第3話 天寿を全うしたい理由part2

……暗い、暖かい……なんだろう。


不思議な感じだなぁ。




「うぅぅぅっ!!」




この声は何っ!?


な、なんか明るくなってきたし!




「おぎゃあ! おぎゃあ!」




え、ちょっと、私なんで泣いてるの!?


止まらないよ、泣くの止められないよ!


しかも、体滑ってるし目を開けるのにもの凄い体力が……って、私裸じゃん!




「奥様、お生まれになりましたよ! 綺麗な顔立ちの女の子です!」




ちょ、誰よこの女の人は!




「そう……顔を見せて頂戴。」




え?ちょちょちょっと!持ち上げないでよ!


この女の人たちは誰!?


いくらなんでも、高校生を軽々と…どんだけ大きいの!!




「ああああああーっ!!(離してよぉぉぉぉーっ!!)」




「まあ、確かに切れ長の青い瞳で……私に似ているわ。それに、よく泣く子……元気でいいわ。」




あんた誰!?


なんか髪は乱れてるし、疲れ切った汗だらけの顔……だけど、キラキラと瞳を輝かせる女性は…。




「あなたの名前は『レイ』よ。レイ、これから宜しくね。」




レイ?いやいや、私の名前は美咲だし……。


これから宜しくって言われても、本当にどちら様ですか?




「お母さんは初めてだから、大目に見て欲しいわ。」




お母さんが……初めて?


いやいやいや、そんなの私に言われても困ります。


大目に見るも何も、こっちは色々混乱してるし……。


そうだ、こんな時は周りをよーく観察してみればいい。


誘拐とかだったら、ここがどこだか分かる品があるかも……。




ん、ちょっと待てよ?




よーく観察する前に、考えてみたら私……死ななかった?


……そうだよ、死んだよ。


幽霊になって辛い思いして……もしかして、ここは天国?


だとしたら、体の滑りを落としてくれたり、抱っこしてくれている人たちは天使?


ついさっきまでは、私の方が天使みたいに裸だったけど……あり得る!


そうだよ、ここは天国なんだ。


今から天国ライフ満喫するんだ~……だけど、そういえば……いつだか親友に借りたラノベだと、この状況は『転生』って言わなかったっけ?


……いやいやいや、あり得ない。


そんなのお話の中だけだし、死んだらそれっきり……そしたら、天国もあり得なくなるか。




「この子……泣かないわ! どうしましょう!?」




え、泣かない?


確かにもう泣いてない……泣いて欲しいのかな?


よし、ここは一つ、天使に媚を売っておこう。




「えーん、えーん。」




「……なんだか嘘くさい泣き方ね。だけど、元気ならそれでいいわ。」




あ、ありがとうございます。




「これからも元気でいてね、私の赤ちゃん。」




……今、私の赤ちゃんって……言ってないよね、うん。うん。うん。う…ん。う……ん。






私が転生者だと納得できたのは、ここから一年ほど経った後だった。






「レーイ、誕生日なのに寝坊しちゃうわよ~?」




「今起きます、母さん!」




……転生してから、もう5年もの月日が流れた。


最初は信じなかったけれど、やはり私は『転生者』らしい。


そうでなければ、リアルすぎる365日に説明が付かない。


そして更に、この世界は人間だけではなく、牛人や犬人……霊長類以外の哺乳類から進化した『獣人』と呼ばれる人種が数多く存在する。


私は『人間』だったけれど、同じ幼稚園に通う同級生の中には、角が生えていたり耳が人間とは違う場所にある子供が沢山いた。


中には差別する人もいるけれど、皆平等であるに決まっている。


見た目は違えど、内臓とかにほとんど違いなんて無い。


家族も同じ思考で、泊める客に差別するはずもなく。


……泊めるっていうのは、レイの家が大きな旅館を経営してるって事で……。


私はいわば、大金持ちの一人娘であった。


何不自由無く暮らさせてもらい、とても感謝をしている。




だけど、やはり違和感を感じる。


父も母も私を『娘』と思って愛情を注いでくれる。


一方の私は、父と母を『本当の親』として考える事が出来ない。


父から譲り受けた黒く質の良い髪に、母から譲り受けた青い瞳……これらを見ると、血が繋がっている事に間違いはない。


でも『保護者』としか思ってあげられない。


豪華な部屋で、贅沢な暮らしをさせてもらい、美味しい食事も与えてくれるのに。


この人達には、私じゃない子供が生まれた方が良かったんだ。


前世なんて無く……あったとしても、何も覚えていない子供を。




失礼とは分かっているけれど、ふとした瞬間に『お母さん』『お父さん』に会いたくなる。


親友や近所の人にも会いたいし、学校にだって行きたい。


この世界にも学校はあるけれど、前の人生の時の方が……色々進んでいた。


コンクリートなんて存在しないし、電子機器ももちろんない。


電気も無いから、ろうそくだけで暮らしている。


たまにはテレビを見たくなるし、この世界には存在しない『豆腐』も食べたくなる。


だけど、この様な気持ちは話してはいけない。


父と母を悲しませてしまうし、下手に『転生』なんて事伝えても、信じてもらえないだろう。




「母さん、今日のご飯も美味しいねぇ。」




美味しいのは本当だ。


だけどたまには、朝食に豆腐入りの味噌汁を飲みたい。


お母さんが誕生日に作ってくれた、ほっかほかのパンケーキが恋しい。




「いつもありがとうね!」




『家』に帰りたい。


皆に会いたい。


この世界から出たい。




……一度考えてしまうと、ホームシックは止まらない。


絶対に帰れないと分かっていても、思考を止める事は出来ない。






そんな私の誕生日の夜、誕生日プレゼントの着物を着て『喜んで』いると、




「レイ、あなたに言わなければならない事があるわ。」




母さんがそう言って、豪華なお座敷にいた使用人を部屋の外に出す。


何が始まるのだろうと興味がわいてきたが、父と母は感情を表に出さない『面』の様な顔だった。


今まで感じた事のない恐怖で、私の体はいっぱいになる。




「父さんや母さん達は……。」




……父は面の様な顔を保ちながら、ゆっくりと話し始めた。


5歳の誕生日、父母から告げられたのは、とてもじゃないけど信じがたいことだった。


なんと、うちは代々裏家業があるらしく……それが『暗殺者』だというのだ。


客が寝静まった夜、国の有力者から受けた依頼を黙々とこなすのだと。




話を聞いた時、完全に私の思考回路はショートした。


もしかしたら、父と母を『保護者』としてしか思えなかったのは、父と母が私を『暗殺の後継者』として見ていたから?


でも……確かに愛情は感じたから、私を『愛娘』『暗殺の後継者』……二つの目線で見ていたのかな。




「レイには、これから暗殺の修行をしてもらわなければならない。」




「辛いと思うけれど、生きていくためには……やらなければならないのよ。」




そんなの嫌に決まっている。




「父さんと母さんが言うなら、私頑張ります。」




そんなの嫌に決まっている。




「流石は私の娘だ。」




「もう、あなたったら……私達の娘よ?」




面が外れて、親子の会話を楽しみだした。


この人達は……異常だ。


暗殺なんて、嫌に決まっている。




「父さんも母さんも仲良くねっ!」




この日から、私の心は壊れていった。


この日から、ホームシックになる暇もなくなった。


この日から、レイは異常になっていった。




毎日暗殺の修行漬け。


基本は毒を使うらしいが、剣術も叩き込まれた。


修行に明け暮れる日々の中、七歳の時に生まれた弟といる時と、学校に通っている時だけは『異常』から離れる事が出来ていた……気がする。






そしてまた月日が経ち、周りから『黒髪青瞳の乙女』と呼ばれるようになった15歳。初めて暗殺の任務についた。


依頼人はどこかの大地主、殺すのは前から嫌いだった知り合い。


こんな私情一つで人を殺すのは気が引けた……だけど、殺らなければ事情を知った私が殺られる。


この理由で、人を殺し続けた。




私は本当に『異常』になった。




昼間は『異常』を隠し、夜になれば『異常』の幕を開ける。




そして18歳、この年齢で私は死んだ。


当時付き合っていた同級生の男に、任務先で殺されたのだ。


依頼内容は、自分が家督を継ぎたい男性から『兄とその子供を殺せ』というもの。


子供は三人いて、全員が10歳以下の幼い子供達だった。


その頃のレイは、自分の人生に早くも嫌気がさしていて、遅めの反抗期があった事から、任務先の屋敷で立ち止まってしまった。


嫌気がさし始めたのは、異常から体が抜け出そうとしていた合図かもしれない。


本当にこの道が正しいのか……と、子供達の寝室の前で考え込んでしまったのだ。




「異常なままで良いのか」




私の凍り付いた心が、解け掛けていたかもしれないその時。




後ろから、何者かに剣で刺された。


背中から腹部に貫通した剣を見て、現実だとすぐには思えなかった。


痛みが走り、冷や汗をダラダラとかいていると、剣から人が握る感触が無くなった。


その瞬間、体に力が入らなくなり床に倒れこむ。


仰向けに倒れた私の頭を掴み、無理やり上を見させる。


意識が朦朧とする中、目が合ったのは……恋人だった。


なぜ、彼がここにいたかは分からない。


だけど、一応二年間愛し合っていて、成人したら結婚する約束をしていたはずなのに。




「なんっ……で……。」




私の言葉には答えず、片手で私の首を締め上げる。


彼の爪が首に刺さり血が出てくる。


その手を最後の力を振り絞って外そうとしても、私の力では無理だった。


『火事場の馬鹿力』ということわざが、美咲の世界には存在した。


だけど、女の馬鹿力は男の片手力に勝てないと……知りたいワケでは無かったのに、今日……身を持って知った。




悲しみとショックで黒髪は白くなり、困惑と痛みで瞳は赤く染まった。いいや、倒れた私の首をさらに絞めた彼に対しての怒りで、染まったのもあるのだろう。


不の感情と比例する様に、自分からは流れる生暖かい血が流れ続ける。


絞める事をやめない手は、時間が経てば経つ程きつくなっていく。




そして、私の苦しさが頂点に達した瞬間から、痛みと苦しみが段々消えていき、気が付けば……。








暗い……。


暖かい……。




「ぁぁぁああああっ!!」




「おぎゃあ! おぎゃあ!」




《また》産まれていた。

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