セイゴの技

食事を終えたロレンはセイゴと共に冒険者ギルドへ来ていた。


「はいこれでギルド登録が終わりました。」


「よしロレン依頼を早速受けるぞ。」


「セイゴさん。何を受けるんだ。」


「ああ手始めに「おいおいこんなところに中年の《スライムの祝福》がいるぞ。チィとばかし教育してやろうか?」


セイゴの声を遮る輩がいた。


「雑魚に学ぶことは無いぞ。素人は基礎からやり直してきな。」


煽りを煽りで返すセイゴ。


「なんだと《スライムの祝福》の分際でこの《犬の祝福》の俺様を煽るとはいい度胸だな。やれ!」


この男連れている父の千より大きな犬系モンスターがセイゴに飛びかかる。


「はあ、ヌンぬん。」


セイゴはポケットから拳を抜き去り一歩前に進んでヌンぬんを纏わせた小さくキレのいいフックをモンスターの頭に放った。


「Ga!」


その鳴き声と共にモンスターは倒れた。


「なっ!?」


「だから言ったろうに素人は基礎からやり直して来いと、モンスターの扱いが甘すぎる。それにもっとマシな足運びをするんだな。」


いつのまにかセイゴは絡んできた輩の目の前にいた。


バサっ、


それは男が倒れた音だった。


「はあ。おい受付。」


「は、はい。」


チャリン


銀貨を投げた。


「コイツで衛兵に受け渡して置いてくれ。それと依頼はこれを頼む。」


セイゴはそう言い依頼書を叩きつけ早々にギルドを後にした。


「さて、ロレン。今回受けた依頼は悪魔の討伐だがお前の実力だとまだ難しい。だから見るだけにとどめて置けよ。」


「悪魔か。」


ロレンはその事実を素直に飲み込む。


根源種と呼ばれるレイと契約して実感している。まだ自分はレイを従える器にあらず他の野良スライムですら持て余してしまうことを悟っていた。


業魔は確かに使える。だがロレン自身がアレとの闘いで限定的だが生み出せた極致からすれば遠過ぎることを咀嚼していた。


「さて行くかな。」


門を出るセイゴ達。


「[フォルマ・アイアンホース]」


セイゴの指示と共にヌンぬんは鐙と一体化している馬の形を取る。


「チェシル[ジャックオーナイトホース]」


ロレンも移動手段になり得る技を造っていた。チェシルが分裂体を出し身体を植物に変化させ南瓜の蔓でできた炎の鬣を持つ馬を顕現させた。


「じゃあとっとと国境まで行くぞ。」


「あいよ。」


互いに馬に跨り駆け出す。その速さを見た《馬の祝福》を持つ相棒に跨った門番の兵士達は自分達の全力より遥かに上回る速度に驚愕していた。


パンパン


ときよりセイゴの方から音がする。だがセイゴは片方で鐙を扱い。後はぶらーんと下げているだけだ。


走って3キロはたったところにオーガの死体があった。


「なあセイゴさん。どうやったらそんなに早く狙い撃てるんだ。」


「そんなもん銃を自分の身体の一部としただひたすらに反復を繰り返す。それだけだ。最初は大きくのちに小さな的を撃ち抜く、敵に気付かれず殺気はほんの一瞬、そして最速の一撃を放つそれが俺のやり方だ。ロレン君も短い距離ならばツイストドローで当てられるだろう。それをもっと馴染ませてやり込む。難しいから最初は俺のを見て自分の型を作れ、それが一番の方法だ。」


「難しいな。」


「ロレン、お前は教えられることに慣れ過ぎている。社会に出れば教えてくれる人なんていないものさ。だからこそ自分が無知であることを絶対としわからないところを探し聞くもしくは盗み自分流に昇華する。それがやっと一人前と呼べるだろう。」


セイゴは生前はアメリカで会社員をしながら銃の訓練をしていた。故に社会で生き抜く基本をよく理解している。ロレンはまだ子供とはいえユウイチとの過激な修行に耐えている姿を見たセイゴはもう既に大人に限りなく近い思考ができると判断しロレンに教えている。


「やっぱり難しいぜ。セイゴさん。」


「なら螺旋の軌跡、この言葉の答えを探してみろ。それを見つけたらお前は一人前の道に一歩踏み出している筈だ。」


「螺旋の軌跡ね。」


ファニをクルクルと回し始めるロレン。


「ふわわわあ!主人〜目が回るよ〜。」


「そろそろ着くな。今度は遠距離ではなく近距離で仕留めてやる。」


ロレンがファニで遊んでいる間に着いたようだ。


だが肝心の悪魔は見えてはいない。だがロレンの研ぎ澄まされた感覚は何かがいることはわかっていた。


「空間系の悪魔はこのように罠を張り獲物を仕留める。本体は自分の空間に隠れていることが多い。故にそこに入るか引っ張り出す必要がある。今回は突っ込むぞ。ヌンぬん戻れ。」


セイゴがヌンぬんから降り真っ直ぐに歩き何も無いところに入り込む。


ロレンもチェシルの造った馬から降りそれに続く。


悪魔の創り出した空間は一言で言えば嵐の中だった。ありとあらゆる知覚的感覚が襲いかかる空間、それでいて足場不安定さを持ちまるで氷の浮島いるような感覚だった。一瞬精神を持っていかれそうになったロレンだがすぐに本物の感覚では無いと理解し氣と魔力を高め精神統一する。それと共に足場の感覚を完全に掴みとる。


「さてセイゴさんは、」


「ここだ。悪魔は二体いるみたいだし弱い方一匹やってみるか?」


二体の悪魔は二本の牛の角とゴリラの顔と身体に背中に大きな鴨の翼を生やした形をしていた。


「うーん当たって砕けてみるわ。ファニ[業魔・幸世創造]」


「そうか。もうくるぞ。」


悪魔達は既にこちらに迫ってきていた。


「貴様らよくもまあこの空間で喋れるからと言って我々を倒すというような戯言を言えるな。」


片方の悪魔が話しかけてきた。


「そうでもないさ。」


セイゴとロレンは攻撃を開始していた。


ロレンのツイストドローによる最速の抜きとファニの業魔により銃の威力を強化をする


セイゴが抜いたのはピースメーカー、ロレンと同じくツイストドローの最速の抜きと44マグナム弾によるピースメーカーの口径を最大限に生かしたピースメーカーに置ける最大威力の射撃を放つ。


「グフォ。」


セイゴが攻撃を仕掛けた悪魔は苦悶の声を漏らすがロレンが攻撃を加えた悪魔はどこ吹く風で何事も無かったかのように攻撃に移る。


悪魔はそのゴリラの拳でロレンを殴りにかかる。


「やっぱ初見だとわからないな。」


身体を大きく逸らし避けるロレン。


「俺もわからんぞロレンや。」


セイゴは腰位置のピースメーカーから悪魔の両肩をヒップショットで狙い放つ。


「じゃあなんでだ?」


銃の威力はほぼ同等に対してロレンの攻撃が苦悶をあげなかったのは急所としか考えられなかった。


「勘と経験。そして敵の心理になることだ。それが早撃ちでもスナイプショットでもとても重要になる。」


ロレンは悪魔に再び銃弾を放つ。


「敵の心理か。」


今度は悪魔の眉間に当てた。悪魔は初めて苦悶の表情をした。


「[44スライムマグナム」」


セイゴはヌンぬんに銃弾の形を取らせすぐさま1発を込める。


「よく見ておけロレン。」


コロラド撃ち


頭、心臓、脊髄の三点を狙う危険な撃ち方。さしもの悪魔もたじろぐ。


「これでラストだ。」


最後の1発は霊長類の位置で言う肝臓を狙ったものだった。


「UGaaaa!!」


肝臓から悪魔の身体が溶け出した。


「貴、様なぜ我、らのソレを知、っている!人間で、知、ることは不、可能な、筈。」


「知らねえさ、知ってるのは生きることへの執念だけさ。」


悪魔の身体は崩壊した。


ロレンは悪魔の攻撃を避けながら、セイゴの動きと狙いをずっと見ていた。


「ファニ、[最小魔王・一丸魔王軍・幸]」


業魔の形態のままファニを取り込むロレン。


「俺の幸せを定義しよう。」


ロレンの幸せとは頂を目指すこと。それに意味は無い。


あるのは達成感、はたまた虚無感か。


それはわからない。


否わかっていてもどちらでも良い。


最高の頂きに変わりは無いのだから。


「なあ悪魔さんやこの技の名前はスライムツイストドローって名前はどうだろう。」


その言葉と共にロレンは消えた。


そして悪魔は肺から下が無くなったことを理解した。


「旨そうな奴らが来たと思ったのにこれじゃあ俺たちが食い物にされてるじゃねえか。」


「一歩間違えればその通りだったぜ。」


「抜かせ、まあお前の中の面白いものは見れたしな。お前のスライムに一つ魔術をくれてやろう。」


そう言い悪魔はチェシルに触れる。


「俺たちの根源があの世に行くのを楽しみに待っているぞクソガキ。」


悪魔は消えた。それと同時に現実に引き戻された。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る