279 召喚帰還

 魔人族のプロキオンの姿が見えなかった理由は分かった。


 んで、だ。


「お母様、このユニットはどうするのじゃ?」

 機人の女王が話しかけてくる。俺が言ったからか無理矢理表情を作ろうとして、怒ったような、睨んでいるような、そんな感じの変な顔になっている。


 焦って表情を作らなくても良いと思うんだけどなぁ。周りの人たちの表情を見て、覚えて、自然に出来るようになるのが理想だけど……うん、まぁ、頑張ってやろうとしていることだし、指摘するのはかわいそうか。


 頑張りは認めよう!


「とりあえず、このゴーレムは神域に戻しましょうか。それとゴーレムの召喚方法と戻し方を教えて貰えると助かります」

「うむ。衛星に戻す方法なのじゃな!」

 そうそう、それだ。それが出来ないとゴーレムが動かせなくなった時に放置しないと駄目ってことになるからなぁ。


「任せるのじゃ」

 機人の女王が跪いているゴーレムに手を触れる。そして、そのまま目を閉じる。何かしているようだ。


 俺はしばらく待ち、声をかける。

「えーっと、それが戻す方法ですか?」

 機人の女王が目を開け、首を横に振る。

「調整をしたのじゃ。今後は天に魔力を伸ばして『天に帰還せよ』と叫べば衛星へと戻り、同じように天に魔力を伸ばして『来い、我が力よ』と言えば衛星からお母様の魔力を目掛けてやって来るのじゃ」

 ふむふむ。


「魔力を天に伸ばす、か。こうですか?」

 俺は自分の魔力を天に伸ばしてみる。だが、何も起こらない。間違っているようだ。

「ただ天に伸ばしただけでは駄目なのじゃ。衛星の眼が分かるように魔力の属性と質によって判断するようにしたのじゃ。それと叫ぶ必要もあるのじゃ」

 ふむふむ。


 それ、多分、喋る必要ないよね。まぁ、叫んで人型ロボットを呼ぶのは浪漫って感じだから分からないでもないんだけどさぁ。ちょっと言葉選びが酷くないか?


「とりあえず、このユニットの色は赤にしたのじゃ。お母様の魔力の属性を赤にして、質は広がるようにすれば帰還、尖らせるようにすれば召喚出来るのじゃ。あの雲より上まで魔力を伸ばせば問題ないのじゃ」

 魔力の分散と収束か。属性も質の変化も何とかなりそうか。


「では、やってみます」

 今回は弓のゴーレムの帰還だな。こいつのカラーは赤、と。火燐の属性が赤だったな。


 火燐の属性を帯びた魔力の粒を、分散させるような形で束ね、線を作り、それを雲より上まで伸ばす。


 すると、すぐにゴーレムの方で反応があった。


 跪いていたゴーレムが立ち上がり、その騎士兜の上にくっついた猫耳がぴょこぴょこと動き出す。何かを受信しているのかもしれない。


 次の瞬間、空から光が降り注いだ。なんだろうな、これから天使でも降臨しそうな光だ。そして、その光がゴーレムに浴びせられ、そのままふわりとゴーレムが浮かび、空へと持ち上がっていく。


 お、おお、謎の技術だ。


「母様、叫ぶのじゃ。帰還の言葉が必要なのじゃ」


 そして、そのままゴーレムは吸い込まれるような形で空へと帰っていった。


 へー、こういう感じなのか。


 んで、とりあえず叫ぶ必要はなかったな。ま、まぁ、でも、こういうのはお約束というか、浪漫というか、風情みたいなものだからな。それに叫ぶ必要があると思わせるのは悪くないよな。そこまで考える必要があるかどうかは分からないが、常にやっておくように心がけよう。


「あー、えーっと、次からは叫ぶよ。で、さっきの光は何?」

 ゴーレム目掛けて光が降り注いでいたけど、なんなんだ? まぁ、なんとなくは分かるけど、分かるけどさ。


「あれは照準光みたいなものなのじゃ。衛星からユニットに照射することで位置を特定しているのじゃ」

 へー、そうなんだ。

「光を収束したものなのじゃ」

「へー、って、ん? それって浴びるとヤバいものなのでは?」

「そうなのじゃ」

 そうなのじゃ、じゃないだろ。


 俺、凄い近くに居たんだけど。教えてくれよ。言ってくれよ。危なかったじゃあないか。


 んでも、それなら、これを使って攻撃することも出来るんじゃあないか? いや、無理か。動き回るような相手に対して狙うのは無理だ。だけど、動かない相手とかなら出来そう。まぁ、でも害があるのは人とか生き物だけだろうし、そこまで無理して攻撃に使うようなものでも無いか。


 さて、と。


「それじゃあ、戻ってご飯にでもしましょうか。最近は食材も揃ってきて美味しいものが増えてきたし、今日のご飯が楽しみですよね」

「そうさね」

 鍛冶士のミルファクが偉そうな表情で胸を張っている。ミルファクが凄いのではなく、猫人の料理人さんが凄いだけなのに、なんで、無駄に偉そうなのかなぁ。


 まぁ、気にしたら負けか。


 ご飯にしよう。


「まーう?」

 羽猫はよく分からないよ、という表情で首を傾げていた。


 俺はお前がよく分からないよ。自由気ままに動き回っているけど、何がしたいのかよく分からないしなぁ。微妙に賢いみたいだし、こちらが言っていることも理解しているようだし……うむむ。


 考えたら負けなのか。


「あー、ご飯だよ」

「まう!」

 羽猫は喜んでいるようだ。


 なんだかなぁ。


 まぁ、とりあえず、これでゴーレムの実験は終わりだな。これなら実戦でも活躍できるだろう。

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