裏切りの理由 3

 マスターTは改めてマクガフィンに尋ねた。


「何の用で私を呼んだのですか?」

「何の用って、聞きたいことがあるのはあんたの方じゃないのか?」

「え?」

「違うのか? どうして俺を殺さなかった?」

「いや、まあ、それはそのとおりですけど……。なぜ私に?」


 話をするなら他の人でも良いだろうと彼は暗に言っていた。

 マクガフィンは半笑いで答える。


「あんただけは俺を殺そうとしなかったからさ。マスターEもマスターIの野郎も、そこの後ろの女も俺を殺そうとした。分かるか?」

「何となく……」


 マスターを三人も殺しておいて、どうして自分が殺されないと思っているのかとファーレンハイトは呆れる。

 B国の邪悪な魂の拠点でも、先にしかけてきたのはマクガフィンの方だった。反撃で殺されかけたからといって不信感を持つのはお門違いだ。

 それに理解を示すマスターTもどうかしている……。

 ファーレンハイトは不満を心の中に留めて、二人の話の続きを聞いた。


 マスターTは何から質問したら良いものか少し考える。


「えー、つまり私が質問すればそれに答えていただけるわけですか?」

「どこまで答えるかは俺の気分次第だがな」

「……どうして邪悪な魂に協力していたんですか?」

「つまらない質問をするな。何も好きであんな奴らといっしょにいたわけじゃない。飯を食うためにしかたなくなんだよ」


 よくもぬけぬけとそんなことが言えたものだと、ファーレンハイトは不快感に眉をひそめた。

 仮にカタギの生活ができなくて非合法組織に入るしかなかったとしても、わざわざ古巣とかち合う所を選んだからには意図があるはず。そうでなければ自分は考えなしのバカだと白状しているも同然。

 そんな彼女にマクガフィンは一瞥をくれて小さく笑う。


「俺は組織を裏切っちゃいない。俺はいつでも組織の忠実な戦士だった。あんたは俺に弁明の機会をくれた。感謝している」


 彼の告白にマスターTは動揺していた。


「どういう意味ですか?」

「どうもこうもない、そのままの意味だ。……気をつけろよ、マスターT。誰も信用するな。誰が敵で誰が味方なのか見極めろ」


 ファーレンハイトの目にはマクガフィンがマスターTを惑わそうとしているようにしか見えない。

 彼の言うことをそのまま信じてはいけないと彼女は用心した。


 マクガフィンの思わせぶりな警告にマスターTはどういうリアクションをすれば良いか困っている。


「そんなことを言われても……。組織を裏切っていないなら、どうしてあなたは組織を抜けたんですか?」

「真意はどうあれ俺は三人のマスターを殺した。その事実が組織に与えた衝撃は大きすぎた。誰にも相談も根回しもせずに行動に出たのは拙速だったかもしれない。だが、誰が味方かも分からなかった状況で誰を説得すれば良かったのか……。今はどうかな? ほとぼりが冷めてちゃんと俺の話を聞く気になった人はいるんだろうか? それとも……もう手遅れかもな」


 どことなく悲しげな様子のマクガフィン。

 マスターTは真相を知ろうとさらに尋ねる。


「どうして三人もマスターを殺したんですか?」

「そう、そこだ! 奴らこそが裏切り者だったんだ。組織を何者かに売り渡そうとしていた」

「誰に?」

「分からない。奴らは口を割らなかった。それだけ敵に回すと厄介な奴ってことだろう」


 マクガフィンはまたもファーレンハイトに視線を送った。

 彼は彼女のことも疑っているのだ。

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