8-8.淑女の休日

・・・朝


小鳥のさえずりを聞いて目が覚めます。


ごきげんようわたくしは、エルフの王女にして次期女王スティファニー・オルティスですわ♪


「ふ、あ…」


口に手を当て小さくあくびをすると少しは眠気が引いたような気がします。

薄暗い部屋に光を取り込むため雨戸を開けると小鳥が部屋に入ってきて私の肩にとまりチュピっと可愛らしく鳴いた。


「ふふっ、おはよう小鳥さん。今日も良い天気ね♪」


再び鳴いた小鳥は、窓から大空へと旅立っていった。

微笑みながらその姿を見送っていると「くぅー」っとお腹が鳴りました。


「・・・お腹が空きましたわ」


髪を整え、着替えを済ませて宿の食堂に行くと朝食の良い匂いが漂っています。


「ごきげんよう。良い朝ですわね♪」

「ご、ごき?・・・お、はよ・・・う、ござい・・・ます。」


給仕の女性に挨拶をしたら何故か顔が引きつっていらっしゃいます。


「あら大変、お体の具合でも悪いのかしら?」

「い、いえ。な、何でもないです!」


慌てて去っていく姿を見ると筋肉や骨の動きに違和感がないので体調は悪くなさそうでした。


席に座り朝食が来るのを待っていると何故か宿泊客達からの視線をひしひしと感じます。

あらあら、わたくしの淑女オーラが漏れ出ちゃったかしら?


ひそひそと小声で殿方達がわたくしの事を話しているようね。

少し気になったのでエルフイヤーの感度を上げてみますわ。


「(可哀想に、あのエルフのお嬢ちゃん頭でも打ったのかな?)」

「(ああ、そうとしか思えねぇぜ。こんな安宿の食堂にあんな高そうなドレスを着てくるとか・・・)」

「(だよな、こんな安宿で着る服じゃねーよな)」


「安宿で悪かったですね!朝食抜きにしますよ!」

「「「ああああ!ごめんよミナちゃん!言葉の綾なんだゆるしてぇええええええ!!!」」」



・・・ふっ、ちょっとばかり淑女レベルが高すぎて一般人には理解することができなかったようね。

むしゃむしゃと朝食のパンをかじりながらドレスのランクを少し落とすことを決意したわたくしだった。




◆◇◆◇




流石に街宿で舞踏会用のドレスは、少々やりすぎのようでした。

サ○コも驚く巨大化ギミック付きの一品でしたのに・・・もったいないですわ。


仕方がないのでお嬢様風白のサマードレスに、つばの広いオシャレな麦わら帽子とかわいい青のサンダルを履いて・・・今度は完璧ですわ!

これならレベルの低い下々の方々にもわたくしの魅力が伝わりますわね♪


小ぶりの手提げバッグを持って静々とフォーレの街を歩いていきます。


まだまだ早朝なので普通の店は、開店準備中ですど朝市の方は人がごった返すほどにぎわっていますわね。

目新しい食材はあまりないけれど雰囲気を楽しみつつ人ごみの中を歩いていきます。


キョロキョロしながら歩いていると突然バッグが何者かに引っ張られて奪われそうになります。

けれどわたくし腕力・・に敵うはずもなく引ったくり犯は、紐につながれているのを忘れて全力ダッシュをした犬みたいに体勢を崩して転んでしまいましたわ。

オシャレ用の小道具でしかないバッグには何も入っていないので盗られても問題ないのですけどね。


犯人を見ると薄汚れた男の子でした。


事情を察したわたくしは、銅貨をアイテムボックスから数枚取り出して男の子に握らせました。

金額が少ないのは、ケチった訳ではなく銀貨や金貨のような大金を持たせても誰かしらに奪われてしまいます。

下手をしますと男の子が殺されてしまう可能性を考慮すれば銅貨を渡すのがベストなのです。わたくしってば超頭いい!


「ケッ、これだけかよ!金持ちそうなのにビンボー女!」


男の子は、悪態をついて去って行きました。


わたくしは、クソガキの尻をぶっ叩きたい衝動を抑えつつ青筋の浮いた笑顔で男の子を見送ります。

淑女たる者、あの程度の事でキレてはいけませんわ。

気を取り直して街巡りを再開致しましょう。


さて、この街のナウい女の子達はどういう場所に行くんでしょうか?

アールストなら甘味の屋台がありましたし困ったらレストランに行けば転生コックさんのオシャレなスイーツを食べられましたし・・・


あてもなくウロウロしておりましたらおあつらえ向きのオシャレっぽい喫茶店があったので休憩していきましょう。



「うーん♡このケーキ美味しいですわ♪」


手づかみでモシャモシャとケーキを食べ終わると次のケーキにとりかかります。


「こちらのケーキも美味しいですわ♪」


手についたクリームを舐めとり次のケーキを求めて手を伸ばすともうお皿にはケーキが残っていませんでした。

ちょっと物足りませんわ・・・8ピースでは少なかったかしら?


後ろ髪を引かれつつお会計を済ませてブラブラと街歩きを再開します。




しばらく歩き回っていたら公園に辿り着きました。


慣れない事を長時間続けて疲れたのでベンチに座って休憩するよ~。


はい、【淑女モード】OFF!だる~ん。




「お!そこに居るのは、フィーアちゃんじゃん久しぶりー!」


しばらくぼーっとしてたら若い男の声が聞こえてきた。

ケッ、リア充の匂いがするよ。

久々に会った男女はしっぽりと何処に行くんでしょうね?淑女の私には分からんよ!


「フィーアちゃんってばこっち向いてよー!久々すぎてまた、俺の事忘れちゃったの?」



HAHAHA!ざまぁ!無視されてるよwww



「おーい!フィーアちゃん無視しないでよお願いだから!」


面白そうなので男の声がする方を見ると満面の笑みを浮かべた軽薄そうな男がこっちに近づいてきた。


「やーーっとこっち見てくれた!相変わらずつれないねフィーアちゃんは♪」


はて?私を挟んで後ろの方にフィーア女史が居るんだろうか?

そう思って男の視線の先を確認したけれどベンチの上で膝を抱えているオッサンしか居ない・・・まさか、あれがフィーアちゃん?


・・・な訳がなく男は私の隣にどかりと座った。


「新手のナンパでございますか?」

「はぁ?どしたのフィーアちゃん俺だってば俺!」


はぁ?って言いたいのはこっちだよ!オレオレって誰だよ!


「“俺”なんて方は、知りません。わたくしのことは放っておいて下さいまし!」

「ちょ待ってよ!何怒ってるのさフィーアちゃん!」


だから、私はフィーアちゃんじゃないし!・・・そっか、それを言えばいいよね。


わたくしは、フィーアなんて名前ではありません!あんまりしつこいと人を呼びますよ?」

「分かった!ごめん!俺が何かやらかしちゃって怒ってるんだろ?謝るから何で怒ってるのか教えてくれ!」


知らねぇえええよ!強いて言えばお前が居ること自体が怒ってることだし!めんどくさいなーもうっ!どっか行ってくれないかなー!

ベンチから立ち上がってツカツカと歩いて逃げたんだけど男はしつこく纏わりついてくる。


「待ってよフィーアちゃん何にも言ってくれなきゃ何だか分からないよ!」


奇遇ですね、私にも何だか分からない!

いい加減堪忍袋の緒が切れそうなので〈縮地〉を連続発動して1秒もしないうちに4kmほど離れた所にある街で一番高い役所の屋根の上に逃げ出した。

立派な建物で高さが200mぐらいある。


「ふぅー、しつこかったぁー」


安堵して気を抜いたところで・・・


「待ってよフィーアちゃぁん!」


すぐ後ろから撒いたはずの男の声が聞こえた。




なっ!?




何だコイツ・・・私のスピードについてきた!?


あんまりにもびっくりしたのでつい本気の裏拳を放ってしまう。

しまった!普通の人は、かすっただけでも爆散しちゃう!



しかし、私の心配を他所に男は余裕をもって拳を回避していた。



早い!?

っていうことは・・・


「へ・・・」

「へ?」


「変態だぁあああああああ!!!」


そう、変態は素早い。

だから素早い奴=変態なんだよ!(偏見)


パニックに陥った私は、屋根から飛び降りる・・・下には都合のいい事に衛兵さん達がたくさんいた!



「たぁすけてぇええええ!!!」


「隊長!空から女の子が!・・・白です!」

「うむ、確かに白だ!まさに、天空の白!」


衛兵のバカ共は、パンツばっかり見ていて誰も受け止めてくれそうになかったので仕方なく自力で着地する。



ズダァーン!



なるべく体のバネを使って衝撃を殺したけど石畳にヒビが走ってしまった。


あ・・・私、空を飛べたわ。

そんなことも忘れるほど焦っている。


とりあえず衛兵の隊長さんに助けを求めるために駆け寄る


「助けて下さい!変態に追われているんです!」

「ふむ、その変態は何処だね?」

「あそこです、あそこ!」


指をさして何とか伝えようとするんだけど人間の目では、小さすぎて見えないみたい。

首を上に向けるのも辛いし



お?

変態が鋭い眼差しでこちらを見ている・・・先ほどまでの軽薄な表情は一切ない。


何かを呟いたので読唇術で解読してみると


『人違いか・・・顔と胸はそっくりだが、戦闘力は低いし■■■■■■か』


一部解読失敗、唇の動きが小さすぎるよ。

普通に話すぐらいの声ならエルフイヤーで聞き取れたと思うけど声も小さすぎた。


変態は、私への興味を失ったようで消えるように居なくなった。




緊張の糸が切れて足に力が入らなくなり地面にぺたんと座り込んでしまう。


「大丈夫かね、お嬢さん!?」

「・・・あ、はい。変態が逃げたみたいなので安心したら気が抜けてしまって」


「着地した時に足でも痛めたのではないかね?」

「いえ、ケガとか特にしていないです。鍛えてますし。」

「「「(鍛えてるとかいうレベルじゃないだろ!あんな所から落ちたら普通に死ぬわ!)」」」


何か、衛兵さん達の心のツッコミが聞こえてきたけど無視しよう。


衛兵さん達にお礼を言って街歩きに戻ることにした。

っていうかパンツ見られただけで衛兵さん達は何もしてないけどね。



それにしても女の子の一人歩きは危ないかも知れない。

って言うかすっかり忘れていたけどエルフの未成年は、里の外に出ることはない。

私は、例外中の例外だけどね。


理由としては、精神が未成熟だから様々な犯罪の被害者になってしまうからなの。


1000年以上前からそんな状態だから、未成年のエルフ・・・しかも女の子がフラフラ歩いているなんて

カモがネギを背負って歩いてるどころか良い感じに煮込まれて美味しそうな匂いを漂わせていると言っても過言ではない。


よーく考えたら私ってばすごく危ない状況じゃない?

今思えばアールストでは、街の皆が気を使って暖かく見守ってくれてたみたいだね。


だけど・・・この街は違う。



「下心を持った変態が相手なら・・・武器を使わざるを得ない!」



お昼ご飯を食べたらちゃんとした護身用武器を手に入れよう!

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