ジノ・ラスカスガベ 2

 A・ファーレンハイトは残り8秒弱の猶予で、二度目の狙撃に挑む。

 遥か遠方からとはいえど正面からの狙撃は気づかれる可能性がある。まともな生物が標的ならそんなことは考えなくて良いのだが、相手は化け物。わずかでも気取られて頭を動かされたら狙撃は失敗する。


 その対策として彼女は最初から二発撃つと決めていた。集中力を途切れさせず、二頭目の巨大犬の右目を狙って一発目を発射すると、着弾を待たずにすぐ二発目を発射。

 彼女のに、一発目は巨大犬に反応される。巨大犬が頭を少し下げただけで、ライフル弾は頭部の装甲に当たり逸れていった。おそらくこの装甲にもNAの技術が使われている。

 だが、そんなことは問題にならない。巨大犬が頭を下げた所に、ちょうど二発目が命中し右目を貫く……。


 この時のファーレンハイトは神がかっていた。まるで数秒先の未来が見えているかのよう。超人との戦いを経て、彼女は相手の先を読む能力をさらに研いていた。

 彼女自身もそれを自覚して興奮していたが、思考は冷静だった。


「やったのか!? 次は西だ!」


 A・ラジアンの指示が出る前に彼女は動いていた。もはや巨大犬が第二線部隊に襲いかかるまで残り何秒などと気にすることはない。慎重に速やかに巨大犬の左目を狙って、一撃でしとめる。

 一連の動作が完了するまでの所要時間は一頭目や二頭目の時より早く、3秒未満で片づいた。


 ラジアンから労いの言葉がかけられる。


「よくやった、A・ファーレンハイト。全く信じられん、こんなことがあり得るのか」


 彼が驚嘆したのは巨大犬ではなく、ファーレンハイトの射撃の方。それだけ非現実的なことを彼女はやり遂げたのだ。

 次の指示は来ない。巨大犬は全て倒された。

 しかし、それを喜ぶ暇はなかった。先にビルに突入した第一線部隊が半壊して撤退するという報告が、直後にあったためだ。



 結局、作戦は邪悪な魂の掃討という目的を果たせず失敗に終わった。撤退する部隊に対する追撃がなかったことは幸いだったが、邪悪な魂は未だに十分な戦力を保持していると証明してしまったようなものだった。

 作戦全体の責任者であるマスターGは、相手の戦力がこちらの予想を上回っていたと言うことしかできなかった。超人こそ現れなかったものの、邪悪な魂の持つ怪生物と先進兵器はそれに匹敵する脅威だった。


 しかし、失敗からも得たものはあった。

 第一線部隊とともにビルに突入したマスターGは、そこで邪悪な魂の若頭を自称する「ジノ・ラスカスガベ」という男と対面したと報告した。

 彼は自分のことを邪悪な魂の首領とされる「サエル・ラスカスガベ」の息子の一人だと明かし、これまでの組織の活動は全て自分の意志だと語った。

 サエルの息子は複数確認されていたが、ジノという名前の者は確認されていないので、本当のところは分からない。だが、彼にはルーレット・アロー、ロト・ナンバーズの二人の幹部がついていた。

 ロトはサエルの側近として知られており、ルーレットもサエルに近い邪悪な魂の幹部の一人と判明している。この二人がついているということが、ジノがサエルの後ろ盾を得ている何よりの証拠だった。

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