第76話でも君クールエイド飲まずに人殺しになる道を選んじゃったよね

「玖珂か!!」


 三田村が鋭声を上げる。

 玖珂は階段の上方からこちらへ歩み寄っているところだった。

 そして、なぜだか理由は分からないが、周囲の地獄の軍勢たちは身動き一つ取ることが出来ていない。


(魔術式とかいうのを上書きされたか……?)


 三田村は素早く周囲に目線を走らせて、今までに与えられた情報を総合してそう結論づけた。


(動きを封じられただけか。敵にまわらなかっただけ有り難いと思うしかないな。……にしても、コイツも異世界の人間だったのか)


 三田村は玖珂に目を戻して、そう考えた。

 彼がそう判断しても無理のないくらい、現代人であったはずの玖珂の容貌は変貌していた。

 彼の肌の色は浅黒いどころではなくはっきりと地球上のどの人種にも当てはまらない褐色になっているし、何より瞳の色が金色になっている。単なる仮装と想像するのは状況的に苦しい。どうみつもっても相手は異世界の住人だ。


(しかし一体いつから? まさか最初からこいつは現実世界で生活する異世界人だった……ってことなのか?)


「やあ。ようやくこっちも一段落ついたよ。お疲れ様、三田村くん」


 三田村の内心を知ってか知らずか、玖珂は片頬を上げて笑った。


「いやー、若ぇのの真似をしてみたはいいけれど、中々上手く行かねえもんだよなあ。勝手に殺し合わせるってどうやりゃ良いんだろうね? 俺、人間の気持ちになれねえから全然ワカンネェわあ」


 と、感情のこもらぬ笑いを浮かべる男に、三田村は注意深く問いかける。


「……本当に玖珂なのか?」

「呼び捨てかよ。まぁいいや。俺がこんな見た目だったら、そんな反応になるのも無理ないもんねえ。


 そうだよ。

 魔獣クガル、それが俺の本来の名前。名乗るのも久しぶりすぎて忘れそうになっていたけどね」


 何の気負いもなく玖珂は名乗る。


(この男は魔獣……つまりアナタと、ひいては神父や地獄の軍勢たちと同族、ってことになるのか。周囲の奴らが身動き取れなくなっているのは玖珂の仕業だよな……)


 そんな事を考えつつ、三田村はそんな彼を油断なくにらみあげた。

 三田村は階段の踊り場に立ち止まったまま、玖珂は階段の途中……距離にして三段分程度の場所にいる。


「……エリカちゃんは、俺が連れていたあの子は無事なのか?」

「うん、大丈夫」

「連れているわけではないみたいだな……今更なんで俺のところに来た?」

「探し物が見つかんなくてさ」

「はあ?」

「あと、もうこっちの世界には用がないし、戻るつもりもないし、君たちに何か喋ったところで状況は覆せない……と思っているからかな」

「一体何が狙いなんだ!」

「故郷への帰還」


 玖珂、いやクガルは静かにそういった。

 そして自らの姿容しようを三田村に示すように、軽く両手を広げて見せる。


「……俺の外見で丸わかりだと思うけど、俺は君の知り合いの魔獣レギス君と同族だ。俺の方が年上で先輩だけどね。

 俺は彼と同じ目的で生み出され、同じような罪を犯して『罪人』としてこの牢獄にとらわれ……そして、本来破ることの出来ないはずだった、世界と世界の間の壁を破り、行き来を可能にしたんだ。

 この俺がね。俺がやったんだ。

 人間以下のマガイモノにすぎなかったハズのこの俺が、人間には破れなかった壁を破ったんだ!!」


 クガルは目を見開いて興奮したように言う。

 だがすぐにその興奮を収めて、ふくみ笑いを浮かべながら話を再開する。


「……いろいろな事情があって、俺はずーーっと君たちの世界に潜伏せんぷくして生きていたんだ。

 魔術科学に支配されたあの世界に戻るつもりなんかさらさらなかった。

 現実世界に潜り込んだほうがラクだったんだ。

 普通の人間のフリをして、ちまちま社会から孤立した人間をさらってはあの牢獄送りにして衰弱死させて、自分が生きていくだけの代償の力を得るだけで十分だった。不動産屋の仕事だって気に入ってたしね。


 ……だけどこの期に及んで、『すぐに元の世界に帰らねばならない事情』が出来てしまった」

「その事情ってのは?」

「……。……ここの代償濃度、馬鹿みたいに濃いだろう?」


 クガルは三田村の質問には答えず、周囲を見回しながら言う。


「そこの神父君の推察の通り、これはあのレギス君をとらえていた牢獄から逆流してきたものだよ。

 ようやく穴が開いて、俺の牢獄に流れ込んできているんだ」

「……このタワマンもどきのある空間は、アンタ用の牢獄だったってことか」

「そ。そゆこと。

 異世界創造魔法の理屈はもう知っているよね? 異世界想像魔法を成立させるためには『代償』と『設計図』が必要。

 あとは設計図に強く執着している核か魔術師も必要なんだけど、これは話の本筋じゃないから今は脇においておこうね。


 重要なのは、今の俺が莫大な量の代償の力を必要としている、ってこと。そのために君たちの、というか君の手を借りようとした……ってところだから」


 クガルは苦笑して、ボロボロの三田村を指さした。


「……三田村君。

 俺が一か月も準備して入念に作り上げたガセ情報で君を釣って、君をこの異世界におびき寄せたのにはもちろん理由がある。

 ここで君に、人間を殺せるだけ殺してもらうためだった。君も知っての通り俺は人を直接殺すことができない。刑期が伸びるからね。犯した罪を魔力で清算できないと、俺の体が元の世界に帰還することは出来ないからそれは困る。


 ……だから君が必要だった。

『すでに殺したことのある』実績のある君なら必ずやってくれると踏んだんだ。

 ……ここには既に俺がなりふり構わず誘拐してきた人間をたくさん集めていた。もしこの世界から出るためには人を殺すしかないと分かったら、君はきっと」

「アンタのために殺すに違いないってか? 残念ながら、そうする前にアンタを殺したほうが話は早いなあ!!」


 三田村はそう言い終えるよりも早く、手に持っていたナイフをクガルに突き立てようとした。しかしクガルはそれを人間離れした動きでヒラリと避ける。


 ナイフの刃が宙を切り、両者の距離は階段五段分まで広がった。


「……落ち着いてよ。話を最後まで聞いて欲しいなあ。

 殺してもらおうと思ったんだけど、計算外の幸運があって、その必要はなくなった……って言いに来たんだから」

「ああ?」

「……うろ、っていうんだ。君が連れていた彼女みたいな子のことをね」


 その言葉に三田村は目を見開いた。


「エリカちゃんのことか?」


 と、クガルは顔色を変えた三田村を見て、あざけるような笑みを見せる。


「君、ほーんとにあの子のことが好きなんだねえ。やめた方がいいと思うよ?

 親切心で教えてあげよう。クールエイドを飲まずに人殺しになることを選んでしまった前科がある君にとっては、正直あの子は荷が重すぎる相手だよ。

 ……洞は助かることなく死んでいく運命にある。なんだかんだでただの一般人に過ぎない君ではきっと彼女の命どころか心さえ救えない」

「……」

「今のは言いすぎたね。

 ごめんごめん、非礼のお詫びに洞について少し教えてあげよう」


 俺もあんまり詳しいわけじゃないんだけど、と、言いながら、クガルは朗々と説明する。


「洞ってのは核と対をなす存在で、力を放出するのではなく力を引き込む性質を持つ人間のことを言う。

『引き込む』って性質を持っているから核と違って発見する方法が難しくて、まだちゃんとした発見方法が確立されていない。

 それに、そもそも洞は核より圧倒的に数が少ないし、自分で自分の集めた力に押しつぶされて長生きしない傾向があるから、彼女みたいにあんなに成長できることは稀なんだ。

 ……だから俺も気づけなかったんだ。洞を見たのは俺も始めてだったしさ」


 クガルはそういって静かに笑う。そして自分の手を見ながら、


「……俺たち魔力で生命維持を行っている者は、あの子に長時間触れることができない。力を死ぬまで奪われるからだ。

 しかし。

 洞は核と同じくある意味で『代償の力の塊』であるがゆえに、核と同じく利用価値がある。

 予想外だったけど、俺はあの子のおかげで苦労せずにレギス君の牢獄への道を開くだけの力を得ることが出来たんだ」

「殺したのか!?」

「だーかーら、殺してないって。無事だっつったろ?」


 冷静な君らしくもない、とクガルは鼻で笑いながら言う。


「本当は君か別の人間あたりに殺してもらうつもりだったんだけどね。……だけど、殺すまでもなかった。殺すまでもなく、奪うことが出来た」

「一体どういうことだ!」

「落ち着けよ。本当に大したことは何もしていないんだ。

 ……俺も正直困惑している。本来、人間は殺すか薬を使って死亡状態に限りなく近い状態に置かないと代償の力を奪うことは難しいんだけど……」


 クガルは何とも言えない表情で頬をかいた。


「……多分あの娘さんは、限界が近いんじゃないかと思う。

 代償の力をもう集められないってくらい体に集めすぎてしまっているんじゃないかな。だから容易に力を奪うことができたんだ。『運搬役』が何度も死んじゃうから大変だった」


 まあそれももう過ぎたことだ、と彼は話を切り上げた。


「下の出口はあけておいたよ。

 君たちはもう現実世界に戻ることが出来る。この異世界創造魔法で出来た偽りのタワマンじゃなくて、ちゃんと元居た世界に戻ることが出来るよ。

 代償の力の『逆流』も、今はもう落ち着いているから心配しなくていい。ただ」


 と、クガルはへらりと笑う。


「えーとなんて名前だっけ。笹野原さんとか? 蒔田さんとか? あの辺の君のお友達は帰ってこられないと思う。こっちにもいろいろ事情があってさ。

 残念だけど、この件からはもう手を引くことをお勧めするよ。

 君は朝倉エリカちゃんが無事ならほかはなんでもいいでしょ? 彼女、プールサイドで伸びてるよ。迎えに行ってあげな」

「……」


 三田村は何も答えない。

 情報の真偽もクガルの真意もよくわからず、どう答えたらいいのか分からないからだろう。その顔色が随分と白いことにクガルは気がつく。

 

 ──怖気づいたか、と、クガルは内心三田村のことをせせら笑う。


 彼にとって人間とは、とるにたらないゴミのような存在だった。理屈に合わない感情に翻弄され、理解不能な行動を取る。ゴミのくせに中途半端に力があって面倒な存在でもあるのが気に食わない。


 だからこそ、クガルは今ここで三田村という人間の憎悪は買いたくなかった。

 彼はなまじ賢く行動力もあるために、敵に回すと厄介だ。

 かといって、いまここで殺すのもためらわれる。これ以上の代償の力の浪費は避けたかったからだ。刑期を清算できなくなる。


(……まあ、これで三田村はもう追ってこないはず)


 そう思いながら、クガルは口を開いた。


「ところで君、怪我一つしていないんだね。ちょっと頼みがあってさあ、探し物のためにちょっと君の」


 と、彼がいいさした次の瞬間に、彼の目の前に三田村はいた。


「──うおっ!?」


 クガルは目を見開き、反射的に階段二段分後ろに飛びずさる。目の前に銀色の光が踊る。三田村の持っていたナイフだ。


「ちょっ、ちょっ、タンマ!! 本当に殺す気かよ!!」

「うるせえヤツだな……ペラペラペラペラどうでもいいことばかり喋りやがる!」


 三田村はそう言いながらもなおも敵に向かって踏み込んだ。疲労の色が濃かったはずだが、今だけはその名残をひとかけらも残していない。


 彼はかつての異世界転移で多くの人間を殺した時と同じく目にも留まらぬ速さでナイフを投げ、そして命中させた。

 ──太ももだ。左足の大腿二頭筋長頭、半膜様筋と呼ばれるあたりが損傷する。動けなくなったクガルに三田村が迫る。


「ぐうっ……!」


 クガルは叫び声を噛み殺して、反射的に腕を突っ張って三田村を突き落とそうとする。

 が、これは手が滑って失敗した。

 クガルの抵抗を予測していた三田村が一拍早く体を引いていたからだ。

 三田村はクガルの腿からナイフを引き抜きつつ、もう片方の手で敵が突き出した手首をつかみ、そのまま敵の腕を階段下に向かって思い切り引いた。


「ぐぁっ!!」


 重心を崩したクガルが階段から落ち、重い音を立てて踊り場に倒れ込む。

 三田村は階段を蹴って階段七段分の距離を落下したかと思うと、そのままクガルの上に飛び乗った。一連の動きには全く躊躇ちゅうちょと遠慮というものがない。


「あ……うぐうゥウ……」

「俺は確かに、エリカちゃんが無事ならそれだけでいいんだけどさあ」


いつもと変わらぬ様子で頬をかいて笑いつつ、三田村は足元の男に向かってこういった。


「多分エリカちゃんはそれだけじゃ納得してくれないと思うんだよね。

 あの子、ほーんと生真面目で情が深すぎる子だからさあ。まあそこが好きなんだけど。

 アンタの言う通り、俺はエリカちゃんが大好きだから、俺もまだ帰れないってワケ。……どうやったら他の二人をこっちの世界に戻すことが出来るのか、教えてくくれよ」

「それが人にものを頼む態度か?」

「違うんじゃないかな」


 三田村はそう言いざまに玖珂の左首、つまり左総頚動脈を狙った。

 だが、それは流石にクガルによって防がれる。腕を止められた三田村は小さく目を見張った後、小さく笑った。


「……どーせ問い詰めたところで正解なんか教えてくれるヤツじゃねえだろ、アンタは。

 にしてもまさかの腕力頼みか。

 さっきから魔法の力を使って反撃をすることを避けているようだが……さては魔力に余裕がないのか?

 ここいら一帯には尋常でないほどの魔力が満ちているらしいが、それでもアンタが自分の刑期を償うには無駄使いできない位の量でしか無いってわけだ。


 ……それとも『目的がそれだけじゃない』のか? 故郷への帰還を目指しているくせに、異世界ではなくレギスの牢獄に繋がる理由はなんなんだ?」

「黙れ……黙れ黙れ! だから人間は嫌いなんだ!」


 クガルはもがいて抵抗するが、さすがに踏みつけられたままでは厳しそうだ。

 やはり魔法を使わないのか……と、思いながら、三田村はあえて余裕ぶったポーズを崩さないまま考える。余裕どころか本当は今にも倒れそうなほど疲労しているが、真相に少しでも肉薄できるチャンスは今しかない。


「変だよなあ……アンタにとっちゃオレ一人どうにかするなんて造作も無いことのはずなのに、それさえもやろうとしない。

 俺を殺すこと……は、刑期が伸びるからできないとしても、俺の行動を封じることさえしないってのは一体どういうことだ? 周りには操れそうな魔獣が沢山いるってのに?」

「うるさい……うるさい!!」

「そうカリカリしなさんな。

 神父のヤツ、さっきなんて言ってたっけなー……色々足りないと魔術師の行動は奇妙に見えることがあるとか言ってたなー。

 正直言って、今のあんたも余裕がないように見えるぞ。

 そもそもアンタの目的は故郷への帰還なのに、今ここにわざわざ俺とおしゃべりをしに来ているってのは一体どういうことなんだろうな?」

「……」

「帰還するための何かが足りなくてここに来たんだろ。違うか? あ、違うか。さっき『探し物が見つからない』とかなんとかって言ってたな。それを探しに来たのか。なあ一体何探してるのか教えてくれよ。内容次第では協力できるかもしれねえz」

「黙れよ餓鬼!」


 クガルが三田村を突き飛ばし、吠える。

 今度は魔法を使われたようだ。三田村は通常では考えられない強い力によって体ごと弾かれて、壁に叩きつけられ、階段下の次の踊り場まで落下する。下手をすると死んでもおかしくない落下の仕方だったが、先ほど地獄の軍勢たちが三田村の為にばらまいていた回復アイテムの液体のお陰で奇跡的に即死を免れた。


「がっ……げほっ、げほっ」

「くそっ……くそっ、くそっ! だから人間は嫌いなんだ! ゴミのくせに妙なところでさかしらぶった振る舞いをしやがる!! ゴミはゴミらしく庶民仕様のカーペットタイルの上に転がっていろ!」


 クガルはフラフラと起き上がって階段を下りて来たかと思うと、自分で用意していたらしいナイフを懐からとりだして、三田村を斬りつけた。


「……ぐっ!?」


 腹部を刺された。医学的には右側腹部とよばれる位置に激痛が走る。

 三田村は呻き、それと同時に混乱した。


(どういうことだ? コイツは刑期が伸びるのが怖くて俺に手が出せないんじゃなかったのか? クソッ、真相を掴みそこねたか……しゃーねえな。失敗するリスクは、あった……)


 と、三田村はそのまま自分が殺されることを覚悟したが……何故かそうはならなかった。

 クガルは憎々しげに三田村を睨みつけたかと思うと、ナイフについた血に確認するように触れて……そのまま足を引きずって階段の上方へ消えてしまったのだ。


 ──待ちやがれ、と言いたかったが、咳き込んでいるのでそれもできない。


(アイツ、マジで一体何しにここに来たっていうんだよ!?)


 上方でドアが閉じる音がしたのと同時に、神父や地獄の軍勢たちは急に電源が入ったロボットのように動き出した。





「……驚いたことをするな、レーズン男……お前というやつは……」


 そう言いながら三田村を助け起こしたのは神父だ。


「さっきの男も魔術師だったんだな……魔術式を上書きされて全く動けなかった。魔獣クガル、か……。

 というか、さっきのお前はいくらなんでも無謀すぎた。万が一本当に殺されていたらどうするつもりだったんだ?」


 助け起こされた三田村はなんとか咳を落ち着かせて、へらりと笑ってこういった。


「そんときゃ、殺されるしか、なかったな……」

「馬鹿なのか?」

「……男には、馬鹿だと分かっていてもやらなきゃならねえ時があるんだよ……」


 けほっ、と咳き込みつつ、三田村は苦笑いする。


「なんとかしてアイツにゆさぶりかけてもうちょっと情報を引き出したかったし、一矢報いたぜーってエリカちゃんに報告もしたかったし」

「……そんなしょうもないことのために無茶をしたのか……」

「しょうもなくねえよ。『俺たちは罠にハメられていました』なんて報告だけじゃ恥ずかし過ぎるだろうがよ。

 エリカちゃんへの手土産になるような情報の一つくらい欲しかったんだ」


 三田村はあくまで軽い口調を装っているが、そこからは隠しようもない悔しさが滲み出ていた。


「……つっても大した追加情報は手に入らなかったか。

 アイツをとことん挑発して激怒させてもギリギリまでお前たちに俺を殺させたりしなかった……ってことは、その行動でも刑期が伸びるんだろうなってことが分かったくらいだな。あとは多分とんでもなく魔力を消費する何かをやろうとしている、ってあたりかな」


 三田村はため息を付きながら立ち上がった。

 そんな彼に向かって、階段上にいた地獄の軍勢Cが回復アイテムのトマトジュースをぶっかける。

 それは見事に脳天に命中し、クガルに切りつけられた時にできた傷の痛みは見事に消えた。

 三田村は苦笑交じりに上方のツンデレに礼をいった後、真面目な顔になって話を続ける。


「蒔田さんも夕ちゃんももう助からない……か。まいったな。どうしたらいいのか皆目見当もつかねえや。クガルの野郎も流石に頭の回転が早くてロクな情報を吐きやしねえ。

 エリカちゃんが洞? とかいう何かだったってことだけは想定外だったみたいで、行動自体にはボロが出ちまっていたみたいだが」

「ああ、そのことなんだが……」


 と、神父が目をまばたきながら言う。


「……あの男……帰還が目的だと言っていたが、それが真なのだとしたら、わざわざここに何をしに来ていたんだろうな。刑期の関係上直接人間を殺す事ができない縛りがあったはずなのに、最後にはお前に切りつけていたし」

「それな! そこがもう全然分かんねえ……っていうかこうしてる場合じゃねえよ! エリカちゃんのもとへ急ごう!」


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