エグドアルム時代 イリヤの授業(とある生徒視点)

 僕はザシャ・オウル・ヴォルテル。

 魔法養成施設で魔法を学んでいる。

 ここは魔法大国エグドアルムの誇る魔法機関で、十二歳から入所出来て、最大二十二歳まで、十年ほど在籍できる。ここで学べば魔法研究所や軍に所属する上位の魔導師、さらには宮廷魔導師さえ目指せる。魔法使いとしての将来は約束されたようなものだ。国の機関に入れなくても、魔法関係を扱う所ならば引く手数多だ。

 午前中は一般教養や礼儀作法を学び、午後から魔法授業。これは好きな教科を自分で選択できる。属性別の授業、魔法アイテムの作成、魔法理論や実践、召喚術の講義、内容は様々ある。中でも人気なのが、現役の宮廷魔導師による魔法授業。これは数が少なく抽選制になるほどで、一クラス二十人なので高倍率になる。見習いの授業もあってこちらも人気だが、そこまで殺到しないので基本的に先着制。


 そして僕はいつもセビリノ・オーサ・アーレンスの授業を選んでいた。

 彼は真面目な固い感じの魔導師で、授業も端的で解りやすく、奥が深い。その上何か質問をしてはっきりと答えられないと、必ず次までに調べてくれている。一度、また同じ授業を取るか解らないのになぜ調べてくれるのかと聞いたら、“知らぬ、曖昧な事をなくしていくのも魔導師だ”と、答えてくれた。あの考え方には感激した。

 しかし今まで見習いだったから取れたのが、宮廷魔導師に正式採用されたら途端に応募がどっと押し寄せ、常連の僕が押し出された…!

 所詮男爵家とか言ってた奴ら、今更になって応募するなよ…!!

 仕方がないので、今回は見習いの授業を受ける。見習いでも凄いんだけど…。

 僕とあまり年が変わらない女性なんだ。我が国の宮廷に女性ってだけでも珍しいのに、そんな年若い。本当に大丈夫なんだろうか。しかも彼女の初めての授業。不安もあるからか席には十五人ほどで、全部は埋まらなかった。中にはからかい半分で受けたような奴もいる。流石にちょっとここで教師をするのは可哀想だな。せめて味方してあげよう…。見習いとはいえ宮廷魔導師なんだしね。


 扉を開けて入って来たのは、少しおどおどした印象の薄紫の髪をした、線の細い女性。とても宮廷魔導師見習いには見えない。さすがにもっとツンツンした、偉そうな人が来るんだと思っていた。

「は、初めて授業をします、イリヤと申します。よろしくお願いします。」

 不安そうに頭を下げる。堂々としないとしてやられるぞ…、養成所にはプライドの高い貴族も多いんだから…


 彼女はまず知りたい魔法がないかと聞いてきた。何を授業していいか解らなかったんだろうか。大抵はこの魔法をやると宣言したり、まずは初歩の魔法理論からとかになる。自分が魔物と戦った経験談から始まった人もいたな。

「何でもいいですか?じゃあ、光属性の攻撃魔法を!悪魔と戦えるヤツがいいですね。」

 半分笑いながら聞いてくる貴族の子息。性格悪いな、よっぽど専門的に学ばないと、このくらいの年では知らないだろ…。魔法の勉強は、自分か教えてくれる人が得意な属性魔法から入るのが普通かな。


「ならばシエル・ジャッジメントが一般的でしょうか。ただ、全員が使えるとも限りませんが。」

 即答だ。すごいな、知ってたのか!名前しか聞いたことがないぞ。

「し、シエル・ジャッジメントを教えてもらえるんですか!?」

「本当か…!?光属性の、神聖系だ…!」

 他の生徒が驚いて声を上げる。

「はい、これで宜しければ…」

 最初はだらけた雰囲気だったが、皆が喜んでお願いしますと合唱になる。僕もこれは嬉しい誤算だった!


 彼女は白板に詠唱をスラスラと書いていく。そして発動された際の威力や効果、注意事項などを細かく説明してくれた。この魔法を知っているだけじゃなく、確かに研究しているようだ。詠唱にブレスの位置まで書いてあるし、視覚化のイメージまで教えてくれる。


「光属性の神聖系の攻撃魔法を教えたので、次回はマジー・デファンスにしようと思います。同じく神聖系の防御魔法です。魔法攻撃だけで物理は防げませんが、とても役に立ちますよ。」

 …絶対に次回も来る!ここにいる奴らは、みんなそう思ったようだ。やった、と手を叩いて喜んでいる。神聖系を知っていても、こんなに簡単に教えてくれる人は普通はいない。途中まで詠唱を教えて、あとは別料金なんて言う輩もいるくらいだ。


 授業の後、行く方向が彼女と同じだった。どんな魔法を知っているのか気になるし声を掛けようか迷っていると、向こうからセビリノ・オーサ・アーレンスがやって来た。今日は授業は無い筈なんだけど…?

「セビリノ殿!」

「イリヤ殿、初授業お疲れさまでした。どうでしたか?」

 いつもきりっとして笑わないアーレンスが、穏やかな表情をしている!彼女、アーレンスと親しいのか…!?ファーストネームで呼んでるぞ!?

「おかげさまで問題なく終わりました。セビリノ殿の助言に従い、生徒に知りたい魔法を聞いて説明したら、とても喜んで頂けました。」

「そうでしょう。授業だと知りたい事と教えられる内容が違う事も多々ある。で、何を指南されたんですか?」

「シエル・ジャッジメントです。次はマジー・デファンスにしました。」

 それを聞くとアーレンスは、二、三度瞬きをして手で顎を摩った。

 さすがにのっけから神聖系だとは予想もしないだろう。


「…うらやましい。いや、まあ、うん。その二つならば、その次は実技室を借りて、実際に使ってみるのもいいでしょう。」

「なるほど、そうですね!そう致します!」

 宮廷魔導師が、見習いの授業を羨ましいと言った!確かに丁寧な内容だったけど…!

「…ただし貴女は使ってはいけない。貴女の光属性魔法を防御できるような耐久性は、ありませんから。」

「そうなんですか?ありがとうございます、気を付けます。」

 わざわざそんな忠告をするなんて、よっぽど強いんだろうか?確かに養成施設の実技室は、宮廷魔導師が使う魔法実験施設ほどの結界はないけれど、なかなか強固なのに…!


「この後、時間はありますか?」

「はい、どうされましたか?」

 ……!まさか、アーレンスが口説くのか!?あんなに女っ気がなかったのに、この一回りも年下の子を!

「魔法実験施設の予約を取っておきました。気分が変わるでしょう。」

「まあ!それは楽しそうですね、是非ご一緒したいです!」

 …楽しそう?おかしな感覚の二人だ…

 それにしてもいいなあ、実験施設でアーレンスの魔法が見られる…。羨ましい。

 僕も宮廷魔導師になりたい!!がんばろう。

 その為にはあと、魔法アイテムの講義ももっと取らないとダメか。エリクサーが作れなきゃならないなんて、詐欺だ、厳しすぎる…。金を積めば何とかなるらしいけど、そういうのは嫌だな。

 とにかく、宮廷魔導師となったアーレンスの講義はそうそう取れそうにないから、彼が認める彼女の授業を受けていきたい。他の奴らに、光属性の神聖系まで教えてもらえるなんて、絶対知らせない!倍率が上がり過ぎるからね!



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本編の星が、100を超えました…!絶対三桁はいかないと思ってた…!すごい。ありがとうございます<m(__)m>いや、ほんとに私のラノベでいいの?ドキドキですじゃ。ありがたや…!!!

というわけで、またもや特別篇。エグドアルムの宮廷魔導師見習いとして仕事をしてるイリヤです。たまに魔法養成所で授業をしている設定。宮廷魔導師の授業は人気なんで増やしてほしいけど、面倒くさがる人も多くてなかなか増えないようです。

本編が行き詰ってる時にちまちま書いてました。

そして見習いイリヤの出待ちをするセビリノ君。ファンかよ!(笑)

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