裏切りの理由 7
二人はマスターTの部屋に戻る。
A・ファーレンハイトは面会中のマスターTの態度が心配になって尋ねた。
「マスターT、彼の話をどこまで信じていますか?」
「嘘は言っていない……と思う」
「では、彼を再び組織に迎え入れるつもりですか?」
「それは難しいだろう。個人的にも歓迎する気にはなれない。でも約束は約束だ。彼が組織を抜けた理由ぐらいは知ってもらおうと思う」
「もっと慎重になってください、マスターT。もしかしたら彼の策略なのかもしれません」
律儀なのは良いが、その行動は余計な誤解を招くだけだとファーレンハイトは危惧した。
しかし、当の彼は分かっていない様子。
「策略?」
「マスターMが本当のことを言っているとは限りません。彼の言うことをそのまま信じて宣伝するあなたを他のマスターたちはどう思うでしょうか」
「でも真実だった場合は? もし裏切ったのは殺された三人の方だとしたら……」
「よく考えてください、マスターT。A国との共同作戦についてマスター会議で意見が割れていたように、今の組織は不安定な状態です。邪悪な魂や血と涙との決戦を前に、裏切り者の存在をほのめかして不和の種を蒔くようなことは控えた方が良いかと……」
マスターTは沈黙してうつむき、しばらく考え込んだ後でA・ファーレンハイトに尋ねる。
「マスターBやマスターCに相談するくらいは良いかな?」
彼はその二人を信頼しているからそう判断したのだろうが、ファーレンハイトは同意できなかった。
マスターCはともかく、マスターBの精神的な負担を増やしたくなかったのだ。
裏切り者がどうこうという話は、邪悪な魂や血と涙との決着がついた後にすべきだと彼女は思っていた。
「お勧めはしません」
彼女の答えにマスターTは再び沈黙して悩み始める。
裏切り者のことも解決しなければならない問題ではある。だが、一度に多くのことに対処しようとすると、どこかで破綻するものなのだ。
困難の中でも大局観を失ってはならないが、まずは差し迫った問題から解決していかなければならない。
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