宴の終わり
答え合わせの時間
「………まじか。じゃあそいつが例の? えー何だよ妖怪じゃなかったのかよ。せっかく俺が……あん? 協力しろったってお前、んなもん響が動くわけねえだろ。つうか、この会話を聞いてあいつ既にやる気を失ってるんだけど。あ? …………ああ。……………………おう。………マジ? え、いやいやいやおい、それじゃ………おおぅ。………分かった。任せろ。なあに、気にすんなよぅ。俺とお前の仲だろぅ? かっかっか。しっかしお前意外と………まいっか。おーけぃおーけぃ。響のことはこっちに任せな。じゃ、後でな~」
テンションを高くして通話をする蓮を、響は冷めた目で見ていた。
カツラが暴走した時は流石に驚いたが、結局大した相手でもなかった。その正体に多少の興味がなくはないが、あの程度の力では高も知れてる。わざわざ自分から関わりあう程のものでもない。
しかし、問題は日野かずいだ。
蓮との通話を聞く限り、どうもまた何か自分に頼み事をするつもりのようだ。
多方、捜し物が見つからないというあの少女(名前は忘れた)の手助けをしろとでもいうのだろう。
(……そこまで付き合う義理はない)
件の少女は、まだ未練がましく自分の持ち物を漁っている。
蓮は何故か乗り気のようだったが、響にそのつもりはなかった。自分は便利屋ではないのだ。何を言われても従うまい。
(……
響は少なからず落胆しながら、通話を終えた蓮の横を通り過ぎた。
「まあ待て、響」
そこで、蓮に肩を掴まれた。
前髪に隠された響の眼に、胡乱な光が灯る。
(……こいつもこいつだ)
「久城、俺は――」
「まあ聞けよ」
開きかけた口を、人差し指で塞がれた。
蓮はにやにやと笑っている。
「……」
「……」
「…………」
「…………」
数秒後。
響はかずいに電話をかけた。
「今どこだ? ……ああ。任せろ」
◇
その後、五人は職員室で合流した。絢香と藍は互いの姿を認めると、駆け寄って熱く抱擁を交わした。大変だった、よく頑張ったと、涙目で互いを慰めあった。
蓮と響は、二言三言かずいと会話すると、すぐに職員室を(修辞的な表現ではなく、文字通りに)飛び出していった。
かずいは藍と綾香を連れ、綾香の外履きを回収するために昇降口へと向かった。
藍の顔には、不安と不満が半々といった表情が貼り付き、膨れ上がっている。
先ほど蓮と響とは何か携帯で話していたようだったが、何故自分には何の説明もないのか。
藍は先程、『問題児』二名に殆ど無理やり探し物を中断させられ、理由を聞いた所で「後で日野に聞け」としか答えてもらえず、フラストレーションが限界に達していたのである。
「で、何で急に外に向かってるわけ?」
その言葉に底冷えのする怒気を感じ取り、かずいは先を急ぎたい気持ちを抑えて答えた。
「ずらかるんだよ」
「はい?」
「さっき、蓮が中庭で派手にバトったからな。通報でもされてたら厄介だ。早めに
「私たちの捜し物はどうすんのよ?」
藍の言葉から怒気が去る様子はない。かずいは渋々と言葉を続ける。
「今、蓮と響が、能力者本人をグラウンドに追い詰めてる。二人の捜し物は、そいつらが持っているはずだ」
「え!?」
「何で!?」
二人の少女が同時に叫んだ。
「どっから説明すればいいか今いちわからないんだが……そうだな。先週、ウチの学年で盗難事件があったのは知ってるか」
「盗難事件?」
藍がきょとんと首を傾げた。急に何を言い出すのだろう。それに、そんな事件は聞いたこともなかった。
「私、知らないんですけど……」
生徒会役員の絢香が、不審そうな声で言う。
「盗られたのは私物だったんだ。見つかったら没収される類の。だから被害届は出してない」
「じゃあ、何であんたがそれを知ってんのよ」
藍の声はやはり疑わしげだ。
「あ~……盗られた奴が衛の知り合いだったんだよ。俺はあいつから聞いた」
「私、聞いてない……」
「知るか。偶々だろ」
落ち込む藍と、面倒臭そうに言うかずい。そのあたりの人間関係を知らない絢香はきょとんとしていたが、話を先に進めることを優先した。
「ではその犯人が、私達の捜し物も盗っていった、ということですか?」
「そうなるな。最初に被害にあった奴は、ロッカーに保管しておいてたらしいから。味を占めたんだろう。そいつのロッカーも、土で汚れてたそうだ」
「じゃあ、あの髪の毛は何なのよ」
藍が口を挟む。
「恐らく、俺たちを攻撃してきた土の傀儡能力者が足役で、髪の毛の能力者が腕役だったんだろうな。二人協力して盗みを働いていたんだ。それが髪の毛の妖怪の正体だ」
「ちょっと待ってよ。じゃあやっぱり、あの髪の毛のお化けは能力者の仕業ってことなの? でも、久城くんが言うには、ウチの学校に髪の毛に関係してる能力者はいないはずだって」
「藍。それ、自分で言ってて気付かないか?」
「はあ? 何によ」
藍がむっとした声を上げる横で、絢香が恐る恐る答えた。
「他校生、ということでしょうか」
「そういうことだろ。一応聞くけど、藍。さっき蓮が髪の毛の化け物とやらと戦った時、負けそうに見えたか?」
「え? んー、最初は苦しそうだったけど、でもあれは教室に気を使ってただけだろうし……。ううん、やっぱり外に出てからは苦戦してるようには見えなかったわ。全然、負ける気はしなかった」
したりとばかりに、かずいは頷いた。
「だろうな。俺がそいつなら、蓮と響を見た瞬間、ダッシュで逃げる。せめて藍を狙うとかな。でも聞いた限りじゃ、そいつ、一度は藍を攻撃しておいて、蓮の方に狙いを切り替えたんだろ。しかも、途中で逃げるチャンスはあったはずなのに、それでも戦うことを選んだ。で、結果は惨敗。どう考えても、蓮のことを知っていたとは思えない。一年生含めて、この学校の生徒でまだ蓮のこと知らない奴なんているか?」
「いない、でしょうね……」
絢香が頷く。
「でも、なんで他校の生徒がわざわざ……」
「これは想像だけど、多分、自分の学校じゃ、バレた時に能力から犯人を特定されると思ったんじゃないか。他校でやれば、似たような能力の生徒に嫌疑を逸らせるからな」
「何故その人は、今日に限ってこんな時間に犯行を?」
「それは本人に聞いたほうが早いな。ただまあ推測するに、まどろっこしくなったんじゃないか。いちいち能力使って、人目を避けてロッカー漁るより、人の居ない時に直接自分で探した方が手っ取り早い。元々学校で働く泥棒くらい、能力なんかに頼る必要はないんだ。ただ、今日に限っては、向こうにとっては都合が悪かった」
そこでかずいは、一旦言葉を区切った。
すかさず絢香が口を挟む。
「栗原先輩と、久城先輩ですね」
「ああ」
「誰も居ない時を狙って昇降口の鍵を開けたはずなのに、校舎内には人がいた。だから能力を使って、追い返すために攻撃してきた?」
「そんな所だろうな。多分君とそいつ、タッチの差だったんじゃないか? そいつが最初に昇降口の鍵を開けて、次に君が開いてる昇降口を見つけて中に入った。で、校舎内に人がいることに気づいたそいつが、自分は校舎から出て、外から能力を発動させた」
「でも、その人、警備システムはどうするつもりだったんでしょうか。昇降口の扉は、流石に開けたら警備が作動すると思うんですけど」
「これも想像だが、知らなかったんじゃないか?」
「知らなかった?」
「そりゃ、君みたいな人にとっては常識かもしれないが、意外といるぞ。警備システムのこと知らない奴」
「そ、そうなんですか……?」
「ああ。俺の想像が当たってるなら、お互いアンラッキーだったんだよ、今回は。響が警備切ってなきゃ、そいつら普通に捕まってたはずなんだから」
「………」
絢香は、後に続く言葉を紡げなかった。
この人は、一体どれだけ人の行いを見透かせば気が済むのだろうか。
ちなみに藍は、途中からひたすら無言である。
いや、折を見て口を挟もうとはしたのだが、二人のすらすらとした問答に頭の回転が追いつかず、何を言っていいか分からなくなったのだ。
苛々がさらに募る。
そうこうして藍の眉間の皺が本数を増した頃、一行は昇降口へとたどり着いたのだった。
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