第9話 絵本

パーティーも終わり、静かになった午前1時。


自分で出した水を暖めて、穴の空いた桶に入れて使うシャワーを浴びた後、自室でのんびりしていた……のだが。




コンコン……




同じくシャワーを浴びて寝間着に着替えた父母が、普段は入らないというのに私の部屋へとやってきた。


イザベラも夜が遅いので、私の部屋に簡易ベッドを置いて一緒に寝る事になっていたから、父母が来たのは本当に驚いた。


私はイザベラに反射的に攻撃しないか心配していたから、いきなりと呼べる物事が起きるのはいらぬ可能性を考えてしまい心身共に疲れるのだ。




「お父様、お母様……何か用事でもあるのですか?」




笑みを浮かべて質問するのには、もうとっくに慣れたのだが。


イザベラからしたら父母は雇い主なので、頭を深々と下げている。




「イザベラ、頭を上げなさい。スノーと寝れるのは正直羨ましいが、今はその話ではない。」




父は羨ましいのか、同じ部屋で寝るというだけなのに。




「私達があげたプレゼントの中に、絵本があったでしょう?」




母が言う絵本というのは、どうしたら良いのか分からずに一旦枕元に放置していた読みもしていない絵本の事だろう。




「はい、ここにある……『ゆうしゃとごにんのなかまたち』の事でしょうか?」




少し離れた簡易ベッドに座っていたイザベラが、私の方へ寄ってきたので父母を合わせた三人にベッドへ座る様にジェスチャーを送る。


勿論伝わったので、私が真ん中に座る中、周りに三人が腰をかけた。




「そうよ、スノーは大人の読む本ばかり持っているから、たまには絵本も良いと思ったの。数百年も前の話を絵本にまとめたんですって。」




「今日は久方ぶりの、絵本の読み聞かせをしても良いかい?」




あ~、眠そうなイザベラには悪いけど断れないからなぁ。


しょうがない、普通の子供なら喜ぶ所だろうし、少しでも恩を返せるのであれば。




「勿論です、イザベラ……一緒にお布団へ入りましょう?」




「スノー様が良いならば……失礼します。」




イザベラは腰を下ろして、私のベッドの中へ入る。


暖炉の火がパチパチと音を立てて燃える中、二人分の熱で布団の中はより暖かくなった。




「じゃあ読むぞ、これは……遠い昔の話であった……。」




父が語り手をし、母がセリフを読むという見事なコンビネーションから読み聞かせが始まった。






これは遠い昔の話であった。


高い山から現れた魔王が率いる魔物達に、国王も国民も毎日恐れて暮らしていた。


村は焼かれ、人々は虐げられる毎日。


国王が集めた精鋭部隊も、突撃するや否や負け続け、城下町にまで攻められてしまった。


困り果てた国王は、城の占い師に『魔王に勝てる者』を占う様に告げた。


占いを完璧に信じている訳ではなかったが、もう頼るしかなかったのだ。


人探しの占いには時間・体力・魔力がかなり必要になるため、老体であった占い師は今にも倒れそうになった日……ついに見つける事が出来た。


その人物はまだ青年と呼ばれる容姿で、占いに使われた道具の一つである水晶玉には、山中で逃げ回る姿が映し出された。


頼りなく感じられたがそんな事を言っている場合ではなく、城に保管されていた国で最も素晴らしいと謳われた名剣を城で最も強い側近に託し、青年の元へと向かわせた。


魔物に見つからない様、慎重に山へ向かったため2日かかってやっと着いた時、側近は疲れ切った状態だ。


側近は青年が生きている可能性が低いと思っていたが、疲労した体に鞭を打ちつけ山中を歩いていると、ボロボロになった青年と偶然出くわす事が出来たのだ。


回復魔法で青年の怪我を治した側近は、青年に自分が出された命を伝えて剣を渡す。


最初は戸惑う青年だが、生まれつき人よりも若干多い魔力があり、家族が魔物に皆殺しされたから戦うと決意して。


城に向かう道中で四人仲間見つけて、城に攻め込み始めた魔王とか色々倒して、めでたしめでたし。






……みたいな話だった。


脳内で漢字や鮮明な描写に変更してしまい、私が誰かに絵本の感想を話す時はかなり子供向けとは呼べない物になっているだろう。


最後の方は、美咲時代に読んだ『桃太郎』という話みたいに1ページにつき仲間が一人増える……みたいに、なんとも簡単な感じで終わってしまい、つまらなくてよく覚えてない。




「どうでしたか? 私達の選んだ絵本は……。」




まあ、歴史の勉強になったと言えばなった。


魔法以外に社会も勉強する必要性を考え始めていたから、良いきっかけになったとも言える。




「とても面白い話でした! 勇敢な者……勇者の称号を貰った青年は凄いのですね!」




喜んでいる声を出すけれど、隣ではイザベラが寝てしまっているので小声だ。




「そうさ、この国の英雄だよ。青年は魔王を倒した後、剣を城に返上して旅に出たとかなんとか。」




「では、今も剣があるのですか?」




「ええ……あら、もうこんな時間。そろそろ寝ないといけないわね……スノーは流石に読み聞かせでは眠れなかったみたいね。」




……寝たふりすれば良かったかな?




「おやすみなさい、お父様、お母様。」




「いい夢を……スノー。」




「おやすみなさい。」




……パタン




二人が部屋を出る時、静かに閉められた扉から優しさを感じる。


ベット横に置いてあるキャンドルランタンの灯りを消して、隣にいるイザベラの寝息を確かめる。


このまま寝てしまえば、私は何をしでかすか分からない……今日は徹夜になりそうだ。






一時間程経った頃、父母も眠りについたと思われるので、イザベラを起こさないようにゆっくりとベットから出る。


暖炉の火は消えているし、夜中という事もありかなり冷え込んでいる。


刺繍がされたネグリジェの上から、ふわふわなローブを羽織り、装飾が施された机に向かう。


この間……暗闇の中だったので、自分の勘と経験を頼りに部屋の中を動き回っていた。




「ニャ。」




その動きに反応したのか、珍しく棚の上で寝ていたミシュリーが起きたらしい。


円形の光る玉が二つ、私に近づいてくる……どこかのホラー映画の演出でありそうだ。


もっとも、ホラー映画なんてここ数年目にしていないが。




「イザベラが起きちゃうから、静かにね。」




机上のろうそく一本にだけ、マッチで火をつけた。


この世界にマッチが存在していて、炎魔法が苦手な私はかなり救われた。




「ここに確か…………あった。」




机の真横に設置してある本棚から、魔法についての教科書を取る。


魔法の勉強は本を読み、想像力を育てて、使う魔法に対しての魔力の値を大体計算して、自分の魔力から引き算をしてから、本当に今使うべきなのかを考える所までがワンセット。


様々な状況を想像し、学ぶ事が大切なのだ。




「さてと……頑張るか。」




外では風の音が鳴り続け、私が勉強をしている間も寒さは増していった。

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