裏切りと真実

裏切り者 1

 黒い炎は各国の邪悪な魂の拠点の中から、とくに重要と思われる施設を選別して監視していた。そしてそこから幹部級の集まる本拠地を思しきものをB国、D国、H国に各1つとF国に2つ、計5つまで絞りこんだ。

 黒い炎は邪悪な魂を打ち倒すために、複数の拠点に同時に攻撃をしかける。


 邪悪な魂と地元犯罪組織の連携に悩まされていたB国政府は、黒い炎がB国内の邪悪な魂の拠点を攻撃すること――それは即ち自国の警察組織や軍隊を差し置いて、国内で外国の非合法組織が破壊活動を行うこと――を黙認する代わりに、任務終了後は速やかに撤退することを要求した。

 黒い炎はこれを受け入れ、マスターE、G、I、PそしてTの5人のマスターと彼らが率いる部隊が、B国にある拠点を攻略すべく派遣される。



 B国の邪悪な魂の拠点は、開けた郊外にある小さな古びた自動車修理工場だ。表向きにはそういうことになっているが、B国政府からは廃墟も同然の施設で怪しい人物が出入りしていることが伝えられている。


 攻略作戦の内容は以下の通り。

 まずはマスターE、G、Iの三部隊で地上部分を速やかに制圧。

 続いてマスターP率いる化学兵器部隊が地下に毒ガスを散布した後に、ガスマスクを装備した各マスターの部隊が突入する。

 その際にマスターTとA・ファーレンハイトはマスターEに同行する。

 全体の指揮はマスターEが行い、マスターGが副指揮官を務める。


 ――今回の作戦で最大の懸念はいかにマスターEの暴走を抑えつつ、邪悪な魂を殲滅するかだった。

 マスターMが邪悪な魂の構成員になったと知ってから、マスターEは積極的に邪悪な魂との戦闘が想定される前線に赴くようになったばかりか、組織内で一定の地位ある身分ながら古代の百人隊長のように進んで先陣を切るようになった。


 いかに組織内最強の男と言われる彼でも最前線で戦い続けていれば、いつ流れ弾で倒れてもおかしくない。組織を束ねるマスターをそのような形で失うことは絶対に避けなければならない。だから常にマスターEには護衛をつけなければならないが、そのために邪悪な魂の幹部級を取り逃すことがあってもいけない。


 そこで部隊を分けなければならない時に備えて、マスターTが彼のおりを任された。

 先陣を切るマスターEに同行すれば、当然早期に接敵することになる。

 先日の会議中の発言どおりにマスターTは邪悪な魂の未知の先進兵器に対処できるのか、試されているのだ。



 マスターTとA・ファーレンハイトは工場の地上部分の制圧には参加しないが、A・ファーレンハイトの方は工場から300mほど離れた高さ40mの給水塔の上で、逃走する構成員を射殺するように命じられた。

 マスターTは給水塔の下で待機しているので、塔の上には彼女一人だ。

 彼女はタンクの上に伏せて大口径のスナイパーライフルを構え心を静める。

 南半球のB国は冬だが、今日の天気は晴れで暖かい。太陽の光に眩惑されないように彼女はグラスの調光機能をオンにした。


 マスターE、G、Iの率いる部隊を乗せた二台のトラックが工場の敷地に突入すると、すぐに激しい銃撃の音がして、それから数分後に二台のライトバンが道路に飛び出す。

 マスターGからA・ファーレンハイトに無線通信が飛ぶ。


「行ったぞ! 撃て!」


 ファーレンハイトは機械のように無心で二台の運転席を狙い撃った。銃弾は車の窓を撃ち抜いて、運転手を無残に即死させる。

 彼女は続けて片側の車輪を破壊。車は二台とも制御を失って道路の横に広がる休耕期の畑に突っこんだ。

 そこへエージェントたちが駆けつけて一斉に銃撃を浴びせ、車に乗っていた者たちは一人残らず片づけられる。


 あっけなく死んでいく者たちには目もくれず、ファーレンハイトは他に工場から逃げ出そうとする人や車がないか冷徹に監視していた。

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