3.贅沢だよ

日本から転移してきた少年、スギルを置いて帰ってきた私は、孤児院へアル君を迎えに行った。


夕食を食べた後、温泉でキャンディスと戯れていると珍しくサーシャさんが早めの時間に入ってきた。


「あ、サーシャさん今日は早いですね?」

「この子の温泉デビューだから、あまり遅い時間になるとね」


その手には、先月生まれた男の子の赤ん坊を抱いている。

出産したのは知っていたしお祝いもしたけれど、お披露目は初めてだ。


「わぁあああ!かわいいいい♡」

「・・・確かに可愛いわね。」


素直に喜ぶ私と、おすまし顔で頬をぴくぴくさせているキャンディス

分かるわよ、抱っこしたくてウズウズしてるでしょ?私もそうだし!


「・・・よかったら抱っこしてみる?」


「はい!」

「わ、私もちょっとだけいいかしら?」

「いいわよ、落とさないように気を付けてね。」


サーシャさんから赤ちゃんを受け取る。


「ふぁああ!ぷにぷにしてやわらかーい♪」

「ふふ、そうでしょ?」


「名前は何ていうんですか?」

「コリンよ。あらゆる困難に勝てるようにって願いが込められてるの。」


「コリン君かー、ふふっ・・・・・・あっこら!しゃぶっちゃダメだよ♡」

「くッ!悔しいけど私の時より食いつきが良いわね!」

コリン君がぐいぐい来る。

気持ちは分からなくもないママもペッタンコで吸いつきがいが無かったし


「くすぐったいけどこれぐらいなら大丈夫ですね。・・・あッ♡」

「ちょっと!一人で楽しんでないで私にも抱っこさせてよ!」

キャンディスが鼻息を荒くして交代を要求してきた。


「わかったわよ、気を付けてね」

胸からコリン君の口を離す、気のせいか少し悲しそうな顔をした。


「あ、ホントにふわふわぷにぷにしてるわね。」

キャンディスは意図的に吸わせるためにコリン君の口元を自らの胸に誘導する。


「く、ふぅ♡ はぁああああ♡」

「やっぱダークエロフだわね。」

「うちの子で遊ばないで欲しいのだけど・・・」



「やっぱり種族はハーフエルフなんですか?」

「ハーフ?コリンは普通のエルフよ?」


「種族同士の特徴が混ざるとかは、無いんですか?」

「聞いた事が無いわね、異種族同士の子供は寿命が長い方の種族が生まれるだけよ。」

確かにそうかもしれないハーフが存在するなら時が経つほどに混ざり合って種族をはっきり分けることができなくなっちゃうからね。


「ついでですけどサーシャさんは、ハイエルフって知ってますか?」

「エルフの王族が昔になったとかならないとか聞いた気がするけど・・・よく覚えて無いわね」


「う~ん…では、パイエルフはどうですか?」

「パイ…エルフ?それは種族なのかしら?ふざけてるとしか思えない名前だけれど?」

「いえ、知らないなら大丈夫です。」


「んああっ♡♡♡」

「まだやってたの?」

「そろそろ返してくれないかしら?」

キャンディスからコリン君を受け取るサーシャさん


「・・・コリン、何故お母さんの胸には吸い付かないのかしら?」



キャッキャウフフと姦しい女湯の隣、男湯ではアルヴィンとウィルが汗だけではなく悲しみの涙を流していた。





部屋に戻ると、アル君が完全に拗ねていた。口がとんがってた。


「モウイイョ!ドーセサァ、ボクナンカサァ、イッショニ オンセンニ ハイレナイカラサァ!」

ソファーで一人毛布にくるまっている。

そんなに吸いたかったのか・・・


「大人になるってそういうことだよ。その内ベッドだって別々になるんだよ。」

「・・・。」


「お部屋も別になって、いつかはお姉ちゃんとお別れする日も来るの。」

「・・・。」


「アル君今は、贅沢なんだよ?毎日私のおっぱいを枕にして寝てるんだからね」

「・・・。」


「・・・今日は、一緒に寝ないの?」

「・・・いっしょにねる。」


いつものように胸に顔を埋めてくる。もう少し厳しくするべきだろうか・・・



そう思いつつ眠りに落ちた。




◆◇◆◇




Side:スギル(知麻夜 杉流ちまよい すぎる


偶然異世界に転移した俺は、言葉が通じなくて困っていた。

運よく美人で巨乳のエルフに助けられて言葉の問題は解消した。


問題なのは、神様がチートをくれなかったことだ。

魔力は0だし、身体能力が強化された様子もない。


不遇スタート系のパターンか?


巨乳エルフ・・・スティファニーに出会えたのは幸運、いや必然だった。

確実にフラグが立ったので後は、強くなって最初の嫁にしてやるんだ!


冒険者の登録は済んだ。

戦闘力が低すぎて討伐依頼ができないとか言われたけど、野草の採取中に襲われたとでもいって倒してしまおう。


「俺の異世界生活は、これからだ!!!」

その辺で拾った棒を持って森へ向かう。


時々いかにも駆け出しっぽい冒険者達が、森の浅い所をウロウロしている。


「真面目に採取なんかやってられっか。男はやっぱモンスター退治だぜ!」

棒切れを軽く振りながら森の奥へ奥へと進む


うお!?ゴブリンだ!多分。

見たことないから分からないけど、イメージ通りのゴブリンっぽいのが1匹ウロウロしている。



「先手必勝!クリティカルヒット!」

ブンッと振った棒切れには力が乗っておらず狙っていた頭から外れて肩に当たった。


怒ったゴブリンに反撃され右目を潰されてしまった。


「へぁあああ!目が、目があああああ!」

更には体をそこら中滅多打ちにされて左腕に噛みつかれてしまった。


ブチブチブチゴリゴリ


肉が切れて骨が砕ける音がする


「ぐああああああああ!ちくしょう!」


俺がこんな所で死ぬはずがない!死ぬはずがない!死ぬはずがない!

悪あがきで暴れて何とか致命傷を避け続ける・・・でも、失血で頭がくらくらするので長くは持たないか・・・


「・・・〈ダイヤモンドピック〉」

スティファニーの声が・・・


「ぐぎゃぁあああ!!!」


ゴブリンが悲鳴を上げて絶命する。

流石俺、ヒロインが助けに来てくれた!


「女の子に助けられるって・・・普通は、逆じゃない?」


痛いことを言ってくれる・・・でも今は、まだ弱いんだから仕方ない。


魔法で怪我をきれいに直してくれた。

説教をされたりしたけど、何だかんだスティファニーは俺のことが気になって仕方がないってことだ。

これは、俺に惚れてるな。


今は、ツンツンしてるけどその内デレるはず。

俺を置いて街に帰ってしまったのは、まだ少し好感度が足りないだけだ。


俺も街に帰ろう。



「・・・腹減った。」

金がないから何も買えないし、宿にもとまれない。

仕方ないから野宿をしたけど布団も何もないのでほとんど眠ることなんてできなかった。


朝になって空きっ腹をかかえて森へ向かう


「稼がないと、飢え死にしちまう。」

最悪の場合は、スティファニーに泣きつくか・・・多少カッコ悪いがいざとなったらそれで行こう。


「・・・やべぇ、依頼品の野草がどれだか分からん。」

適当に珍しい感じの草を引っこ抜いてくか・・・



ガサッ!



「げ!?」

ゴブリンだ!しかも3匹かよ!

くそっ!今は棒すらもってねぇぞ!


走って逃げる、やばいやばいやばい!

とにかく全力走る、じゃないと死ぬ!



「ファイヤーボルトォーー!!!」


横合いから飛んできた炎がゴブリンを包み込んだ。

炎がきた方を見ると赤い髪の小さい子供がいた。


ゴブリンは、まだ2匹いる。


子供が構えると何も持っていなかったはずの両手に剣が1本ずつ握られていた。


「・・・二刀流〈無†月〉」

赤髪のガキがゴブリンの間をすり抜けると2匹の頭がボトリと落ちる。

あっけなく戦闘が終了してしまった。



「おいーアルー、いくら雑魚でも全部倒すなよー」

「そうだぞ!俺たちだって倒したかったのにさー雑魚だけど」

遅れて双剣を握ったガキが二人来た。



ガキが3人で遊び感覚かよ!俺はどんだけ弱いんだ!


「なあ!お前らさ・・・」


色々聞いてみたらコイツ等は、孤児院のガキで『ティファお姉ちゃん』なる人物から鍛えられているらしい

孤児院…ティファか・・・黒髪ロングヘアで巨乳のお姉さんが頭に浮かぶ。

魔法が駄目なら剣術とか格闘とか習ってみるのも良いかもしれん

ついでに夜の剣術や格闘も・・・ぐふふ…




◆◇◆◇




Side:スティファニー


「で?拾ってきちゃったの?」

ギルドでの勤務を終えて孤児院に顔を出したら、スギルがいた。


アル君達が森遊びと野草採取をしてたらゴブリンをトレインしてきたとのことで

むしゃくしゃしていたアル君がゴブリンを殺っちゃたら師匠についてアレコレ根掘り葉掘り聞かれて仕方なく連れて帰ったと・・・


「ティファってスティファニーの事だったのかぁ」


何だか寝不足の様で目にクマができてるし、子供達のお昼ご飯を見つめて『ごぎゅるるる』とお腹を鳴らしている。

あちこち薄汚れてお風呂も入ってな・・・あ!お金持ってないんじゃ仕方ないよね。うっかりしてた。


「これを食べて、あ…〈浄化〉!」

子供達のをあげる訳にもいかないので私のご飯をあげて、スギルの汚れた体をきれいにしておく。


「ありがとな、すげぇ腹減ってたんだ!」

カッカッカッカッとすごい勢いで食べる食べる。


親切にする義理や義務はないんだけど勝手に死なれるのも寝覚めが悪いし最低限の装備とお金ぐらいは渡しておこうかな


〈衣服創造〉クリエイトクロス〈武器創造〉クリエイトアームズ

丈夫な剣士風の服とデザインがカッコいいそれなりの鉄の片手剣を作る。男の子が好きそうだし。


「すげぇ!投影魔法か!」

「具現魔法だよ。この装備とお金を10万あげるからコツコツ頑張ってみて」


「ありがとう!すげぇ助かる!できれば、剣術とか教えて欲しいんだけど・・・」

「参考にならないからムリかも。」


「何でさ!」

「私の剣術は、100年チャンバラしてたら達人より強くなってたっていう感じだからよ」

それを聞いて落ち込むスギル。


「コツコツ頑張れば魔法は無理でも武技アーツぐらいは、使えるようになるかもね。」

「マジか!あの二刀流〈無†月〉とか使えるのか!?」


「あー、アル君のはまだノリで叫んでるだけだから・・・本物の武技はもっとすごいよ。」

「もっと上が・・・よし!さっそくモンスターを倒しに・・・」


ゴッ!と懲りないバカに拳骨を落とす。


「いてぇ!何すんだ!」

「しばらくは、体を鍛えなさい。剣だってまともに振れないでしょ?」


「そんなはずは!」

と言って剣を抜いて振るが、剣筋がふわふわしている。


「ザッコスさんに勝てるまで討伐依頼は、禁止よ」

「マジかぁ・・・」



やれやれ、スギルは贅沢な迷子さんだな~

野垂れ死にしない程度には、面倒をみてあげよっと・・・

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