245 天人族は

「どうして欲しいか、だと」

 天人族の一人がわなわなと震えている。

「えーっと、もう一度聞きます。どうして欲しいんですか?」

「決まっている! 偽りの種族に我らの力を思い知らせるのだ!」

 天人族の一人が翼を大きく広げ何やら叫んでいる。


「えーっと、それは聞きました。どうして、それを自分に言うか、です。自分にどうして欲しいんですか?」

「何度も言わせるな。お前が……」

「いや、だからですね、何故、それを自分に言うんですか? まずはアヴィオールに言えば良いでしょう」

 そうなんだよな。一応、こんな見た目だし、俺程度がって思うこともあるけどさ、でもさ、それでもさぁ、俺、一応、ここの――名も無き帝国のトップなんだぜ。まずは自分たちの種族のトップであるアヴィオールに言うのが筋なんじゃあないか。


 ……これ、普通に舐められているよなぁ。


「長に言える訳がないだろうが!」

 集まった天人族たちはこちらを威嚇するような怖い顔を作っている。アヴィオールには言えないのに、俺には言えるのか。


 一応、そう、一応だが、俺の方が立場は上なのにな。祭り上げられているだけかもしれないけどさ、それでも俺がトップなんだぜ。


 アヴィオールの管理不足だな。だから、まぁ、この天人族を俺に会わせないようにしていたんだろうけどさ。それでも管理不足と言おう。アヴィオールだからな!


「その長に言えないことが、何故、自分に言えるんでしょうか。おかしくないですか? おかしいよなぁ!」

「くっ、何を言う。偽りの種族が帝と祭り上げられて勘違いしたか!」

「我らに逆らうつもりか!」

 話にならないな。こんな性格をしているからヒトモドキさんたちと敵対するんじゃあないだろうか。そりゃあ、襲われるかも、と怯えてイケニエを召喚するよな。自衛したくなる気持ちも分かるよ。


 俺は機人の女王の方へと振り返る。

「なぁ? どうしたら良いと思う?」

「力を見せれば良いのじゃ。手始めに一人血祭りに上げてはどうなのじゃ」

 機人の女王が楽しそうに笑う。

「いや、さすがにそれは不味い。今、こちらは人手不足なんだから、少ない人数をさらに減らすのは得策じゃあない。それに、だ。血祭りに上げるにしても、やって良いかアヴィオールに聞いてからだよ」

 こんなんでも貴重な戦力だからなぁ。向こうの人に比べてこちらの人員が少なすぎるんだよ。多分、百分の一? いやもっとか。多分、千分の一とか、酷ければ万分の一くらいの人数差があるはずだ。その中で貴重な戦力を削るのはなぁ。


「ふむ。じゃが、従わぬものを配下に置いても獅子身中の虫になるだけなのじゃ」

「確かにそうなんだけどさ。そこはまぁ、認めて貰うように頑張るってことで」

「先ほどから何をごちゃごちゃと! お前は我らに従って言う通りにしていればよいのだ!」

「それが分からぬか!」

 天人族の連中がいきり立っている。なんというか随分と偉そうで傲慢な連中だ。よし、分かった。そこまで言うなら、やってやろうじゃあないか。機人の女王に唆されたワケじゃあないが、俺の力を見せて叩き潰してやろう。


「分かりました。意見を通したいなら力ずくでどうぞ。そうそう、本来の姿になった方が良いですよ。でないと一瞬で終わりますよ」

 うむ。これくらいの挑発はやっても良いだろう。

「言ったな」

「良かろう、我らの力を」

「いや、待て。我に任せるのだ。このようなものに我ら全員が力を使ったとあれば種族の名折れ。我一人で潰してくれよう」

 天人族の一人が前に出る。そして、その姿を変えていく。なんでも良いから早くして欲しいぜ。


 そして、一匹の巨大な竜が生まれる。

『我の力の前にひれ伏せ!』

 変身まで割と時間がかかったな。アヴィオールは一瞬で変身するんだけど、これが長と一般人の違いなのだろうか。


「わらわも……」

 手助けしてくれようとした機人の女王を手で止める。


 そのまま体に魔力を循環させる。体が銀色に輝いていく。


 武器は……いいか。これで武器まで使ったらやり過ぎになってしまうだろう。うーん、俺もそんなことが考えられるくらい強くなったんだなぁ。


『喰らえ!』

 竜が巨大な尻尾を振るう。俺はその暴風のような一撃を片手で止める。不完全な魔力の扱いの状態だった頃でも、コイツらよりも上のアヴィオールの一撃を受け止めることが出来たんだ。今の俺なら余裕だ。余裕に決まっている。


『な、なんだと!?』

 目の前の竜は尻尾を止められ動けなくなっている。俺はそのまま飛び上がり、その竜の頭に拳を叩きつける。

「へぶし!」

 竜が一撃で地面にひれ伏す。


「まだやりますか?」

『まだ……だ。まだだ!』

 竜がゆっくりと頭を持ち上げる。

『我は誇り高き天人の一族。力になどは屈せぬ!』

 お、おう。このままだと殺してしまいそうだから止めて欲しかったんだけどな。


 しかしまぁ、力では屈しない、か。うーん、このまま続けるのは不毛なのか。仕方ない。


「これ以上続けるなら食事抜きにします」


 ……。


 ……どうだ?


『な、んだと!』

 竜がその姿を人型へと戻していく。


 そして、そのまま膝を折る。その後ろの天人族たちも膝を折り、頭を下げる。


「我ら帝に忠誠を捧げます」


 ……。


 マジかよ。


 アヴィオールがああだったから言ってみたけど、マジかよ。


 力には屈しないけど、食事には屈するのかよ。


「あ、えーっと、自分に逆らう人は食事抜きにします」

「我らの忠誠は帝のもの。逆らうなどあり得ません!」

 天人族の皆さんが整った顔で良い笑顔を作ってらっしゃる。


 なんなんだよ、このギャグみたいな展開は。ギャグみたいな種族過ぎるだろう!


 ま、まぁ、でも、これで三種族目も認めて貰えたのか。後は蟲人だけか。また同じような流れになるんだろうか。


 うーむ。

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