280 役割結束

 皆で城に戻り、そのまま食堂に向かう。


 食堂ではすでに食事を始めている者たちの姿があった。


 天人族に蟲人族、か。


 獣人族の姿は見えない。獣人族は縦社会というか、群れ社会というか、赤髪のアダーラを筆頭にして、皆がそれに従うって感じなんだよなぁ。だから、食事もアダーラが行うと言えば行うし、それに従う感じだ。ただ、まぁ、力関係も重視しているようだから、命令違反をしてでも上下関係をはっきりさせようとするみたいだけどさ。そういうところを見るといかにも動物らしいというか獣人って感じだよな。って、これは差別発言だろうか。


 ま、まぁ、俺も獣耳に尻尾のある獣ぽい外見だから、うん。って、まぁ、この世界の獣人族は人の姿をしているんだけどさ。


 で、だ。


 ここに居るのは蟲人族に天人族、そして魔人族だ。あー、後は異世界からやって来た猫人の料理人さんが居るな。


 その中で、魔人族が調理や給仕を担当している。女性ばかりの種族だから給仕をしているってことはないだろう。いや、だってさ、この世界、魔力が……魔素の扱いが上手い者ほど強くなる世界なワケで。男女による力の差って殆どない世界だよな。それどころか魔力の扱いが上手い女性の方が、この世界では優位に立っている可能性の方が高いだろう。


 だからまぁ、給仕や調理をやっているのは女性だから、ではなく、好きだから、なんだろうな。


 席に座ると魔人族の給仕がやって来る。

「えーっと、今日のオススメをお願いします」

「私も同じさね」

「まーう」

 羽猫も便乗して席に座り、肉球の付いた猫足を持ち上げている。お前もいっちょ前に注文するのかよ。何を言っているか分からないけどな!


 食事はもちろんタダだ。食材は皆で作り、集め、揃えている。働いていても、働いていなくても、誰もが好きに、好きなだけ食べることが出来る。


 皆で協力して食材を集め、調理して提供している。


「これ、大陸みたいにお金を作って流通させた方が良かったのかなぁ」

「私はそうは思わないさね」

 俺が思わずぽつりと呟いた独り言をミルファクが拾う。


「えーっと、それはどうしてですか?」

「必要としていないからさね」

 ミルファクが腕を組み、大きく椅子に寄りかかる。


「必要としていないから、ですか? それはお金を知らないからじゃあないでしょうか。頑張って食材を集めた人も、何もしなかった人も同じように食事が出来るというのは平等じゃあないでしょう。頑張ったら頑張っただけ報われる方が、励みになると思いませんか?」

「そうさね、それも正しいさね。だけど……そうさね。皆を見てみると良いさね」

 俺はミルファクに言われるまま、食堂に集まっている皆を見る。猫人の料理人さんに教えて貰いながら楽しそうに調理をしている魔人族の女性、料理に舌鼓を打っている天人族の男性、黙々と機械的に食事をしている蟲人さんたち……皆が楽しそうにしている。


「皆、やりたいからやっているだけなのさね」

 やりたいからやっているだけ?


 いや、でも……。

「それだと、飽きたら……やりたくなくなったら崩壊しませんか?」

「四種族はね、遙か昔から帝の言いつけを守って、守り抜いてきた種族たちなのさね。その本質が今更変わるはずがないだろうさね」

 四種族は帝の言葉を守り続けた種族、か。守らなかった種族が大陸の種族。ミルファクが言うように今更か。お金とか、欲とか、俗物的な生き方をしたいなら大陸の種族に迎合しているはずだ。


「使命や団結力、今代の帝も信じて欲しいさね」

「えーっと、はい。そうですね」

「良い返事さね。象徴たる帝が居れば皆はまとまる。お金や欲で縛って従わせる必要はないさね」


 ……お金は必要ない、か。


 なんというか、原始的な仲良しグループって感じだけどさ。それで良いのだろう。国らしくないのかもしれないけど、ここは俺の国だ。俺の名も無き帝国だ。


 これで良いのかもしれない。


 仲良しグループで良いじゃあないか。


 それで困らないなら、それで良いじゃあないか。


 そうだな。


 うん、その通りだ。


 これが俺の国の在り方だな。


 法律もない、お金という概念もない、あるのは役割と結束、そして使命……か。

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