でお待ちしております。」




パタン……と扉が閉まると、私は扉側とは反対にあるクローゼット……というより、衣装部屋と呼んだ方が正しいスペースに繋がる扉を勢い良く開けた。


このまま父母を待たせるなんて、絶対に良くない。




「急がないとっ。」




私は1番取りやすい場所に置かれている、一着のドレスへ迷わず手を伸ばした。


着ていく膝丈ドレスは昨日の夜に決めてある、もとい祖母からプレゼントとして渡されてあるので、コーディネートに悩まなくても済む。


そのドレスは私の右目に似た青色で、シルク生地のリボンが腰の後ろに付いている。


長袖なので春用だが、春らしく桃色ではなくて、私の好きな青色にしてくれた祖母に感謝だ。


瞳の色に合わせてくれたので、このドレスがスノーホワイトを語っている様で身が引き締まる。


大学生としてのスタートに相応しい、自信まで持てるこのドレスの値段を私は知らない。


着心地で高いとは分かるのだが、プレゼントした方に聞くのは失礼極まりない行為。




「だから、絶対に引っかいたりしないでね。」




姿見の前で着替える私の後で、ちょこんと座っているミシュリーに念を押すが。




「ニャア。」




返ってきた返事は、どちらとも取れない曖昧な「ニャア。」だけだった。

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