第13話 高校生の魔法実習

「ごきげんよう、スノーホワイト様。」




六月、四季が存在するコントラストは、美咲時代と同じく梅雨を迎えていた。


何故この世界にも梅雨という言葉があるかは分からないが、レイ時代に散々考えて分からなかったので悩まない様にしている。




「ごきげんよう……アマンダさん。」




傘をさして校門から昇降口までを歩いていると、同じクラスの生徒が何人か話しかけてきた。


『ごきげんよう』『スノーホワイト様』……体がむず痒くなってたまらない。


私の事を異質な存在と思いながら、毎日挨拶する組と黙って頭を下げる組。


中学生の時はただ勉強が出来る貴族の娘だと壁を作られたが、今度は完全に次元の違う人間という壁を作られてしまった……が、私は特に友人などいらない。


両親に見合う娘になる為に、コントラストの学校で夏休みと冬休み前に年二回ある進級試験を来月受けるのだから、この学年の人達とは名前と顔が分かるレベルの付き合いで十分だ。




「スノー様、今の方はご友人で?」




「同級生よ。」




隣を歩くイザベラが、少し悲しそうな顔をした。


社交的な性格で私よりは学校に馴染んでいるイザベラは、家でも学校の話をほとんどしないで魔法の勉強ばかりする私を心配している。


それは父母も同じで、進級試験がある度に学年を上げ続けるのを止めなかった事を後悔している……そんな話を立ち聞きしてしまったのが丁度一カ月程前。


それでも私は、入学時に8歳なら入れる高校に入学し、10歳から入れる大学に行く為に勉強をするのだ。




「イザベラ、それではお昼に会いましょう。」




「はい、では……。」




昇降口に着くと昼食一緒に食べる約束をして、お互いの教室がある棟に別れる……これを毎日の様に繰り返している。


校舎に入ると雨の勢いが更に増し、雷が時折轟く。


雨の日の授業は、なんだか憂鬱な気分だ。








「初めまして、今日から始まる防御魔法を担当するベアータです。」




魔法学科の一つしかないクラスで、外の雨に負けない声量で生徒25人に自己紹介をした。


憂鬱な中始まるのが、中学生までの義務教育には含まれていない『防御魔法』。




「防御魔法とは、文字通り防御の魔法です。」




だろうね。




「コントラストでは水平線が見える断崖上の植物を塩から守る為に、年中使われていたりします。あとは、魔害獣を狩る時にも使う事が多いです。」




ベアータ先生の言う『水平線が見える断崖』とは、コントラスト城下町の東側にある国内屈指の絶景スポットで、勉強で疲れた時に足を運ぶ事が多い。


名称が付けられていないので、いちいち『水平線が見える断崖』と言わなければならないのが面倒だ。




「質問です、先生の防御魔法はどのくらい高等な物ですか?」




登校時に挨拶をしてきた、赤髪のアマンダが聞く。




「フフフ……先生の防御魔法は、駆除隊に参加した時に熊の魔害獣にも破られませんでした!」




ベアータ先生が言うと、教室から「おぉーっ!!」と歓声が上がる。


魔害獣とは生まれてから成長するまでに、自分の魔力をコントロールできなくなった動物の事。


魔害獣と化せば本来の力よりも遥かに魔力と狂暴性が上がる為、定期的に駆除隊が地方の街や山岳地帯へ行く事になっている。


駆除隊には入隊試験に合格した15歳以上のコントラスト国民が参加してして、成果を出せばかなりの褒賞金が出る(その分危険も多い)。




「そんな私が今日実習として教えるのは、透明なシールドを使って雨を防ぐ簡単な防御魔法です。これが使える様になると、出かけ先に傘を忘れても濡れずに帰る事が出来ます。」




なんだかとても実用的だし、天気的にとてもタイミングが良い。


防御魔法は独学で少しは学んだが、防御を使う対象に合わせたシールドの厚みにするには実際に何度も経験しなければならない。


そうしないと魔力の無駄遣いになるので、他の魔法に比べたら勉強は全然進んでいなかったり。




「それではみなさん、傘を持たずに昇降口へ行きますよ!」




「はーい!」




同級生達の子供っぽい返事が、憂鬱な気分を少しだけ晴らしてくれる。


私も昔はこんな風に、高校生を楽しんでたのに……不思議なものね。








「はいっ、それでは早速始めてみましょう。今日の雨は土砂降りです、魔力を厚めにしたシールドでなければ濡れてしまいます。そして、自分の頭上に傘をイメージして作るのですが、この時魔力にムラがあると雨漏りをするので気をつけて下さい。」




ベアータ先生が、雨をバックに説明した。


声量が大きくはきはきとしているので、ベアータ先生から一番遠い場所にいる私にもはっきりと聞こえた。




「俺いっちばーん!」




真っ先に外へ飛び出したのは、ディックという男子生徒。


頭上に手を掲げ、走って外に飛び出したが。




バチッ




「うわっ!!」




ディックの出だしは良かったものの、すぐに眩い閃光が走り……ずぶ濡れになってしまった。




「はいっ、この様に魔力にムラがあると、シールドは破れてしまいます。皆さんは気を付けましょうね!」




いとも簡単に言っている所……ディックみたいな生徒が毎年いるのだろうと分かる。


この防御魔法、進級試験に出るのだから絶対に完璧に習得しなければならない。


……頑張ろう。

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