修行16日目
今現在ロレン達はユウイチの商会が作ったトレーニング施設にいる。
「ハァハァ。」
「ロレン君呼吸が乱れているぞ。そんなんではプロ試験に受からないどころか死ぬぞ。」
かれこれ5時間砂漠地帯を模した環境で歩いている。無論休憩も入れてはいるが水は抜きでだ。ロレンの肌が崩れかけるくらいには体力を奪われていた。ファニとチェシルはロレンの体内で水分の調整を行っていたがそれでも限界があった。レイは実力に違いがありすぎるため見学をしている。
「わかってらあ。」
「それだけ元気ならモンスター戦っても大丈夫だな。」
ポチッ
目の前に檻に囚われたグリフォンがいた。
「このグリフォンを倒せ、砂漠に適応した種だから強いぞ。」
グリフォンが檻から放たれた。それと同時に闘いのゴングが降りた。
「ファニ、チェシル!」
すぐさまファニとチェシルを体内から出す。
パキッ
さらにロレンの肌が乾燥し崩れた。
「短期だ。行くぞ!」
ファニとチェシルはロレンと共に駆け出した。砂漠の足場は踏めば踏むほどに沈む。体幹を維持しながら駆けるのはアメンボの容量に近い。
間髪を入れない走り方は無酸素運動だ。それでいて足を踏むときにはなるべく足裏の全体が着くようにしなければ沈みやすい。よって陸上の正しいフォームとは異なる走り方となる。
だがそれも無意味に終わる。
グリフォンは風を巻き上げ砂の中に次々と埋め込んでいく。そして出来上がったものは砂の竜巻と流砂だ。
ロレンの体制は崩されさらに砂の竜巻の風で水分を奪い肌に小さな傷をいくつもつけさせる。ファニ達もまた身体の水分を奪われそうになりロレンの身体に入り逃れる。
「[業魔・桜翁、犀花・統一花咲物語]」
手裏剣と棒手裏剣だけではない忍び装束も造り出したチェシルとの業魔。ロレンはアレとの闘いでできた業魔は限定的なものだったらしく使えていない。
「芽吹け!」
ロレンは煙玉を繰り出した。
「Gyaaaaaaa!!!!」
だがグリフォンはそれを砂嵐を呼び弾く。
「甘いわ!」
煙玉が割れ中から灰が舞い砂嵐と同化する。
灰は砂嵐に含まれる魔力を吸い魔力を水にし砂嵐に僅かに含まれる土の部分を掻き集め植物を形成する。そして砂嵐から巨大なアロエが咲き始めた。
アロエは水分を撒き散らし乾燥していた空間に一時的な潤いをもたらす。
「ファニ!」
ファニはロレンの指示と共にロレンの体内の右手に来ていた。
そこから繰り出すのはもちろんツイストドローだ。
ロレンとファニの最速を誇る技。
それだけではなく棒手裏剣も同時に放つ。
「Gyaaaa!!」
グリフォンは翼を羽ばたかせ風を起こし棒手裏剣を落としていく。だがファニは風で止まった棒手裏剣を利用し回転することで逆風を追い風にして見せた。
ファニは体当たりし貼りつくことでグリフォンの口と鼻を塞ぐ。
ロレンが勝利したかに見えたがグリフォンは獅子の脚を用いてロレンに一瞬で間合いを詰め鷲の凶爪を振り下ろす。
ロレンなす術なくその凶爪を身に受ける。
「アレに比べたら屁でもねえんだよ!!」
傷付きながらもグリフォンをぶん殴り僅かな傷をつける。
「ファニ、[アメーバブレイン]」
ファニが鼻と僅かな傷口からグリフォンの脳へ侵入した。
グリフォンは尚もロレンに攻撃を仕掛けようと爪を振り下ろすが
グリフォンの動きが阻害され自分のもう一つの前足を刺してしまった。
「ファニ、終わらせろ。」
グリフォンはこと絶えた。
ファニのやったことは脳に炎症を起こさせたそれだけである。アメーバは淡水に生息するが極稀に脳に侵入し炎症を起こさせ人を殺す。実際なる人は1%には遥かに及ばない数値で現実的ではないがスライムならば可能となる。ユウイチの授業により微生物を観察することで編み出した技だがこの技は相手が多少疲れていなければ使えない。故にアレとの闘いでは使えなかった。
「ロレン君。かかり過ぎだったから他のモンスターも出しておいたぞ。」
そこには数百は越えようかという蠍系モンスターとゴキブリ系モンスターの最小種のシロアリ系モンスターの大群がいた。
(死んだ。)
普通にそう思った。だがファニとチェシルは諦めていなかった。
ファニはグリフォンの肉体こ全ての細胞核を自分のものに書き換えた。
チェシルはロレンの身体を無理矢理動かす。
「ファニ、チェシル、お前たちでは相性が悪い。」
シロアリ系モンスターはすでにアロエを砂に変えていた。
そしてグリフォンの肉体を操ろうとしているファニにグリフォンの身体から毒を注入しようとしている蠍系モンスター達。ファニ達スライムは毒の種類にもよるがめっぽう弱い。
この相性の悪さとスライムには地獄に等しい砂漠という乾燥しきった環境からロレンは戦闘においては絶望的という判断をした。
「ファニ、チェシル。俺の身体に隠れろ!後は1人でやる。」
ロレンの指示にファニ達は一瞬の迷いが生じたがすぐに振り払いロレンの体内に逃げる。
(氣と魔力を全力で高めてやるしかねえ。)
ロレンは氣と魔力を高め全身に巡らせる。
そして靴を脱いだ。
(熱ぅ。)
当たり前だがロレンにはこれをしなければ勝てない気がした。
シロアリ系モンスターとサソリ系モンスターがロレンに群がり一斉に特攻を仕掛ける。
「喝ッ!!」
一喝でそれを弾き全ての指を使い虫の甲冑を貫いていく。これは例えではない。実際に全ての指を使い行っているのだ。手の十の指と足の十の指に神経を独立させ個々で動かす神業。一つ一つに頑丈なモンスターの肉体を砂上で貫かせるのはとんでもない瞬発力を必要とし、それを同時に行える練度が凄まじかった。
だがそれも長くは続かなかった。ロレンの爪が割れ始め、つぎに筋肉が壊れ始める。ファニとチェシルも頑張って修復しようとするが材料が足りない。
そう生命の起源、水分が。
5時間に及ぶ乾燥地帯の猛威がロレンを襲う。
ロレンの動きが止まった。
シロアリとサソリは障害が無くなった今、ロレンに食らいつく。自分達もまた水分を求めて。
肉が削がれ食われる。これもまた食物連鎖、ロレンの命もここまで生きた。
そう、ロレンは脱水に注ぐ脱水によって生命活動が完全に停止してしまった。ファニとチェシルはロレンの体内で生きているが時間の問題だ。
そうロレンは死んだのだ。間違いなく確実に人間という生命の限界を生き切ったのだ。
そうユウイチ達が新たな息吹を吹き込むまでは
「ドッカーン!」
ユウイチとその相棒の業魔である空気砲がシロアリ系モンスターとサソリ系モンスターを吹き飛ばす。
「[水]」
レイがロレンに水分を送り込み脈動させることで細胞に酸素を送る。ファニとチェシルも同時にロレンの生命活動に必要な細胞を再び動かそうとする。
「おーちょっと待ってろ。」
ユウイチが何かしようとする。
「ユウイチ、俺の方が早いぜ。」
その前にセイゴが引き抜いていた。
パァン
ロレンの心臓に電気が走った。セイゴが撃ったのは通称スタンガンと呼ばれる弾だ。ゴム弾に電気を流すことで敵を無力化する。それを心臓に当てたことで電気ショックと同じ現象が起きた。
「プッハア、」
息を吹き返すロレン。
「しっかし無茶苦茶だな。」
「お前もなセイゴ。でもまあプロ試験はこんなのばっかりだぜ。」
「うわあ、やりたくねえ。」
「なんだよ、セイゴも記念に受けたらどうだ。」
「まあ悪どい上層部の奴らの調べはユウイチのおかげでついたし受けてみるか。」
「おうロレンと一緒に受けてこい。」
こうして彼、セイゴの参戦も決まった。
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