第72話朝倉を探そう

 三田村は少しずつ増えていく地獄の軍勢に手早く指示を出して、すべての部屋のドアを破壊して中を見て回るように命じた。

 すべての人間がバールを持っているわけではなかったが、コンシェルジュ詰め所にあった工具箱の中身で代用することでその問題を解決させる。


「この子を見つけたら、即座に確保して俺の元に連れてくるように!!」


 ……と、スマホで例の不動産屋界隈ふどうさんやかいわいに回した朝倉の写真を地獄の軍勢たちに見せることも忘れない。


(てか、スマホ消えてないんだな……。今までの異世界転移とは、少し違うってことか)


 地獄の軍勢とゾンビが乱戦を繰り広げる階段エリアで、三田村はスマホの画面をまじまじと見た。

 ──今までの異世界転移では、電子機器を持ち込むことが出来るのは『核』だけだった。

 異世界に迷い込むと、外部と連絡出来るような機器は消失してしまうのだ。


(スマホが消えないのは有難いが……圏外扱いか。

 スマホにとっては電波暗室でんぱあんしつの中にいるような状態なんだろうなあ……これって)


 三田村はそんなことを考えつつスマホをポケットにしまった。

 そして無限マシンガンをたずさえて、可能な限り上の階を目指していく。

 ──地獄の軍勢たちは軍勢同士が出会っても決して合流してくれることはなく、あくまで三田村自身と接触しなければ仲間に加わってくれないようだった。

 そのことに気づいた三田村は、可能な限り最前線にいるように心掛けることにした。

 なるべく味方の数は多くしておきたいと思ったからだ。


(──クソっ、ここにも外れか……)


 幾つ目になるかも分からないドアをこじ開け中をザッと見ながら、三田村はため息をついた。

 どの部屋にも家具は全くない。まるで竣工しゅんこう直後のようなピカピカ具合だった。


(これはもう玖珂が黒幕……ってことでいいのかな。

 もし仮に玖珂が本当に例の異世界創造魔法に手を出したのだとしたら、この場所のこのありようにも納得出来るんだけども。

『設計図』に建築図面やらなんやらを使ったんだろうなー)


 そんなことを考えながら、三田村はこころもち凶暴さと素早さを増したゾンビをバールで殴りつける。

 階段のような狭い場所でマシンガンを撃つのは危険すぎる気がしたからだ。


 ゾンビを倒しきれなくても、後始末は地獄の軍勢たちがやってくれる。


(コイツら、ごみ箱やスリッパを武器にしているくせにおっそろしく強いな……)


 三田村は思い思いのアイテムでゾンビをボコボコに倒している地獄の軍勢たちを見ながらため息をつく。

 彼らが異様に強いのはかつての笹野原と桐生が彼らのレベルをロクでもない方法で上限MAXまでもっていったからなのだが、これもまた三田村は知るよしもないことだった。


 ──ゾンビにしろ地獄の軍勢たちにしろ、発生元は分からないが上からわらわら沸いて出てきている。

 だが、段々とゾンビたちが凶暴になったり見たこともないグロい敵が出てきた後、ある時点でそれらは止まってしまった。


(……んあ? 敵も味方も無限湧きしなくなったな……なんでだ?)



 ゾンビの気配が途絶え、地獄の軍勢たちばかりになっている階段エリアで三田村は首をかしげる。

 それでも彼は階段をどんどんけ上り、ゾンビを殺し、捜索そうさくの手を決して緩めない。そして、時折ときおり地獄の軍勢たちが部屋をこじ開けて中の様子を調べているのを一緒になって確認した。

 人間の生存者が見つかれば、地獄の軍勢たちが守りを固めている一階のエントランスエリアに向かうように指示を出す。



 三田村は、惨殺エンドの前に朝倉を救い出すために持てる力のすべてを尽くした。

 ……具体的には、乙女ゲーの世界から逃げ出したいのを必死になって我慢した。



(──乙女ゲームとかいうのは破滅志願者が遊ぶゲームなのか!?)



 三田村は愕然がくぜんとした。

 以前、人狼乙女ゲーやらキテレツ学園モノ乙女ゲーやらの世界でイケメンを惨殺して回った時にも三田村はうんざりしていたが、今回は更に更にうんざりしている。ロクなのがいなかったからだ。



 ……本当は、乙女ゲーにもマトモなイケメンはたくさんいる。

 だが、今この場ではマトモな奴は軒並みゾンビに食い殺され、結果的に凶暴でイカれたメンバーだけが残ってしまっている状態だった。

 だがそんな事情を三田村が知るわけもない。ありとあらゆる事情を知らないままだったが、三田村は頑張った。


 ほどなくして朝倉は無事見つかることになるのだが、その前に三田村がくぐった地獄の様子は以下の通りである。


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