終焉をもたらす者 1

 マスターRの話を聞いたマスターTは独り言のように静かに決意を語った。


「では、私が全てを終わらせます。それが私の役目ですから」

「……その先に何もないと分かっていても?」


 たとえA国の企みを打ち砕いても、組織は元には戻らない。それでも良いのかというマスターRの問いかけに、彼は小さく頷いて背を向ける。


「はい」

「それなら好きにするが良いさ」


 彼女は彼を止めなかったが、その声はどこか悲しそうだった。


 そのままマスターTが外に出て行こうとするので、A・ファーレンハイトは慌てて立ち上がる。


「私も行きます」


 マスターTに同行を拒まれるかもしれないと彼女は心配していたが、彼は足を止めて振り返ると無言で頷いた。

 彼女は密かに安堵すると同時に、やっと自分の実力を認めてもらえたようで少しうれしかった。



 アパートから出た二人はお互いの顔を見合う。

 奇妙な間を置いた後、マスターTは初めてファーレンハイトの目の前でプロテクターを装着した。一瞬の内に彼の全身は鈍い銀色の鎧に覆われる。

 特撮の変身のようなプロセスがあるわけでもなく、本当に一瞬。ファーレンハイトは彼をずっと見ていたが、どうなっているのか全く分からなかった。


 そして彼は彼女に言う。


「ファーレンハイトくんは私の後についてきてくれ。私たちの行動は既に監視されているだろう。どこで敵が襲ってくるか分からない。街中でもためらわずにしかけてくるかもしれないから、背後には気をつけて」

「はい」


 いつものやり取りにファーレンハイトは安心して返事をする。だが、その後に続けられた言葉は全く彼女が予想しないものだった。


「これが私の最後の戦いになると思う。私のO器官は限界が近いんだ。いつ制御不能になってもおかしくない。もしその時が来たら……君の手でトドメを刺してくれ」

「えっ……」

「君はマスターCからM合金の銃弾を預けられたはずだ。今も持っているよね?」

「は、はい。肌身離さず持ち歩いて――いえ、ですが、しかし……」

「じゃあ、頼んだよ」


 マスターTはファーレンハイトの返事を聞かずに歩きはじめた。

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