第7話 お揃いのドレス

「……食器を下げますね。」




トンリュートは料理長になっても、食べる人の最初の反応から最後の反応まで知りたいと、料理人見習いの様な仕事までする事がある。


若者育成のために普段は後片付けをしていないが、今日はスノーの誕生日なので特別らしい。


……それにしても、自分で自分が泣くとは思いもしなかった。


今まで……転生した初めの頃は、自分が分からなくなって混乱する時は何度かあったけど、今日みたいに泣くなんて事……初めてだ。


泣き真似でもなく、急に涙が流れてくるなんて。




「そうだ、今日の夜の誕生日会だが、ラウル達は風邪をひいていて来られないらしい。」




父が残念そうな顔をしている。


ラウルというのは、コントラスト王の名前……父は王と同級生だったので、お互いに呼び捨てで呼んでいる。


王の子供は私と同い年でよく遊ぶ仲だから、風邪をひいたというのは少し心配だ。




「では、お見舞いの品を送りましょう。風邪には果物が喜ばれるのでは?」




「あら、それはいい考えだわ! 速達ペガサス車に頼みましょう。」




母が言う『速達ペガサス車』というのは、文字通りペガサスが荷台を速達で運んでくれる宅急便の様なシステムだ。


コントラストには前世以降の世界で存在しなかった、ペガサスや妖精等の『空想』というくくりに入る生物が存在していて、物や人を空を飛んで運べるペガサスは特に身近な存在だ。


風魔法を使えば、バランスを保つためにほうきや木の棒にまたがって飛ぶ事が出来るけど、風が強い日や雪が降っている冬はペガサスを使うのが一番良い。




「そうだな……ギューラウス、速達ペガサス車を呼んでくれ。トンリュートは旬の果物の詰め合わせを頼む。」




「「かしこまりました。」」




父が頼むと、二人は速やかに行動を返しする。


まさに使用人の鏡だ。




「スノー、誕生日会に同年代の子供はいないが大丈夫か?」




確かに貴族の子供で同年代はいなくなるが、私にそんな心配は必要ない。




「イザベラと一緒にいるから大丈夫です。」




「分かった、ではイザベラにもドレスを用意しよう。使用人だがスノーの友人でもあるからな。」








「……という訳で、イザベラのサイズを測るから、一緒にお店へ出かけるよ。」




私は一階にある使用人の休憩室に行き、掃除終わりのイザベラに伝える。




「そ、そんな事出来ませんっ……父に叱られてしまいます……。」




「大丈夫よ、私の命令だとしたら叱られないわ……ね?」




我ながら意地の悪い言い方だと思う。


友人に『命令』をするなんて嫌だけど、こうでも言わないとイザベラは誕生日会に出てくれないだろう。




「命令ならば……私は従うしかありません。分かりました、お出かけについて行きます。」




イザベラは申し訳なさそうにしつつ、どこか嬉しそうな顔だ。


使用人とはいえ、8歳だもの……子供らしい仕草がとても可愛い。




「さて、それじゃあ行きましょうか。屋敷の前には、自家用ペガサス車が用意してあるわ。」




「今ですか!?」




「うん、今行かないと夜のパーティーに間に合わないもの。」




混乱するイザベラの腕を掴んで、私は玄関前のペガサス車まで連れて行く。


その間もイザベラは困り顔で……だけど、微笑んでいた。


純粋な笑顔というのは、見ていてなんと癒されるのだろうか。


少なくとも、スノーはした事がないだろう。




「スノー、イザベラを連れて来たか!」




先にペガサス車へ乗っていた父が、イザベラに負けない程微笑んでいる。




「ですが……スノー、お出かけ用の服に着替えないのですか?」




同じく既に乗り込んでいた母が聞いてくる。


確かに私もイザベラも、冬だというのに上着も着ないで来てしまった。




「風邪をひいたらいけません。ゆっくりで良いので着替えてきなさい。」




母にきつめの口調で言われたら、従うしかないのはどこの世界でも同じだ。




「分かりました、イザベラも着替えに行きましょう。」




「はい。」




ドレスは長袖とはいえ、雪の降る外はやはり寒い。


スノーが風邪をひいてしまえば、私の誕生日会という名の貴族の社交界が台無しになってしまう。


暖かいコートとブーツで、この幼い子供の体を守らなければ……。

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