裏話 セレスとは何か

 ――名もなき世界の裏側より。


 高次元的存在は、精霊神の心の欠片をもった悪神を眺めている。


 精霊神と呼ばれる存在は、かつての悪神と戦いで粉々に砕け散り、魂すらも散り散りとなって消滅した。神の力の一端を持つ神獣も代を重ねるたびに只の獣に成り下がり、妖精族と呼ばれる神秘の力を備えた種族はいずこへと消え去った。

 真の神の力を持つ者ものは悪神のみとなってしまった。


 高次元的存在は世界を憂いた。

 世界は長く浮き沈みを繰り返しながら、存続され続けるべきであると考えていた。悪神だけが強者であると世界はバランスを欠く。新しい力ある者が必要だった。


 高次元的存在は異世界から一つの魂を拾い上げた。古びた教会で死んだ殺し屋の魂である。さらに、悪神たちが恐れて世界の果てに打ち捨てた神獣の死骸を拾い上げた。

 高次元的存在は、拾い上げた魂と死骸を使って新たな命を生み出した。それから、小さな妖精族の肉体を作り出すと生み出した命を吹き込んで森に放った。


 高次元的存在が新たな命の出来栄えに満足していると、新たな命の中に小さな小さな意思が紛れ込んでいることに気がついた。かつて、殺し屋の魂と共にあったAIと呼ばれる人工知能である。


 高次元的存在は人工知能を拾い上げるとどうしようかと悩んだ。新しい力ある者をつくっても良かったのだが、材料になる魂がなかったのだ。


 高次元的存在は思いつくままに手を伸ばす。

 星々の煌めきに紛れていた精霊神の残骸をかき集め、深い海の底に眠っていた妖精族の王女の骨を摘まみ取り、溶岩のうねりの中で猛っていた殺された神の怨念をすくい取り、世界の澱みに沈んでいた悪神の心を拾い上げた。

 最後に殺し屋に寄り添うように震えていた魂を手に取る。


 ――悩んだ末にすべてを混ぜ合わせて、小さな妖精族の肉体にを与えた。小さな小さな意思と殺し屋に寄り添っていた魂はかの者を導きたいと願っていたからだ。


 高次元的存在は世界の行く末を見守る。

 名もなき異世界の地に放った一匹の獣と一柱の精霊が、新しい世界の秩序となることを願いつつ、定まらぬ未来を見据えている。

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