終焉をもたらす者 4
それからしばらくは狙撃されることもなく、マスターTは黒い炎の本部に200mの距離まで近づく。
まだ市街地ではあるが、この一帯は空き家が多く人通りも少ない。しかけるにはちょうど良い場所だ。
A・ファーレンハイトは包囲されることを警戒して、マスターTから100mほど離れた物陰に身を潜め、敵襲に備えた。
ゾンデが飛んでいる様子はないので上空からは監視されていないようだが、本部付近が無防備ということはありえない。
◇
本部に向かって歩き続けるマスターTだったが、本部から約150mの地点でいきなり道路が半径10m弱の円形に崩落する。
マスターQの部隊が罠をしかけていたのだ。
その後に大爆発が起きて、マスターTは爆炎に包まれた。まるで火山の噴火のように陥没した穴から黒煙と炎が吹き上がる。
市街地でこれだけの大規模な罠をしかけてくるとは、ファーレンハイトも予想外していなかった。
ここはお世辞にも大都市とはいえないが、それでも人口密集地域の一画には違いない。ほとんど人のいない僻地ならいざ知らず、当然一般人は何ごとかと大騒ぎになるし、警察や軍隊も黙っていないだろう。
前もってE国に話をつけていない限りは……。逆に言うと話がついていれば、かなりの無理も押し通せる。今は人が国を作る時代ではなく、国に人が宿る時代。
A国がE国に根回ししているなら、あり得ない話ではない。
◇
ファーレンハイトはマスターTが爆炎に包まれても、あまり心配していなかった。時空を操る彼にとっては瞬間移動で回避できるものだからである。
しかし、彼女の予想とは違いマスターTはもうもうと立ち上る炎と煙の中から姿を現した。道路の崩落などまるでなかったかのように彼は空中を歩いている。プロテクターは黒く煤けているが、中身にはダメージがないようだ。
こんなことまで可能なのかとファーレンハイトは驚いた。マスターTは物理法則を完全に無視している。
黒い炎はどうにか彼を止めようと次にマスターPの化学兵器部隊を展開させた。
防護服に身を固めた十人程度のエージェントが、マスターTの行く手を塞ぐように彼の40m先に整列する。
ファーレンハイトは急いでマスターTと化学兵器部隊を結ぶ直線上から離れ、風上に逃れた。
「やれ!!」
隊員たちと同じく防護服を着たマスターPの合図で、一斉にプラスター・ガスが散布される。これは空気に触れると固まる強力な接着剤を噴射するもので、兵器や装備に付着してその動作を妨げる。
文字どおりマスターTの足を封じようという作戦だ。
しかし、これも彼には通用しなかった。マスターTのプロテクターはプラスター・ガスの効果を受けない。接着剤が付着しないのだ。
前進を続ける彼にマスターPは怯む。
「奴はどうなっているんだ!?」
「下がれ、次は俺がやる!」
マスターLの呼びかけでマスターPは化学兵器部隊を後退させた。
「くっ、後退、後退!」
入れ替わってマスターLの重装兵器部隊が前進し、一斉砲撃を始める。
「よし、ファイアー!!」
携行ミサイルが雨あられと降り注ぐが、マスターTの歩みは止まらない。一発もまともに着弾しないばかりか爆風でよろめくことさえない。
マスターLは恐怖をかき消すようにおたけびを上げる。
「おおおおおっ!! 次、火炎放射!! ……ファイアー!!」
じりじりと距離を縮めてくるマスターTに対して、火焔砲を装備した重装兵器部隊の第二列が前に出て、一斉に燃焼剤を浴びせる。
マスターTは一瞬で炎に包まれるが、プロテクターは少しも燃えていない。燃える地面を踏み締める足にも炎が絡みつくようなことはない。
「後退、後退っ! 機関砲部隊、前へ!! ファイアー!!」
マスターLの号令が響く。
マスターTを迎撃しに出た部隊はいずれもただ前進するだけの彼を止められず、後退しながら抵抗を続ける。
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