夢を叶えることについてのはなし

 中学生の時、ものすごい勇気を出して「小説家になりたい」と母に言ったことがあります。


 しかし


「ムリムリ! 小説家はものすごく勉強しないとなれない!」

と一蹴されました。


 わりと何でも「とりあえずやってみろ」と言う母がそうして否定したことに、ワタシは大層なショックを受けました。

 母が言う言葉をなんでもかんでも鵜呑みにするワタシは、正直そこで一旦夢を絶たれています。




 当時のワタシの学業成績はハッキリ言って『並/平均』。

 英語や国語は多少良かったものの、理数がまるでダメ。

 親の求める志望高校へは端から挑戦できず、ひとつランクを下げた高校を受験しました。


 しかし、そこには落ちました。


 落ちたことを咎められはしなかったものの、日常的に「あんたはあんまり頭が良くないから……」と言われるようになりました。


 「大好きで大切な親に期待などされていない」と、知らず知らずに刷り込まれていくその悪意なき言動は、無意識層下でワタシを深く傷つけていったわけです。




 親が言うくらいだからワタシは頭が良くないんだ

 親が言うくらいだからワタシは夢を叶えられないんだ




 長い間、ずっとそうしてワタシは自らを縛ってきていたのです。




 しかし、物語を書くことだけは止められませんでした。

 趣味だったからであり、とても大事な自己肯定の時間だったから。


 ワタシの物語が確立していく様は、世界中でたった一人、ワタシだけが知っていればいい。読者はいらない。


 そうして小説を書くことは、誰にも知られないよう隠して隠して生きてきたのです。

 読み合う相手が居るなど、微塵も想像もしていませんでした。

 「頭の悪い」ワタシの文章が、まさか誰かに評価などされるはずもないと思い込んでいたからです。




 しかし『信じられないことに』、ワタシの孤独に紡いだ文章が物語が、顔も声も見たことのないこの世の「誰か」に「いい」と言ってもらえました。


 「優しい雰囲気」

 「わかりやすい比喩」

 「素敵だと思った」──……


 あぁそうか、母のあの言葉は一種の呪いだったのか。


 そう思い、母の言葉をそうして溶かし赦すことにしたのです。




 腐らせていた勇気を取り戻したワタシは、ある時某出版社に原稿を持ち込みました。

 母にかけられた呪縛のせいで不明瞭になっていた自らのレベルを、どうしても知りたかったのです。




 その返事の先は?


 はてさて、どうなったことやら……。

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