囚われの君 2
同じ調子で二人の女性はA・ファーレンハイトの脚も治療した。戦闘服の袖と裾を引き裂き、外れた関節を嵌め直して、副木で固定して氷嚢で冷やす。
「はい、終わりました。骨自体は大丈夫だったみたいです。まだ痛みますか?」
「かなり痛い」
「酷くなっていますか?」
「酷くはなっていないけれど」
「他に悪い所は?」
「……分からない」
「そうですか……まあ、とりあえずこれで様子見ってことで。なんかセクシーになっちゃったけど気にしないでください」
長袖だったトップスはノースリーブのように、ボトムスは左右でショートとロングのアシンメトリーになっていた。ボロボロの服、乱れた髪、傷ついた肌、腕や脚に巻かれた包帯……さながらV系のバンギャといった風貌(偏見)。
こういうファッションもなくはないのかもしれないが、そっち方面の知識がないファーレンハイトはただ恥ずかしかった。
しかし、そんなことよりも重要なことがある。治療を終えて退室しようとする二人を彼女は呼び止める。
「待って! 彼女は治せないの?」
ファーレンハイトはA・ルクスも治療するように要求したが、良い返事はもらえなかった。
「治す必要はありません。その子も超人ですから、封印が解ければ自力で回復します」
「封印?」
「胸に刺さっている、それのことです」
「これが?」
超人のことをよく知らない彼女は困惑した。
胸に刃物を突き立てられて、まだルクスが生きていることも不思議だが、それが封印になるというのも謎だ。既に死亡しているから治せないと言われる方が、まだ納得できる。
腑に落ちない顔をしている彼女に、青い髪の女性は自分の胸に手を当てて言う。
「私たち超人は胸の中に、人間にはない一つの器官をそなえているのです。超人の力の源を」
「それに刃物を突き刺して大丈夫なの?」
「いくら傷つけても平気……というわけではありませんが、すぐに回復します。特殊な金属でその器官を停止させない限りは」
A・ルクスの胸に突き立てられている銀色の刃物こそが、その特殊な金属で作られたものなのだ。
ファーレンハイトはディエティーを撃った時のことを思い出した。
彼女は対物ライフルで彼の胸部を背面から撃ち貫いたが、致命傷を与えられなかった。それはつまり並大抵の兵器では超人の力の源である器官は破壊できないということだ。
そんなものが何人もいるという事実が、彼女は恐ろしかった。
「あなたたちはいったい何者……」
「私たちは超人。新たな世界を創るために生み出された存在」
超人の女性の答えは言葉どおりに受け取れば、優越感に満ちた選民思想のようだが、その声は深い悲しみに沈んでいた。
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