第4話 天寿を全うしたい理由part3

さすがに二度目の転生だったので、状況はすぐに飲み込めた。

でも……これは、慣れてはいけないのでは?

誰が私に記憶を持たせたまま、何度も転生させているワケ?

さっき死んだはずなのに、また産まれるって……疲れるわ。


「なんて可愛い子……。」


可愛い子……か。

自分で言うのもなんだか、これまで容姿には恵まれていた方だと思う。

だけど、幸せな人生を送りきる方が、容姿関係無く嬉しいよ。

……そのためには、世界と時代を確認しよう。


暖かな腕、様々な器具の置かれた部屋……大人達の服装。

全てを見た結果、美咲と同じ様な世界だと思った。

どう見たってこの部屋は病院だし、今回の母は美咲が見た出産ドキュメンタリー番組に出ていた出産時に妊婦さんが着る服……とほとんど同じだ。


何故覚えているかというと、一緒に見ていた『お母さん』が私を出産した時は逆子で大変だった……と言いながら、豆腐ハンバーグの入ったお腹を撫でていたのが印象的だったから。

出産というのは、それほど大変で、辛くて、苦しくて……色々乗り越えた結果赤ん坊が産まれる訳で。

それまでに様々な事を乗り越えるだろうし……そんな中産まれてきた子供が、私みたいな転生者だと……どうなんだろう。

母に何も伝えなければ良いのだろうが、本当の幸せを掴む事は出来るのかな?

……私はどうしても、美咲の『お母さん』『お父さん』に縛られてしまう。

今回の人生でのお母さんは……可愛い系だわ。

この人の元なら、レイのような人生を送る事は無さそうだ。


「この子泣かなくなったわ!た、大変……!」


あ、またうっかりしてた。

レイで泣いた記憶はほとんど無いから、ちょっと泣き真似について心配だけど……。


「おぎゃあ(?)!」


「なんだか安定しない泣き方だけど、元気な女の子でよかった!」


ギリギリセーフ。

少々泣く練習しないとなぁ。



少し後に私を見に来た父は、見た目からして、サラリーマンだと思う。

会社を抜けて、急いで駆けつけたのだろう。

ネクタイは曲がり、シャツはヨレヨレ、汗ビッショリで髪ボサボサ。

私にも勿論沢山声をかけたが、母にはもっと労りの言葉と感謝の言葉を告げている。

この父親、凄く理想だと思う。

今回生まれた時間は昼過ぎらしいけど、お腹をグーグー鳴らしながら「食べちゃいたい位可愛い~。」と言われて、一瞬身の危険を感じたが。

これも、愛情から来るセリフって事は分かってるけどね。


「名前はたくさん候補があって……どれにしたらいいかな?」


父が鞄から、ノートを1冊取り出した。

付箋が沢山貼ってあるのも気になるが、レイ時代には無かったマス付きノートを久しぶりに見れた事に驚く。

まさか、もう一度お目にかかれるとは思っていなかった。

幼い頃から書き貯めた、創作豆腐料理ノート……今頃どうしてるのかなぁ。


「そうね……って、あれ?……大変!あなた、早くお医者様を!」


どうしたのかな?

急に慌て始めたけど。

もしかして……泣くのまた忘れてた!?


「おぎゃあ! おぎゃあ!」


よし、今度は上手く泣けた。

我ながら赤ちゃん泣きの、天才じゃない?


「どうした!?……あぁっ!」


本当にどうしたの二人とも!?

泣いたじゃん!

凄く上手に泣いたよ!


「大丈夫、すぐにお医者様来るからね!!」


だから、当事者に何があったのか教えて!


その後、医者が来て驚いていた。

私は生まれた時、母に似た茶色い髪(まだそんなに生えてないけど)に、黒い瞳だったらしい。

しかし、生後間もなく、髪は銀髪に変わり、瞳は赤と青が半々の状態になっていた。

病気が疑われるものの、真実が分かることはなくそのまますくすくと成長した。



「美代ちゃんは、天使の様に可愛いねぇ。」


「ありがとう、おばあちゃん!」


三度目の人生なので、人とのかかわり方などを工夫するのが上手くなっていて、親戚からも好かれ、容姿をからかわれることもなかった。

ちなみに名前は、東野 美代ひがしの みよに決まった。

美咲の時と名前が似ているが、美代は容姿端麗・品行方正・頭脳明晰・スポーツ万能な完璧少女になる事が出来た。


「美代って、何でも出来て羨ましいなぁ~。」


「そんな事無いって!」


生まれる前に合計35年生きていたんだし、様々な知識は自然と増えていったから、頭が良いのは当然だ。

小学生の時から同級生に「羨ましい!」って言われてたけど、たかが10年程生きただけの子供と頭脳レベルが同じだったら、今まで何してたの?……って話だよ。



「東野さん、僕と付き合って下さい!」


「あの……ごめんなさい。私……まだ恋愛とかよく分からなくて。お友達で宜しくお願いします。」


中高生の間は、男子に告白される事が多々あった(女子も何人かいたけど)。

恋人はレイでトラウマになったし、元々好みの男子なんていなかったから、やんわり断ってきた。




高校3年生になった年、凄く幸せに暮らせていた。

母は趣味のハンドメイド作品をネットで売る趣味を楽しみ、父は順調に出世組へ仲間入りを果たした。

一戸建てのマイホームに住めて、憧れの狭くも広くもない自室も持てた。


学生時代は家が近い幼馴染や、小学生からの友達と良く遊んでいた。

改めてまともな青春時代を送れている事が、本当に嬉しくて……そんな自分が憎かった。

今まで私が犯した行為が、許される日なんてないのにこんな生活を送っている。

そもそも、転生とは何なのか。

なんでレイになってしまったのか、なんで美代になってしまったのか。

レイになるはずの子供は、他に居なかったのだろうか。

美代として幸せに暮らす子供が、私以外に居なかったのだろうか。

この世界で『転生』という設定の小説を読んだが、正直に言うとそんな転生と私の人生はかけ離れていた。

何故か言葉が通じたり、食べ物の名前が通じる事は一緒だが、私は転生で幸せにはなっていない。

特別な魔法の力? 私はなるべく悲鳴を上げられない様に殺す暗殺術を10年かけて習得した。

信頼できる仲間? 今の暮らしを楽しく思うときはある。だけど、レイの記憶がちらついて本当に信頼出来る人なんていない。

ハッピーエンド? 最悪の人生で最悪なバットエンドを繰り返したわ。

神様? いやいや、一度もお目にかかった事なんて無い。私を転生させ続けてるのは、どっかにいる神様なんですか? じゃあ、今までの悲惨な人生はあなたのせいですか?

……こんな私に幸せな人生を送らせるために、高校を卒業させて名門大学に受からせたんですか?……なんて思ったりなどしない。

私は私の家族や友人に『美代』がいなくなる事で涙なんて流させない。

ここまで来たら、後は幸せな人生を過ごせるんだ。

罪を背負い、天寿を全うする事で、地獄に送ってくれるかもしれない。

私は、やっと『幸せな生活』を満喫できる人生なんだ……そう思ったのは、間違いだった。




「でね、一緒の大学に通う友達が……危ないっ!!」



ドォンッ



私は……大学の入学式、青信号になった横断歩道を渡っていたら、運転手が意識をなくし暴走するバスにはねられて死んだ。

バスが突っ込んできた事に気がついた時、初めてフラッシュバックという現象を体感した。

その瞬間に『自分はここで死ぬ』と悟り、前を歩いていた母を思いっきり突き飛ばした。


この母親は、とても理想の母だったのだ。

お母さんを忘れる事は出来なかったけれど、間違いなく最高の母親でいてくれた目の前の女性を……どうしても助けたかった。


享年19歳、一週間前に誕生日を迎え、これから華々しいカレッジスクールライフを送るはずだった。



そして、今回も美咲同様に、何故か幽霊化してしまった。

死んだ直後では無く、丁度お葬式が始まった頃に、目が覚めた。

遺影の前では父と母が泣き崩れ、高校の同級生だった友人達も泣いていた。

母が片腕に巻いている包帯と参列者の話によれば、私が突き飛ばしたお陰で腕に切り傷を負うだけで済んだらしい。

あの時の行動で、この女性が無事で良かった。


「先に死んでしまって、ごめんなさい。今まで育ててくれて、ありがとうございました。」


言った所で聞こえるはずもないが、私が気持ちを整理するために話しかける。


「貴女は最高に素敵な母親だったよ。父も……勿論最高だった。娘から先に去って……申し訳無いけれど、私がいなくなってもお幸せに。」


幸せに……なんて、残酷な言葉だと理解している。

今まで注がれた愛情が、それを語っているんだ。

だけど、敢えて言ったのは……生きていて欲しいから。

生きて生きて生きて、私の分まで天寿を全うして欲しい。

それに気づいてくれる事だけを……今の私は願ってる。


そして、私に手を合わせに来た1人の男性……バスを運転していた人だ。

男性は運転中に意識を無くし、それに気がついた乗客がブレーキを踏んでくれたらしい。

だけど……間に合わなくて、私がはねられた。

この男性が普段運転していたのは夜行バスで、現在問題になっている運転手の過労を理解していたから、どうにも思えなかった。


その後、埋葬された時……また目の前が暗くなっていた。



「スノー、ご飯の時間よ~。」


そして、今に至るわけだ。

今度こそ……今度こそ……天寿を全うしたい!

そのためには、生暖かい母乳でもミルクでも飲んで、すくすく育ってやる!!

今までの経験を決して無駄にはしないっ!!




そう決心した、スノーホワイトだった。

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