君はやっぱりシンデレラ

朔月

日常も若干おとぎ話


「・・・なぁ。乙ゲー貸してくれない?」


今の僕は高校生活の中で、一番恥ずかしい状況に立っていると言っても過言じゃない!

案の定、女友達から訝し気に見られる。

”きもっ”と声を発していないけれど、目線だけで伝わる程の軽蔑の眼差し。


くそっ。こんなこと言い出さなきゃよかった!穴があったら入りたい・・・。

「え、何?あれだけ前に乙ゲー全否定しておいて?一応理由は聞いてあげるよ。」

「そのぉ・・・彼女と軽い喧嘩をしまして。何か俺との毎日は刺激が足らなくてつまらないらしい。」

「だから、乙ゲーに倣ってイベントを作ろうと?馬鹿なの?」

「だって・・・前にお前がこれで女心が手に取るように分かるって言ってたじゃんか。だから、言ってみただけだよ!」

はぁ、とため息をつかれる。単細胞だと言わんばかりの表情。

「ねぇ知ってる?私の持ってる乙ゲー、戦国ものなんだよね。」

「それ、タイムスリップしなきゃ無理だな。」

「刀を仕入れても銃刀法違反で逮捕だよ。未斗君、残念だったね。」

はぁ・・・。僕はどうすればいいんだ。

僕の彼女は、どうして普通に僕と一緒に居ようとしてくれない?

やっぱり僕に魅力が無いから?

「て、いうかさ。乙ゲーってファンタジーものだから。攻略対象知ってる?アイドルだったらまだましだよ。どこぞの御曹司や武将、一国背負う王様だったり、吸血鬼だったりするんだよ。」

「それって最早SFもんだろ。どうなってるんだよ、女心って。」

「乙女は皆、刺激的な恋愛がしたいものなのよ。皆ジュリエットなの、分かる?」

「時雨もそんなこと思ってんの?てか、そもそも乙女だっけ。」

そんなことを口走ろうものなら、頭を数回小突かれる。

「脳細胞減るから。止めてくれよ・・・・。」

「この脳には減るほどのものなんて詰まっていないでしょう。」

時雨曰く、ギャルゲーは殆どがJKなどの若い女。

若くなくても、シチュエーションはTHE普通らしい。

1人の女の子を選んで、気に入ってもらえるよう頑張り、日常を重ねながら一緒に過ごしていく・・・。俺の理想とする流れだ。

一方で驚いたことに、巷にある乙ゲーの中には攻略対象が神様ということもあるらしい。なんとまぁ、罰当たりな。

「はぁ?罰当たりだって?私のときめきを罰当たりって言わないで。無知め。」

「神様にどんなときめき引き起こせるんだよ。」

持ってるゲーム、戦国ものだけじゃなかったのかよ。

「えぇー。私がぁ闇の力が暴走するのを止めようとしたときに、”君だけにはこんな姿見られたくなかった!”って言われてぇ、んで・・・・」

ここからはもう話を聞かないことにした。

どういうことだ。ソファーでテレビを見てまったりして、料理を作ったりして、イチャイチャしてそのまま・・・。こんなことじゃ駄目なのか?

「あ、後ね一番の推しは新選組なんだけど・・・」

話を続ける時雨を無視し続けることが、ほんの少しだけいたたまれなくなったから、耳を傾けてみたけれど。

聞く価値は無かったようだ。

「男の気持ちも分かってくれよ・・・。そんな毎日毎日何かイベントあったら心がもたないだろ。てか、普通の男とのときめきを見出してくれよ。」

「じゃあそっちだって、女に若さと可愛さを求めないで。すべての女子があんなに可愛いげのある子な訳じゃないの!」

話は少しづつ壮大になっていき、最終着地点は”男女は結局分かり合えない。”という結論を叩き出しただけであった。


 

結局3日後、和歌ちゃんから振られてしまった。

そしてそれから3日後、和歌ちゃんに新しい彼氏ができたようだ。



「はぁ、全然何の感情も生まれてこない・・・。」

思った以上に失恋の傷が浅く、新しい彼氏の方が僕より身長が低く、むっとしたくらいの感情しかなかった。

時雨は珍しく僕の話に耳を傾けていて、それをいいことに僕は愚痴を続ける。

「和歌ちゃんな、行きたいところが無いって言う癖に、僕が行くところ提案しても全否定してくるんだぜ。試しに服装を褒めてみてもさ、全然嬉しくなさそうだし。酷くね・・・。」

「未斗君。はい、これ。」

黙りこくっていた時雨が出したのは、イケメンたちが勢ぞろいしているパッケージであった。

「とりあえず、これ。一回やってみて。おすすめはこの赤い鎧を着た茶髪ね。」

「何だよ、やんねぇーよ。」

「振られて何の感情も生まれてこない人間なんて、このまま一生女心を理解しようとしないで独身人生を歩んでいくといい。じゃあね。」

去り際に、絶対データ飛ばすなよと釘を刺された。

何だよ、この世は勝手な奴ばかりだなぁ。


とりあえず赤い鎧を着た茶髪を攻略することにした。

『目ざわりなんだよ、お前。』

何だこいつ、女子に向かってきつい言葉を浴びせて。こんなことを今の時代、教室の女子に言ったものなら総スカンの刑だ。絶対、嫌われるぞ。

『・・・何だよ。こっち見るなよ。』

そう言ってる赤鎧の顔は、鎧と同じような色をしていて。んだよ、ツンデレ不器用だったのかよ。可愛いな。

『お前が居てくれて・・・良かった。』

『俺はお前を守る剣だ。でもそれじゃあ・・・お前を抱きしめることができない。だから今だけは、男として俺を見て欲しい。』

ひゃぁ。こんな台詞、どんだけ面が厚くても言えないわ・・・。


結局、何だかよくない選択肢を選んだせいで、赤鎧と結ばれることは無かった。

でも、何だこの切なさは。1つのドラマを見た気分だった。


次の日。

時雨に乙ゲーを返しにあいつの教室へ行った。無言で見つめられる。これはきっと感想を求められている目だ。圧が凄い。

「まぁ良かったよ。赤鎧しかやってないけどさ。少なくとも俺よりかは女のことを考えてたっつーか。なぁなぁで付き合ってる感しなかったっつーか。」

「そりゃそうよ。でも乙ゲーはファンタジーなの。」

「知ってるよそんなこと。前にも言ってたよな。」

「違う違う、こんなまっすぐで不器用な男、この世では妖精みたいなものよ。・・・・そんな人、ほとんどいないから。」

「あーはいはい。悪かったですね、3次元の男は屑ばかりで。」

「・・・でも、私も人のこと言えない。」

「は?」

何故か時雨は、そのまま貸してくれた乙ゲーを乱暴に持ち去って、教室を飛び出していった―――。



あれから5年後。

乙ゲーが羅列された棚を見つめる。

「やっぱりさ、この赤鎧。僕に似てね?」

「何言ってるの、種族くらいしか被って無いから。」

結局、僕たちは結婚していた。

乙ゲーに倣い、というのは少々憚られるが、

沢山話して、会って、ちゃんと自分の気持ちを言って、

たまにはほんの少しだけ日常とは違うささやかなイベントを作り、

抱きしめるときには精一杯のロマンチックな言葉を添えていたら、

いつの間にかこうなっていた。


乙ゲーコーナーが作れそうな程に陳列された中に、紛れるように綺麗な女の子たちがうじゃうじゃいるパッケージが。これは、ギャルゲーではないか。少し古めの、5年前くらいにリリースされたもの。

「何だよ、これ。」

「・・・もらったの。」

「嘘つくの下手だなぁ。」

すると時雨は俯きがちに

「男心を勉強したかっただけ。」

そう補足してくる。恥ずかしがることか。もう、素直じゃない癖に健気だし。当たり強い癖に、何だかんだ甘えたな所もあるし。

何だよやっぱり可愛いなぁ。

彼女の可愛さを噛みしめながら、

”俺のジュリエット、結婚してくれ!”

という面白そうなゲームをまじまじと見つめる。

「そ、そうだ。未斗、このゲームやってみなよ。これは女心も結構いい感じに表現されててさ、おすすめですよ。女は皆ジュリエットみたいなもんだから、めっちゃ参考になると思うし。」

「良いよ、ジュリエットなんて。

 時雨は僕にとってシンデレラみたいなもんだからさ。」

彼女が、目を見開いて黙り込む。

「何だよ、何か言えよ。」

ふっ、何だよ結構勇気出して言ったのに。すると不意に彼女が抱きついてきた。

「今の言葉、一番の推しが言ってくれたから、もうっ最高。」

腕に力が入り始める。僕も彼女に応えるように腕を、背中と頭に添えた。

「私の王子様、お姫様抱っこしてよ。」

「じゃあ、あと2キロ痩せたらな。」

「けっ。失礼な奴だ。馬の餌にしてく・・・」

僕は彼女をお姫様抱っこして、キッチンに連れ込む。

「何?今日は馬肉でも使うの?」

腕の中で照れる時雨に、勝ち誇ったようなどや顔を見せつけたら、デコピンをくらってしまった。


おとぎ話のような甘さがほんの少し含まれているこんな日常を、

僕たちは今日も重ねていく。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

君はやっぱりシンデレラ 朔月 @pshmoon-32

★で称える ヘルプ

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ