血と涙 3

 それから重装兵器部隊は後に合流したマスターDとマスターSの部隊に回収された。戦闘は終了、作戦目的も果たしたことから、任務は一応成功ということになるが……素直に勝利を喜べる者はいなかった。

 帰投中のトラックの荷台で揺られるエージェントたちは、誰も彼も疲れた顔をしている。その中でマスターTは彼が見たことをマスターDに小声で報告する。


「マスターD、こちらではAが現れました。彼が一人で重装兵器部隊を倒したんです。彼は血と涙の構成員になったようです」

「本当か!? なぜ彼が血と涙に……」

「理由は分かりません。しかし、確かな目的があるようです」

「それはそうだろう。何の目的もなしにテロ組織の一員になるとは思えない」

「察しはつきませんか?」

「……つかなくもないが、憶測でしかない。君も同じはずだ」

「そうですね……」


 A・ファーレンハイトは二人の話に耳をそばだてながら、情報を整理した。

 マスターAは創始グループの一人で、かつて組織を率いていたリーダーだ。彼は8年前に行方をくらましたが、当時何があったのかファーレンハイトは詳しいことを知らない。

 血と涙が表舞台に出てきたのはここ数年のことなので、もしかしたらマスターAは新しい組織の中でも重要な役割を果たしているのかもしれない。


 マスターDも自分たちのところで何があったのかをマスターTに語る。


「こっちではMが現れたよ。やり合うつもりは最初からなかったみたいで、すぐに撤退したがな」

「Mって13のMですか……。彼も血と涙に?」

「いや違う。奴は邪悪な魂の構成員になっていた。『行き場を失った食い詰め者がしかたなく』――などと言っていたが、とにかく血と涙と邪悪な魂が協力関係にあるのは確かなようだ」

「厄介なことになりました」

「全くだ。何もかも8年前の因縁か、それとももっと前からの運命のようなものなのか……」


 二人の会話から拾える断片的な情報をファーレンハイトは自分なりに解釈する。

 マスターTはマスターとしては新参なのにも関わらず、創始グループと関係が深いようだ。マスターAが組織から離脱したのは8年前だが、マスターTが組織に加入したのは2年前。少なくとも組織の中では、二人に接点はないはず。

 それにも関わらず二人はお互いを認識していた。つまり彼は組織の重要な秘密を知っている可能性がある。

 組織が創設された時、あるいはそれより前に何があったのか?

 残念ながらファーレンハイトはそのことを知る立場にない。なぜ話してもらえないのかとなると、やはり信用が足りないという結論になる。

 彼女はしょせん部外者なのだ。創始グループの過去など知らないし、とくに誰と関係が深いわけでもない。

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