239 謎の存在
自分たちが部屋の外に出たところで自動的に隔壁が閉まり始めた。ほー、自動なのか。
と、そこで俺は機人の女王がこちらを見ていることに気付く。
「えーっと、どうしました?」
「うむ。おぬしが考えているとおりなのじゃ。わらわならば、問題ないのじゃ」
問題ない? いや、別に俺は何も考えていないんだけど……って、あ!
そういうことか。機人の女王は自分なら、あの暗闇の先を探索できると言ってくれているのか。人形? 機械生命体? である機人の女王なら残ることも出来る、か。
いや、でもなぁ。多分、機人の女王は宇宙空間というものがどういうものか分かっていない。だから、そういう提案をしてくれているのだろう。
うーん、これはどうやって説明したら良いのだろうか。
「えーっと、空を見ます」
「む? おぬし、どうしたのじゃ?」
「空を見ると青空が広がっていると思います。夜には暗闇と星々の光が見えますよね?」
「う、うむ」
「姉さま、突然、どうしたのです?」
二人は俺が言おうとしていることが、まだ分からないようだ。
「御屋形様、狂ったんですか」
周囲の獣人さんたちがそんなことを言い出す。狂ってねぇよ。って、獣人族の皆さんも追いついてきたのか。俺やアダーラほどじゃあないにしても、獣人族の皆さんもかなり足が速いな。
「夜の闇、星の海は何処まで広がっているか分かりますか?」
「ふむ。分からぬのじゃ」
無限に広がる大宇宙……だよなぁ。宇宙空間がどれだけ広いかなんて分からない。それはこの異世界でも同じだろう。
もしかするとここは異世界ではなく、別の惑星で、何処かに俺が元いた星があったりするのかもしれないけれど、天文学者でもない俺には分からない。星座なんて子どもの頃に習ったきりだからな。憶えてない。有名な星の名前くらいは覚えているけどさ、それが何処にあるかなんて分からない。俺の住んでいたところだと星空なんて見えなかったからなぁ。子どもの頃に習ったことなんて、その程度だよな。
とと、話が飛んだな。
「あの扉の先に広がっているのは外です。神域の外ですよ」
「ふむ。何故、神域の外が真っ暗なのじゃ」
「それはここが大地から遙か上空にある、星が煌めく夜の世界だからですよ」
この説明で分かって貰えただろうか。
「姉さま、そういうことだったのですね!」
赤髪のアダーラは分かってくれたようだ。って、本当に? うーん、頭の中まで筋肉が詰まってそうなアダーラだと不安になるなぁ。
ま、まぁ、とにかく、ここはこれで解決だ。
「アダーラ、他に何処か探索する場所はありますか?」
「ありません。また姉さまの力をお借りする時はお願いします。よし、お前ら、一旦、帰るぞ!」
アダーラの言葉を聞いた獣人族の皆さんから悲鳴が上がる。
「あ、姐さん、俺たち今着いたところですよ」
「団長、無理です。もう動けません」
その獣人族の皆さんをアダーラが睨み付ける。
「あ? たるんでるぞ! お前らが! そんな体たらくだから王都が取り戻せなかったんだろうが! 戻ったら再訓練だ!」
獣人族の皆さんからもう一度悲鳴があがる。
「おら、行くぞ! では、姉さま、行きましょう」
アダーラが走り出す。
速い。
すぐに姿が見えなくなる。
いや、俺も結構、キツいんだけどな。場合によってはアダーラに運んで貰おうかと考えていた位なんだけどな。うーん、そのアダーラが真っ先に帰ってしまうとは……。
仕方ない。筋肉痛になるのは怖いが、もう一度、銀色になるか。
「まーう」
そんな覚悟を決めた俺の足元では羽猫が鳴いている。
こいつも謎の存在だよなぁ。ワイバーン種の巣で見つけた謎の卵から現れた羽猫だ。どうやって俺に追いついて、どうやってここまでやって来たのかも謎なら、マスコットのような面をして俺を追いかけていることも謎だ。
俺が中身まで女の子だったら可愛いとかもふもふとか言って側に置いたのかもしれないが……中身は違うからな。そんな俺からすれば、この羽猫は不気味な存在でしかない。
付きまとって――ああ、そうだな。俺を監視しているようにしか見えない。
ヒトモドキ側の監視役? いや、それは考えすぎか。俺の存在は知られていないだろうし、向こうにそこまでの力はないだろうからさ。
となると、本当に謎の存在だよなぁ。
ま、考えても仕方ないか。
とりあえず、もう一度、魔力を体に循環させるか。魔力の残量もキツければ、体の負担もキツいが、まぁ、休憩しながら無理せず動けば何とかなるだろう。
うんじゃあ、ちゃちゃっと帰りますか。
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