十二分におもしろいうえに、伸びしろがある物語

 鬼退治のその後を描いた作品も、桃太郎以外の視点で書かれた物語も山ほどある。桃太郎の弟が出て来る話も、探せばあるにちがいない。
 そのこすりにこすられた物語を、ちょっとした独自の世界へ変えている点がすばらしい。
 その変え方が、突飛なものではなく、登場人物の個性(言動)の積み重ねなどの結果なので、多くの読み手がついていける。落ち着いた安定した世界になっている。

 カクヨムの読み手は、伸びしろのある作品に惹かれる者が多いように思う。
 言い換えると、作者に才能を感じる作品を好むということだ。
 その点で言っても、この作品はお薦めである。
 本作は、字数制限のある賞に応募しているため、短編の形を取っている。
 結果、話の起伏や描写などが抑えられている印象を受ける。
 そのため、賞の結果が出た後に、長めに作り直せば、より読み手を惹きつける作品になる可能性が高い。
 また、長編にするよりも労力はかかるだろうが、短編のままでもブラッシュアップの余地はまだあると思う。
 なぜ、そういうことが言えるのかと問われれば、作者の作った世界(アイデア)の質が良いからと答えたい。
 ダメなアイデアの作品(つまりほとんどの物語)は、いくら時間をかけてもよくはならない。

 あと、文章について言えば、癖がないので読みやすいが、まったく没個性というわけでもない。安心して読める。


 というわけで、長々と書いたが、一言でいうと、暇つぶしにちょうどいい良質の物語なので、広い範囲の人にお薦めである。
 私は面白かった。
 また、道を行くこと・旅をすることを、道行きと書くのは知らなかったので、勉強にもなった。

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