287 狩猟開始

 島が近づいてくる。


 高度を下げてから近づいたからか島の正確な大きさが分からない。島と水平に近い高度からだと……結構、大きな島のように見えるが、さすがに本拠地の島ほど広くは無いだろう。


「結構、大きな島なんですか?」

『はい。それなりに大きいですよ。狩り尽くせないほどの魔獣が待っています。私たちがブレスを吐いても問題の無い広さがありますから、極限魔法を使われても大丈夫ですよ』


 極限魔法?


 何やら凄い名称の魔法が出てきたな。


 んで、だ。当たり前のように、俺がその魔法を使える前提で言っているけど、俺は極限魔法なんて使えないぞ。


 ま、まぁ、とにかく凄く広い島だというのはなんとなく分かった。


「姉さま、楽しみですね! 是非、狩り尽くしましょう!」

「まーう」

 狩り尽くせないほど魔獣が居るって話を聞いた側から狩り尽くそうと言っているアダーラは、なんというか……ブレないな。


 高度を下げたまま島へと近づく。


 泳げない彼らにとって海は危険だろうに、随分と高度を下げるんだな。それだけ飛行能力に自信があるということか。巨大な鳥を育てている魔人族もそうだけど、空を飛べるって大きなアドバンテージだよなぁ。


 頭上から攻撃出来るっていうのは大きな利点だ。しかも、大陸の人々は魔人族の武器だからか弓を嫌っている。そうなると空へ届く遠距離攻撃は魔法だけ。まぁ、その魔法があれば充分なのかもしれないけどさ。


 んで、だ。空を飛べることの利点は海を越えられるってこともだよな。大陸で危険な目に遭っても海を越えて逃げれば良い。これは大きいよなぁ。大陸の人々にも海は危険だろうし、多分、船なんかもないんじゃあないだろうか。そりゃあ、湖に浮かべる小舟とかはあるのかもしれないけど、海を渡る船はなさそうだ。


 そんなことを考えている間も竜は飛び続け、島に到着する。木々の多い、自然に包まれた島だ。まぁ、人の居ない、開拓されていない島なのだから、どうしてもそうなるのだろう。これ、島は結構広そうだし、島の中心部で降ろされて放置されたら迷子になりそうだな。


『あ、早速居ましたよ』

 木々の間を器用に飛んでいた竜がそんなことを言う。慌てて前方を見ると、岩が鱗のように張り付いた巨大な猪の姿があった。人の数倍の大きさはあるか。ホント、なんでも大きくなる世界だな。あれがここに住んでいる魔獣なのだろう。


 早速とばかりに竜が凍えるような輝く息を吐き出す。岩猪が氷風に包まれる。岩猪の動きが鈍くなり、やがて止まる。


 だが、俺には見えている。


 奴の蓄えた魔力は消えていない。


 生きている。


 体力を消耗しないように動きを止めているだけだ。


『けほっ、けほっ、ちょっと休憩です』


 氷のブレスが止まる。そして、それを待ち構えていたように岩猪が動く。こちらを目掛け突進してくる。


「姉さま! ここは私が!」

 赤髪のアダーラの動きは早かった。竜の背から飛び降り、その勢いのまま岩猪を殴りつけていた。岩猪の突進が止まる。


 岩猪の鱗のような岩にヒビが入る。


 お、おお? 素手なのに凄いな。殴りつける際に拳に魔力を纏わせていたぞ。さすがというか、なんというか……アダーラは戦いに関しては天才的だよなぁ。


 アダーラが岩猪を殴りつけた勢いのまま着地する。そして、そのまま岩猪の顔面へと回り込み、そこを掴む。持ちあげる。


 アダーラの数倍はありそうな巨体がゆっくりと持ち上がっていく。


 無茶苦茶するなぁ。


 アダーラは持ち上げた岩猪を高く投げ上げ、自身も飛び、空中の岩猪に蹴りをぶちかます。岩猪が爆散し、その中をアダーラが蹴りのポーズのまま突き抜ける。まるで何かのアニメか漫画を見ているかのようだ。


 本当に無茶苦茶だ。


 狩りに来ているのに狩りの獲物を爆散させたら駄目だと思うんだけどなぁ。


 と、せっかくだから、俺は俺のやりたいことをやろう。


 爆散した岩猪を見る。魔力を、その根源である魔素の流れを見る。岩猪の魔素。言うなれば岩猪が持っていた魂――力の欠片だ。


 それを納めていた肉体という容器が爆散したことで、もやもやと周囲にあふれ出している。


 一部は倒した時、一番近くに居たアダーラの方へ。一部は俺たちの方へ、一部は大地へ、一部は生えている木々へと霧散し消えていく。


 俺はこちらへと流れてきていた魔素をアダーラの方へと送り返す。魔素はアダーラの体へと吸い込まれ、同化し、その血肉へと変わっていく。魔素の力によって体が強化され、流れていた血も少しだけ抑えられているようだ。


 なるほどな。


 肉を喰らえば治るというのもあながち嘘じゃあない。


 そして、これがレベルアップの仕組みか。魔力だけではなく、その根源である魔素が見えるようになったから、やっと分かったことだ。


 でもさ、これ、ちょっと効率が悪いよな。近くに居た人や自然にも魔素を吸われているワケだからさ。全部が自分のものになるワケじゃあない。これがもし、全部、自分のものになったら?


 ……。


 多分、魔素による急激な変化に体が耐えられないだろう。多分、限界を超えないように、あえて少ししか吸収出来ないようになっているんじゃあないだろうか。そうやって体をならして徐々に強くなっていく。


 多分、そういうことだろうな。


「姉さま! 見ましたか!」

「まーう」

 得意気なアダーラが戻って来る。


「あ、えーっと、狩りだということを忘れないでください」

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