終焉をもたらす者 3

 マスターTの話を聞いてA・ファーレンハイトは落ちこんだ気持ちになったが、敵は感傷に浸る暇を与えてはくれなかった。いきなり対物ライフルによる狙撃がマスターTを襲う。

 しかし、彼にまともな攻撃は通じない。

 厚い鉄板をも撃ち抜くはずの銃弾は、プロテクターに弾かれて舗装された道路に突き刺さり、アスファルトの破片飛び散らす。

 その後に別角度からも二発、三発と続けて撃ち込まれるが、全て道路をデコボコに荒らすだけだ。


 A・ファーレンハイトはオートマの拳銃にバレル延長のアタッチメントを装着し、長距離射撃に対する反撃の準備をした。

 狙撃手は居場所を特定されないように位置を変えるものだが、それは反撃が想定されるためだ。マスターTもファーレンハイトも長距離狙撃に反撃できる有効な手段を持っていない。

 狙撃直後の移動は逆に居場所を知らせることになるので、下手に動かずに待機しているだろうとファーレンハイトは考えた。ここは建築物の多い街中で一般人の目があり、身を隠しながら狙撃できる地点は限られる。狙撃が有効でないと分かれば狙撃手は撤退するだろうが、反撃が来ないのを良いことにまだ二射、三射ぐらいは平気だろうと欲をかくかもしれない。



 射撃が止んだのでマスターTは何ごともなかったかのように再び歩き出す。数十m進んだ所でまたも彼は狙撃された。

 油断している狙撃手に一泡吹かせてやろうと、ファーレンハイトは着弾場所から狙撃手の居場所を割り出す。

 狙うは約600m離れた場所にある高層ビルの屋上。射線と射角からそこ以外にはないと計算して彼女は撃ち返した。

 いくら拳銃の有効射程を延ばしたところで狙撃銃に及ぶはずもないが、弾が届くなら当たるというのが彼女の考えだ。もちろんスコープを使っても見て当てることは不可能なので、ほとんど運と勘に頼ることになる。

 一撃でしとめるような威力は期待できないが、狙って当てられるとアピールすることには意味がある。落ち着いて射撃できなくなれば命中率は落ちるし、撤退の判断も早くなる。

 マスターTは明らかに時空を操作して銃撃を逸らしている。いくらプロテクターが頑丈でも、狙撃銃の銃弾を防げるわけがない。

 彼の負担を少しでも減らそうと彼女は考えていた。


 A・ファーレンハイトの反撃から数秒して、人影が屋上から逃れる。狙撃手なのか無関係の民間人なのかは分からないが、それに合わせて彼女も移動した。

 撃てば狙われるのは彼女も同じなのだ。



 そして次の狙撃が来る前に、ファーレンハイトは新たな狙撃手を発見した。彼女はどこならマスターTを狙えるか、狙撃に都合のよい位置を探して監視していた。彼女も狙撃の経験があるから分かるのだ。

 一人は500mほど離れた高層ビルの屋上、もう一人は200mほど離れた立体駐車場の屋上。二つの目標を彼女は近い方から順に撃った。狙いをつけるのに時間をかけている暇はないので、当たらなくても良いからできるだけ近くに着弾させる。お前たちの居所は分かっているんだぞと牽制するために。


 ファーレンハイトの発射した銃弾が狙撃手に命中したかどうか、確かめる方法はなかったが、同じ位置から再び狙撃されることはなかった。

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