毒の煉獄
「ここは……。」
そこは絶望の地。
「っていうことは。」
ロレンは辺りを見渡すと奴がいた。ファニが最も恐怖を抱いた生物が。
「冥福を祈ろうか。」
奴、三頭の頭を持つ二足歩行の龍の姿をしていた。だがロレンにとってそんなことはどうでもよかった。
龍はロレンの方を睨んでいる。
「ファニ達も居ないしな。どうするかな。」
冷や汗が止まらない。
デーモンオーガのとき感じた根源種の片鱗など紙切れ同然の威圧感。
ロレンは自然に根源種だと気づいた。
全身が既に逃げろと言っている。だが正に蛇に睨まれた蛙のように思考が止まる。否、王に処刑される受刑者の絶望的なまでの圧倒的な力を目のあたりにしている気分だった。
そして龍の鋭い爪の生えた右腕が降される。
だがロレンの身体は諦めていなかった。
全身が一度弛緩しそこから一気に収縮し身体を反らせた。ロレンはギリギリで避ける。
龍は構わずそこから右頭の口から毒霧を出し追撃を仕掛ける。
思わずロレンはそれを浴び吸ってしまった。
「グガギャギャァァァ。」
言葉にすらならない。ロレンはまるで全身が焼けるような感覚が走り脳の痛覚を処理しきれず身悶えていた。実際ロレンの身体が溶け所々に血が出ている。
龍は再びその右腕を振り下ろす。
ロレンの左の肩から手にかけてを失った。
もはや痛みは感じない。ただ死を待つのみ。
「違うだろ。
俺は、
◼️◼️◼️は、
最恐の意志を継ぐんだろうが!!」
ふとそんな声が聞こえた。
「ファニ!」
ロレンは叫ぶ。その声の主が誰かはわからない。だがそれが生きる理由になるには十分すぎるほど大きな理由となり原動力と化した。
だがファニは来なかった。それでもロレンは生きる為、未来を予測する。
全力で身体を捻り無理矢理飛ばして攻撃の射程外に逃げる。それだけではない自分に使える武器が視界に入るとそれをすぐさま手に取る。
手に取った武器は小太刀。
小太刀なら体術に近い立ち回りで戦闘を行うことができ尚且つリーチの差を埋められると判断したロレン。
だが龍は全ての頭から毒霧を吐く。
(近づけねぇ。)
ならば飛び道具になる物を探す。
すぐさま手頃な石を拾い投げる。
だが毒霧に当たると石は赤く光り溶けた。
「ッ!」
思わず舌打ちする。
さらにロレンは走りながら石を拾い投げていく。
ロレンが一見無駄な攻撃をしているようでそうでないと理解した龍はさらに毒霧を吐く。
「ハハッ。」
ロレンの毒霧を中和するという策は徒労に終わる。ロレンに勝機はないだが僅かでもいいそれを見出す為に笑ってポジティブに考えていた。
それでもいい案は思い浮かばない。
だがそれでも自分にできる全てをぶつけるにはどうすればいいか。
武器は?
手数は?
先程から腕からの出血と毒により意識レベルも危険なレベルに来ている。そんな極限状態でまともな思考をすることは不可能に近い。だが生を追い求めるロレンの細胞はファニとチェシル達の細胞操作によって得た経験から最善を尽くしていた。僅かな分裂可能な細胞から無理矢理傷を塞ぎ込み小さくだが止血をして、毒に対してリンパ球に働きかけ抗生物質を生産させ続ける。さらに身体に胃のバリアと同じものを展開させる。
致命的なのは体力は圧倒的に足りないこと。これでは肉体を回復する前に倒れる。
(最恐か。)
ふと思うロレン。目の前の生物は間違いなく最強であり最恐である。
では奴の根源、望まれた者とはなんだ。
(燃える毒、違う。)
毒の煉獄と呼ばれるにふさわしい高熱の毒霧それが根源と連想させるには十分かもしれない。だがロレンは違和感を感じる。正確には既視感。
(そうか。)
ロレンは悟った最恐を。
「[我が名ロレンの命名を持って全なる一を呼び覚ませ]」
ロレンは今ある氣と魔力を強引に動かして詠唱した。
「じゅじ〜ん!」
ファニは自分の右の傷口から出てきた。
「主人、お待たせ致しました。」
チェシルも左手から出てきた。
「ファニ、チェシル。」
言うのはただそれだけ。
ファニとチェシルはロレンの解毒と右腕を結合する。
「[業魔・根源]」
チェシルが新たな業魔をする。ロレンが創造した姿は全ての色が混じる虹色の炎を纏いし羽衣。
その虹色の炎は異質かつ未知に溢れていた。
「[業魔・最恐]」
ファニもまた新たな業魔を行う。創造せしは己の最恐の象徴。
斬
撲
撃
それら恐怖の象徴全てを持つ武器。
アパッチリボルバー
だがそう呼ぶには余りにも大きく有に30キロはありそうな金属の塊のようだった。
ナイフは刃渡り70センチ。その形状は先程拾った小太刀と全く同じであった。
ナックルバスターは既に打撃部に改造が施され関節部の1つ1つがハンマーに近い。しかも銃の引き金が内蔵されている。
口径は10センチを超えている。既に銃の領域を超えて大砲の部類に入る。
それが二丁。ナックルバスター部を持ちどちらかといえば剣を逆手で持っていると言った具合だった。
ロレンが創造したのはスライムの根源と己の最恐の定義。
そしてチェシルの、スライムの根源とは即ち
「チェシル、[
スライムとは元来アメリカの洞窟にある泥と共に吹き出た温泉と言われている。原住民からはとても気味が悪く不吉なものとされてきた。故に肝試しのようなことも行われたと聞く。
即ち恐怖と不気味の象徴に他ならない。
「さあ俺たちの根源を、最恐を獲得する時間だ!」
彼は根源種に叫ぶ。ロレン達は笑った。今度は強がりでは無い。仲間と共に高すぎる山を超えるのは楽しすぎるからだ。勝算は無いだが強がりでも無い、それは明確な目標を見つけた年相応の子供の童心であった。
根源種たる龍もまた全ての顔を笑わせる。
それは自分への恐怖では無く好奇心を持って挑む挑戦者らに歓迎と完膚なきまでに叩き潰すという強者の自負だった。
そして同類にして先駆者の導きが成される。
毒を限界まで濃縮そして圧縮して頭から放たれる3発の弾丸。
ロレンはすぐさま中に飛び回避する。
弾丸が通った先は底が見えないほど深い穴が開いていた。
そして再びその弾丸が空中にいるロレンに放たれる。
その瞬間洞窟という空間からマグマが吹き出てロレンを守った。
獄穴創造
古今東西の不に当たるあの世を創造し顕現するロレンとチェシルの技。正確にはチェシルが植物で作り上げた洞窟の一種であるが地獄と呼ぶに遜色はなかった。
ロレンはさらに木を生やさせ足場にしそのまま逆三角飛びをして龍の懐に飛び込む。
そこからナックルバスターで両脇の腰近くにワンツーを入れる。
ドスドスッ!
体重がよく篭ったいい二撃だった。龍はほんの僅か少しだけたじろぐがすぐさま攻撃に入って毒の弾丸を浴びせる。
「待ってたよ。」
ロレンは毒の弾丸を食べた。
ロレンの纏う炎が活性化した。それと共にロレンはさらに龍の端2つの頭にワンツー、肘打ちを放つ。その威力は先程の比ではなかった。さらに肘打ちの際にアパッチリボルバーの刃が鱗を斬った。
「Gaaaa!」
龍は初めて苦悶を出す。
毒とは種類にもよるがそのほとんどがタンパク質か酸で出来ている。つまり合成のやり方次第では生物の増強が可能となる。龍が放った毒は強酸ベースの混合毒だった。故にロレンとチェシルはその毒を解析、分解しアミノ酸と高濃度の酸素に変えた。
高濃度の酸素はエネルギーの塊、一歩間違えれば死を免れない。だがロレンとチェシルはそれを堂々とそして躊躇なく使った。それはこの闘いに置いて命を天秤に掛けなければ命が取れないのだから。
龍もまた本気を出すことにした。
龍は全ての口を半開きにしながらロレンに凶爪の連撃を繰り出していく。
ロレンはナックルバスター部とナイフ部を使って起動を次々と逸らしていく。
不意にロレンの意識が無くなった。龍はすかさず切りつける。
「グファッ!」
(なんだ。わからねえ。)
何をされたのかはわからない。闘いは流転した。
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