277 運用方法

 矢が目標の木へと当たり、そのまま貫き抜ける。そして、矢に与えられた魔力が爆発した。


 ここまでは予想していた通りだ。一瞬にして爆発の余波が俺たちの前へと迫る。


 俺はすぐにマントの裾を掴み、身を守るように広げる。魔力の余波に包まれる。が、マントで守っている部分だけ、まるでそこを避けているかのように、余波が抜けていく。


 そして、魔力の余波が抜けた後の周囲を見る。


 ……。


 せっかく生やした草が綺麗さっぱり消えている。丸一日かけて頑張った苦労が全て無駄になってしまっている。いや、分かっていたけどさ、分かっていたけどさ。


 そりゃあ、そうなるよな。


 んで、だ。


 とりあえずゴーレムは無傷だ。ゴーレムどころか、マントで守っていた部分から後ろが全てそのままだ。もちろんゴーレムの後ろに居た鍛冶士のミルファクや機人の女王も無事だ。ミルファクなんかは防いで当然という顔で腕を組み仁王立ちしている。


「まーう」

 あー、羽猫も無事だな。


 にしても、このマントは凄いな。


 完全に防いでいるじゃあないか。


『えーっと、このマントはどれくらいまで防げるんですか?』

 とりあえず偉そうに仁王立ちしている制作者に聞いてみよう。


「そうさね……衝撃や魔法、魔力に関するものなら、ほぼ完全に防いでくれると思うさね」

 俺はミルファクの言葉を聞いて驚く。それが本当なら、凄いぞ。殆ど無敵じゃあないか。本当ならって、実際に防いでいるのだから間違いないよな。


「しかし、問題もあるさね」

 だが、ミルファクの言葉は続く。問題? まさか使い捨てだとか言わないよな?


「切断に弱いのさね。剣や斧などで斬られたら、あっさり駄目になるのさね」


 ……。


 は?


 なんじゃそりゃ。


 刃物に弱い?


 そんなことがあり得るのか。


 って、ことは刃物を持った相手に近寄られたら、スパスパとマントが斬られて、で、ボロボロになったところに魔法を叩き込まれたら……ヤバいってことか。ま、まぁ、ゴーレム自体が真銀製だから、魔力を纏わせれば、そうそう傷が付くこともないだろうし、大丈夫だとは思うけど、うっかりマントで刃物を防がないようにしないと……そっちに気を使うな。


『えーっと、何とかならなかったんですか?』

「使っている素材の関係上無理さね」

 ミルファクが何を言っているんだという感じで肩を竦めている。ちょっと小憎たらしい。


『斬られた部分を再生させるとかは出来ませんか?』

「それが出来たらやっているさね」

 そりゃそうか。


 うーん、これは――結局、盾持ちが必要になるか。マントのおかげでゴーレムが二体居れば充分戦えそうにはなったけど、盾持ちが居た方が良いのは変わらないのか。


 いや、むしろ、盾と槍を持っているとか、盾と剣を持っているとかのゴーレムだけの方が良かったんじゃあないだろうか。


 相手の斬撃は盾で防ぎ、剣や槍で攻撃して、魔法や衝撃はマントで防ぐ。うん、一体で充分な感じじゃあないか。これは、目覚めさせるゴーレムを間違えたかなぁ。


 いや、でも、待てよ。


 剣や槍の間合いに敵を近寄らせるということは、攻撃を受ける可能性も増えるってことだよな? うっかりマントが斬られたら……。


 相手が十数メートルあるゴーレムと同じサイズとは限らないし、一人とも限らない。人の集団に襲われたら……ヤバいな。


 魔獣だって鋭い爪を持っている可能性がある。そんなのに襲われたら……。


 うーん、となるとやはり近寄らせないのが一番だよな。


 遠距離とマントのゴーレム。近距離と盾持ちのゴーレム。この二体でペアにして戦うのが一番良さそうな感じだなぁ。まぁ、そうなると二体のゴーレムの連携が重要になってくるし……うーん。


 問題は山積みだなぁ。


 それ以前に、だ。いつになったら二体目のゴーレムが起動出来るか分からないしなぁ。大きな魔石が見つからないと無理なんだろう?


 大きな魔石を持った魔獣ってドラゴンとかか?


 竜と言えば天人族だけど、さすがにそれは、なぁ。天人族はあくまで竜に変身出来る人だしなぁ。


 まぁ、考えても仕方ないか。


 とりあえずゴーレムの実験を続けよう。


 次は目標を定めずに何処まで飛ぶか、だな。


 目標地点で爆発が起こるのは確認した。では、とにかく飛ばしてみたらどうなるか、だな。


 弓に矢を番え、魔力を纏わせる。


 そして、放つ。


 魔力を纏った矢が飛ぶ。


 矢が加速する度に纏わせている魔力は鋭く尖っていく。そして、ある程度の距離を超えたところで魔力が減衰していき、やがて矢が消えた。


 ……。


 ふむ。


 一番破壊力が出る距離があって、そこを越えると威力が落ちていくって感じか。


 うーん、一番破壊力が出るのは1キロメートルくらいかなぁ。あくまで目安だけどそれくらいのような気がする。


 にしても、ただ飛ばした場合は爆発しないんだな。これ、当たった場所で、そこまでに残っていた魔力が爆発するって感じなのだろうか。


 300メートルは近すぎたのかもしれないな。


 まぁ、とにかくアレだ。


 とにかく恐ろしい威力だということだ。これ、人相手に使うのなら完全なオーバーキルだよな。威力がありすぎる。


 戦争用というか、攻城兵器というか……。


 運用が難しそうだなぁ。

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