番外編 魔法少女シルバームーン

2129年9月28日、日本の東の都にて



「はぁっ、はぁっ、はぁっ!」



夜の街を女子高生が息を切らしながら必死の形相で駆け抜ける。

通り抜けているのは道と呼ぶには憚られるビルとビルの間にある細い隙間でゴミ箱やビールのケースなどが乱雑に置かれており非常に走りづらい。

細い路地裏には街灯が届きづらく月の明かりだけが頼りだった。



「だれかぁ!誰か助けてぇ!」



しかし、こんな人通りのない場所では答える者など居ない。

恐怖で涙が溢れてくるのを必死にこらえて走り続ける。



「くふふふふぅう待ってよぉ、お嬢ちゃんおじさん追い付けないよぉ?」



禿で小太りの男が女子高生を追いかけてくる。

そう、女子高生はこの男から逃げていたのだ。


小太り男はこの辺りの路地を知り尽くしているらしく然程速く走っている訳でもないのに女子高生との距離を徐々につめつつある。

22世紀の日本の首都であるが、こういった場所は監視カメラの目が届いていなかった。


女子高生は振り返って小太り男のニチャリとした表情を見て焦ってしまいよく確認せずに路地を左に曲がってしまった。




「あっ、あああああああ!!!」




曲がった先は、コの字になったビルの採光用の空間で何処にも行けない完全な行き止まりだった。

あまりの絶望に意味のある言葉を紡ぐことができない。




「もう逃げられないよぉん♪」




舌なめずりをしながらゆったりとした歩みで小太り男は距離を詰めてくる。

開いた胸元から汗ばみボーボーに毛が生えた贅肉だらけのだらしない胸板が見える。

あまりの気持ち悪さと恐怖に精神が限界をむかえた。




「い、いやぁああああああああ!!!」

「フヒヒヒヒヒ!!!いただきまーす!!!」




どこぞの怪盗のように空中で脱衣しながらジャンピングアタックをした瞬間、パーン!と何かしらの攻撃を受けた小太り男は地面に叩きつけられた。




「ぶ、ブヒィ!(ガクリ)」

「ひいぃっ!!!」




女子高生は、小太り男がいきなり気絶したのを見てビックリしたが危機が去ったのを感じ安堵した。




「た、たすかったぁ~。でも、一体何が・・・」




上の階から誰かが何かを小太り男に当ててくれたのだと思いビルを見上げると採光用の窓しかなく人の手で開けられるような感じではなかった。

更に視線を上に向けると屋上に人影があった。






満月の夜に神々しく輝く金髪と真珠のような白い肌―――






外見は、17歳ほど。

西洋人形のような顔立ちをしている恐ろしいほど美しい少女―――






ただ残念なのは、ピンク色でフリフリの魔法少女コスプレをしてフェンスの上に足一本で立ち、うざいキメ顔とあざといキメポーズをしていなければ何の問題もなかったのだが・・・




「困った人をなんとなく救う、魔法少女シルバームーン!月に呼ばれて参上よ!(ぎゅぴーん☆)」




何かいきなり大声で名乗りを上げて更なるキメ顔&キメポーズ(横ピース)をかましてきた。

どうリアクションをしたら良いのかさっぱり分からなかった。




「僕ちゃんはまだ、死にましぇーん!」

「ッ!?」




先ほどまで伸びていた小太り男が叫びをあげて飛び起きた!

全裸状態の小太り男が欲望にまみれた視線で女子高生を舐めまわすように見つめてくる。

口から涎を垂らしているのですごく怖い。




「若き乙女をつけ狙う不届きな豚は、月に代わっておs・・・滅殺よ!マジカルぅうう!!」




そう言いつつ魔法少女は、手に持っていたショッキングピンクの杖をポイッとその辺に投げ捨てて腰だめに構えを取る。



「杖を捨てたぁあああ!?」

「ブヒィ?」



屋上に向かって全力でツッコむ女子高生とそれを不思議そうに見つめる小太り男。




「正拳突きぃいいい!!」

「・・・?べごぉぉおおお!?」




魔法少女?の振りぬかれた拳から謎の衝撃波が発生し小太り男を地面に叩きつけた。

こちらの腹にまで響く衝撃音と突風がその威力の凄まじさを物語っていた。


よりによってマジカル正拳突きって・・・すごく・・・魔法 (物理)です。

小太り男は、今度こそ完全に死ん・・・気絶していた。結構やばそうな感じに血が出てるけど気絶だった。・・・後でちゃんと生き返らせるので結果的には、気絶なのだ。




「へ、変人?変態?・・・あれ?もしかして読者モデルのスティファニーちゃん(23)?」




よーく見ると知っている顔で6年ほど前からファッション誌を中心に活動していて、世界が凍りつくほどの超絶美人なのに間の抜けたぽや顔で親しみやすく巨乳が売りでやたら永遠の17歳を主張してくる最近ブレイク中の不思議系読者モデルのスティファニー(23)だった。

本人が若作りの童顔美女なので非常に似合っているのだが23歳のいい歳をした女性が魔法少女のコスプレをしていると思うと非常に痛々しかった。

思わず、うわぁって感じの視線を向けてしまうのは仕方のない事だった。




「え?きゃぁああああああ!!!!!認識阻害かけ忘れてたぁあああああああ!!!!」




何か悲鳴を上げて取り乱して屋上のフェンスから足を踏み外しこっちに向かって落ちてきた!




「え?ちょっとぉおおお!?」

「ひっさーつ!記憶が消える不思議な光アターック!」




彼女は、落下して混乱しているのかよく分からない事を叫んだ。


その瞬間――――




◆◇◆◇




「っ、まぶしっ!・・・あれ?」


女子高生は、いつもの通学路沿いにあるコンビニの前で呆然と立っていた。




「ん?あれぇ?何が眩しかったんだっけ?」


そういえば、このコンビニ今時古臭いLEDの照明を使っていたなと思う。




「LEDの光って眩しすぎるから嫌いなのよね・・・」


さっさと新しい照明に交換してほしいと思う。

まだ何か違和感と言うか、何かを忘れている気がするのだが思い出そうとするとどうでも良さそうな気がしてきて家に着いた頃には完全に忘れてしまった。


―――端末デバイスのログを開くまでは。




◆◇◆◇




「ふー、あぶなかったぁ~」


街の夜空を時速30kmぐらいのスピードで飛行しながら安堵のため息をつく。


せっかく女の子なんだしと思って毎月満月の日に魔法少女ごっこをしていたら今日は、うっかり認識阻害の魔法をかけるのを忘れちゃったんだよね。

あの子以外の他の人に目撃されてなければいいんだけど・・・


それにしても、(23)って何よッ!確かに地球ではそういう設定だけども!

私は、人間で言えばまだ11歳になってないんだよ!


確かに外見17歳の魔法少女はギリギリアウトな気がしなくもないけど・・・orz

んー、やっぱり外見もロリ化しておいた方が良いのかな?



「では早速、変☆身!」



アニメのような小粋な演出など何もなくて一瞬にして約11歳相応の体形に変化した。

やっぱり魔法の力はすごい。


一部自己主張しまくっている双丘が身体相応の比率で残ってしまってロリ巨乳状態になってたけどね・・・

そして急激に体形が変わったから上着は兎も角、下の衣装はストーンと落ちて夜空にバラバラっと散っていった。




「にゃぁああああああ!!!!」




涙目になりながら何とかスカートとパニエとパンツとソックスを回収したけど靴は、重いから落下速度が速くてどこに落ちたのか分からないから諦めた。

こういった自分の迂闊さが時々嫌になる・・・


でも最低限パンツを回収できてよかったよ。

見知らぬキモオタに拾われてクンクンペロペロされるんじゃないかと思うとゾッとするし・・・

そういえば、靴フェチという上級の変態が居るらしいけど・・・うん、考えないようにしよう。




◆◇◆◇




―――数日後の地球にて・・・




『困った人をなんとなく救う、魔法少女シルバームーン!月に呼ばれて参上よ!(ぎゅぴーん☆)』

『若き乙女をつけ狙う不届きな豚は、月に代わっておs・・・滅殺よ!マジカルぅうう!!正拳突きぃいいい!!』

『ひっさーつ!記憶が消える不思議な光アターック!』




「ブハッ! げほっげほっ」




オープンカフェで紅茶を飲んでいたら街頭のモニターにこの前の魔法少女ごっこをした時の映像が映し出されたのでビックリしてむせてしまった。


何てことなの・・・あの時の女子高生ちゃんの記憶を消したのは良かったけど端末デバイスのデータを消去し忘れてたぁあああああ!!!



一応、黒い目隠しバーがされているけど時々ズレたり細くなったりしてぜんっぜん隠れてないよ!

このカス放送局め、私にケンカ売ってんの?




『この痴女・・・いえ、魔法少女の正体は一体誰なんだ!?(半にやけ)』

『うーむ、私たち素人には何ファニーさんなのかサッパリ分かりませんね。』




誰が痴女よ!あのクソ司会とクソコメンテーターめ!分かっててやってるよね?




『さて次のコーナーは、写真集ダウンロードランキングです…おおっと!?数日前からギュンと伸びたのはスティファニーちゃん(23)だ!元々ぶっちぎりの1位だったのに魔法少女コスの威力恐るべーし!』

『私も昨日ダウンロードしました。魔法少女の衣装を着て色々なポーズをとっているのが良いですな』



なんてこったい!

あの映像がもう写真集になって出回ってるし!

端末デバイスを見ると口座の金額がリアルタイムでぎゅんぎゅん上昇してるから怒りづらいし!


それに記憶を消す手段は、もう使えない・・・



『僕としては、もう少しロリロリしている方が好みなんですが・・・』

『ありますよ。』


『はい?』

『少々値が張りますがプレミアム版の特典映像にロリコンなら泣いて喜ぶこと間違いなしのものが・・・少し見ますか?』


『ほほう!・・・これは!?・・・(トトントントントン、キュピーン!)光の速さでダウンロードさせて頂きました。』



こちらには見えなかったけど、ロリ変身したところまで撮られてたの!?

・・・・・・と言うことは、下半身すっぽんぽん映像が世界中に・・・!?



口座の数値が更に勢いを増して上昇し始めたし!?




「・・・・・・アッーーーーーーーーー!!!」








後で自分でもダウンロードしてチェックしたら申し訳程度にモザイクがかかってたよ。









この時、余裕がなかったから気づかなかったけど・・・一部の地球人に異世界と魔法の存在がバレてしまっていた。

空を自由に飛び回ったり、体の部位欠損や脊椎損傷を楽々治せる22世紀の科学レベルでも流石に若返っても体は縮まらんやろが!と一人の科学者がツッコミを入れたせいだったりした。


to be continued...


(なろう版には挿絵あり)

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転生TSエルフ娘の日常(カクヨム版) @rotlowe

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