2.転生者が強いというのは甘え(前編)

7月18日土の日

スティファニーです。

今日も今日とてギルドの受付業務をこなしていると・・・


突然ドバーン!!!っと激しい音を立ててギルドの入り口のドアが開かれた。


あ、ザッコスさんが吹っ飛んだー!

一体どこのバカだよ!


扉を開けたのは10代前半のアル君と同じ歳ぐらいの少年でその表情は自信に満ち溢れていた。

茶髪、茶色の瞳、そこそこ整っている顔をしている。

辺りを見回してフンッ!と小馬鹿にしたように鼻を鳴らすとこちらに向かって歩き始めた。


「オイ、そこのガキィ!ちょっと待てやぁ!扉は優しく開けなきゃダメだろうが!」

「そうだぞ!さっき開けた扉がザッコスにクリティカルヒットして気絶してるんだぞ謝れよ!」


「フッ、早速絡まれたな…テンプレってやつか?雑魚冒険者共が…」

少年は、やれやれとむかつく表情で冒険者たちをバカにした。


そこに・・・

「悪いことしたら、ごめんなさいでしょ!」

「へぶッー!」

ガツンと私のゲンコツナックルが生意気な小僧の脳天を直撃した。


「ああ、もう!ザッコスさんの魂が半分はみ出てるし!カムバーック!〈エクスヒール〉!」

・・・ふぅ、間に合った。危うくザッコスさんが昇天する所だったよ

いくらザッコスさんでもドアにねられて死亡は可哀そうすぎる。


「ぐぉおお痛い!な、何だ?受付嬢が絡んでくるパターンだったのか?」

むー?先ほどからの言動を聞いてると間違いなく、この子は転生者だね。


「こらキミ、何で自分は悪くないみたいな顔してるの!ちゃんと皆にごめんなさいしなさい!」

「何で俺が謝らなくちゃいけないんだ?絡んできたのはそいつ等で先に殴ってきたのはアンタだろ?」

何てクソ生意気な!


「フンッまあいい。見逃してやるからさっさと冒険者登録をしろ」

ムキー!・・・腹立つけどさっさと登録してお帰り願おうかな。

クソガキに申込用紙を渡して記入させる。


えっと名前は、クロード。クノーク村出身の12歳かー


ふーん、魔法が使えることを自慢げに書いてあるね。


魔力測定は、一般のCランク相当・・・孤児院チルドレンの平均値の半分ぐらいだから大したことないね。


戦闘力測定は、ケイレブさんに攻撃魔法を軽々受け流されシールドバッシュで吹っ飛ばされて負けていた。ああ、やっぱりケイレブさんカッコいいなー♡

えっと・・・何だっけ?クソガキの戦闘力は、魔法職系のCランクってところかな?


普通の一般人と比べればかなり優秀だけど、孤児院チルドレンと比較しちゃうと霞んじゃうねー


「フッ、どうだ俺の実力は?凄過ぎて言葉もないか」


すごく微妙すぎてコメントしづらいです。

格好つけるなら魔力測定の水晶を爆発させたり、せめてヒビぐらい入れて欲しいよ。

戦闘力測定も試験官をぶっ飛ばすとかさ・・・負けてるじゃん


「こちらが冒険者カードです。再発行すると高いですから無くさないで下さいね。」

「・・・何だこれは!どうして俺がGランクなんだ!」

うわぁ、モンスタークレーマーなの?


「未成年の飛び級は、認められてないので地道に頑張って頂くしかないです。」

「チッ、すぐに大物を狩って実力を認めさせてやるぜ!」

と言って去って行った。何であんなにケンカ腰でイキってんだろね?

飛び級は無いから大物狩っても意味ないのに・・・話をちゃんと聞いてほしい。


スギルの時の例もあるから一応お昼ご飯を食べた後に様子を見に行ってあげるかな~




◆◇◆◇




Side:クロード


俺は、転生者だ。前世の名前はダサいから言いたくない。

50歳無職で童貞。最悪の人生だった。

趣味はゲームをやったりラノベを読み漁る典型的なオタクで友達もいない。


若い頃から無茶な仕事をして40歳でリストラされて10年間再就職できずに貯金を食いつぶして生きてきた。


コンビニ帰りにトラックに轢かれそうな幼女を助けようとして車道に飛び込んだのはいいが体が鈍っていて全然間に合いそうになかった。

後ろから俺を抜き去ったイケメンサラリーマンが華麗に幼女を助けてしまう。

トラックは、そのまま走り抜けていった。


ちくしょう!幼女をペロペロするチャンスだったのに!  ゴガッ!

視界がグルグル回る、今どっちを向いているのか分からない。


・・・そうか、俺が車に轢かれて…意識はそこで途切れた。



気が付いたら赤ん坊になっていた。

すぐに異世界へ転生したことに気付いたので赤ん坊の内から鍛え始めた。


村では何をやっても一番だったし神童と呼ばれた。

誰も転生者である俺に敵うはずがない。


アールストの街では、強い大人がいた。流石Aランクだ自慢の魔法が全然通用しなかった。

でも慌てる必要はない。

俺には地球の知識があるし、赤ん坊の頃から鍛えているから誰よりも強くなれるはずだ。


まずは、あの生意気な受付嬢の鼻を明かしてやる。

俺は、強い魔物を求めてどんどん森の奥へ進んでいった。




◆◇◆◇




クロードを探して森の奥に進んでいくと戦闘音が聞こえてきた

急いで駆け付けるとクロードがオークキングと死闘を繰り広げていた。


防御に失敗したのか左腕がグニャグニャに曲がっていて痛々しい。


剣も多少使うみたいだけど我流で変な癖がついていて力を出し切れていない感がある。

やれやれ、中途半端に優秀だから村でヨイショされて天狗になっちゃった感じかな?



善戦している様に見えるけど、あれは完全に遊ばれている。それに全く気づいていない。気づいていたらさっさと逃げるべきだから。

腕のダメージのせいで徐々に動きが鈍ってきているし

唯一拮抗している速さが保てなくなったら惨たらしく殺されるだろうね。


あ、回避に失敗して吹き飛ばされた!助けないと!



ピシャーン!



「ブヒィィ!!!」

破裂音と共に血しぶきが舞いオークが苦鳴をあげる。あれは…〈打空鞭だくうべん〉!遠距離にムチの打撃を飛ばす武技アーツだ!


「くっ誰だ!俺は、助けなんか求めてないぞ!」


「あら?立つこともできないのに口だけは達者なのね?」

声がした方向を見上げると見覚えのあるダークエルフの姿があった。


キャンディスは、樹上10m程の枝からシュバッっと飛び降りて登場し・・・着地で小石を踏んづけてグキリと足をぐねっていた。ああ、ちょっと涙が出てる。

魔力を器用に使って足でヒールを発動させて誤魔化してるし、ププーッ


「そんな体じゃもう立ってられないでしょ?そこで見てなさい。」

ショートウィップ(短鞭)を構えてオークキングへ向かっていく


武技アーツ豚殺しオルクボルグ〉!」

ムチの連撃がオークキングを叩き伏せる。


「ブヒィィイイイイイイ!!!」

一際大きな苦鳴を漏らしたオークキングは倒れ伏しビクンビクンするのみでもう死んでいる。

さすがキャンディ、Sランク冒険者なだけあるよ。

何度見ても幸せそうにヨダレを垂らすオークの顔は気持ち悪いな~


それにしても豚殺しオルクボルグはムチの連撃で強制的にテクノブレイクさせてイカさず殺すホントに酷い技だよ。

今更だけど、何て恐ろしい武技アーツを編み出してしまったんだ私は・・・



「くっ、畜生!」

実力差を見せつけられてクロードは悔しそうにしている。


「ティファ、私は回復魔法苦手だから治してあげて」

私の居る方を見てキャンディスが声をかけてきた。


「さすがキャンディ、居るのバレてたのね。」

「上から丸見えだったわよ?」

茂みから抜け出してクロードの傷を見る。



「あーあ、結構やられてるね。普通の医者や治療術師程度じゃ切断ものだよこれ」

「そんな!腕がなくなったら困るんだ何とかしろ!」


「あー、今ので治す気なくしたわー帰ろっかなー」

「・・・そうね、可哀そうだけど仕方ないわね。」


二人してプイッと街の方向に歩きだしたらクロードが泣き始めた


「おねがいじまず!なおじでぐだざい!」


うーん、最初から素直になっとけばいいのにね。


「むー、どうしよっかなー?やる気でないなー」

「ティファ、もういいでしょ?意地悪しないで治してあげて」

「いやー、こいつクソ生意気だからもう一泣き欲しいかなって思ってさー」

「なんでもじまずがら!」


「あー、はいはい〈アルティメットヒール〉」


シャキーンっと一瞬でクロードの腕が元に戻った。魔法の力ってすっごーい!

実は、アルティメットヒールは初めて使ったんだよね。正直びっくりしたよ


「な、治った俺の腕が、治った!」

うん、今度は嬉し泣きしてるね。素直になればちょっとは可愛げがあるのに


「じゃ、私は孤児院に戻るよ。ちびっ子達の教育もしたいし」

「そうね、私も狩りを切り上げて街に帰るわ」

キャンディの顔が若干弛んでいる。そういえば今日は土の日・・・真っ昼間から店に行く気だね、うらやまけしからん!




◆◇◆◇




孤児院に戻った私に後ろから声がかかった

「ギルドのお姉さん、俺に魔法を教えてください!」

うーん、クロードがついてきちゃったかー


「えー、めんどくさいなー」

今日は、魔法教室をやろうと思っていたから混ぜてやってもいいんだけど、調子こきそうだからやだなー


「ティファちゃんどうしたの?」

パリスお姉ちゃんが通りかかったので事情を説明する。

クロードは、目を見開いてパリスお姉ちゃんの薄い胸を凝視していてちょっとキモい


「一緒に教えてあげればいいじゃない」

「むー、パリスお姉ちゃんが言うならそうするけど」


「ありがとうございます!」

クロードがパリスお姉ちゃんにきびきびしたお辞儀をする。顔が赤いし一目惚れかな?


「私は、パリスよ。よろしくね」

「お、お、俺は、クロードです!よよよヨロシクお願いします!」

いやー、テンパり過ぎでしょ・・・



さて、魔法教室が開始になったわけだけど

いつも通りアル君とパリスお姉ちゃんがベタベタくっついて手取り足取りアレ取りナニ取りしながらイチャイチャしているもんだからクロードの機嫌があからさまに悪くなった。

パリスお姉ちゃんの方からぐいぐい行ってるから尚更だね。


更には、ご自慢の魔法が孤児院チルドレンの6歳児並みでしかなかったので凹みまくっていた。


「うーん、独学で魔法を学んだのかな?魔力循環に変な癖があるねー。」

「ど、どうしたらいいですか?」

「ほら、手を貸して。私が循環のお手本をやってあげるからちゃんと覚えるんだよ?」


クロードの手を握って魔力を循環させる。驚いてるねー、今までどれだけ効率が悪いことをしていたのか分かったかな?

あれ?アル君がめっちゃこっち見てジタバタしてるけど、どした?あ、パリスお姉ちゃんにシメられた。


「すごい!これなら魔法の威力が格段にあがるぞ!」

ふむ、大喜びだね。



「じゃ、皆~次はピック系の練習いくよ~」

これに関しては、孤児院チルドレンでも中々難しい。とはいえ平均13歳ぐらいから使えるようになるので優秀過ぎるんだけどね

ピック系の先にある二重魔法ダブルマジックに関しては、まだスギルしか到達していないし

天才魔法使いのケーラちゃんですらピック系止まりだからね。

アル君がもうチョイで行けそうな感じがするけど発動の手前で躓いてるから後2~3年かかるかもね。


「ちょっと待て!いや、待ってください。ピック系って何ですか?」

「ふっふっふ、私が何十年もかけて編み出したオリジナルの攻撃魔法系統だよ(ドヤッ)」


「何十年・・・?」

「ん?・・・ああ、私はエルフだよ」

「耳が長くない・・・」


「あー、アニメとかマンガでやたら耳が長かったりするよね。エルフになってみて分かったけどアレは、如何なものかと思うね。生活がしづらそうだし」

「アニメ、マンガ・・・エルフになってみて?・・・転生者か!?」

しまったぁあああああ!!!個人情報漏らしたぁ!!!

何かキラキラした瞳でこっちを見てるし…ヤメテ!


「他の皆には内緒だよ☠」

「はい!絶対に誰にも言いません!」

声がデケェよ!何かを秘密にしたことはバレたじゃないか!


しばらくピック系の訓練をしたら魔法教室は終了にした。

魔法教室の時間は1時間弱だよ。あまり長くやっても疲れちゃうからね。


どうでもいいけど残念な事実が判明した。クロードは伸びしろがもうあんまりない

転生者が誰も彼もが強くなれるって言うのは幻想だったと証明されちゃったよ。凡人は所詮凡人だと言うことだね。

可愛そうなので本人には伝えてない…まあその内自覚するだろうから放っておこう



皆と楽しく遊んで夕方になったら宿に戻る。クロードもついてくるってことは同じ宿ってことだね。

温泉では、アル君とクロードが一悶着あったらしくてクロードが伸されたらしい。



さて、明日はお休みだし…たっぷりお楽しみをしてから寝ようっと♡



あとがき


時には、転生者であることや日本人であることが成長の足枷になるってこと

底辺ではないけれど真ん中より上に行けない感じ

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