237 超全能感
銀の尾を引きながら走る。
「おぬし、見るのじゃ」
俺の首に腕を回し、背中にぶら下がっていた機人の女王が前方を指差す。あるのはただの通路だ。この通路の先にアダーラが待っているってことか?
「あの者が残している魔力の残滓、今のおぬしなら見えるはずじゃ」
魔力の残滓?
見る。
走りながら魔力を確認する。
あ……。
見えた。
真っ赤な赤い線が見える。これはアダーラが進んだ軌跡をなぞった線か。
なんで急に見えるようになったんだ。
……。
あ、そうか。この世界の生き物は、呼吸と同じように周囲の魔素を吸収して魔力として取り込んでいる。その魔力が残滓となって漏れ出しているのか。
なるほどな。
でも、今まではここまで見えなかった。魔力の流れは見えていたけれど、こんな――例えるなら空気中の二酸化炭素が色分けして見える、みたいなレベルでは見えなかったぞ。
どういうことだ?
あ。
魔力で全身を強化したから、か。そうだよな。普通なら、ここまで色々と見えてしまうと脳の処理が追いつかなくなりそうだけど、今のところ問題ないし……。
これも全部、魔力で全身を強化しているから、か。
凄いな。
全能感が凄い。今ならなんでも出来そうだ。
と、今はアダーラに追いつかないと。
魔力の赤い線を追いかけていると、すぐに獣人の皆さんが見えてきた。その集団を追い越し、先頭で走っているアダーラへと駆け寄る。
「姉さま! その輝きはどうしたのですか! 格好いいです!」
今の俺は銀色に輝いている。目立つことこの上無しだ。隠密行動に向かない輝きだが、この状態なら隠れる必要がないからな。全て迎え撃てるレベルの力だ。これで良いのだ。
「えーっと、アダーラ、扉までは、後、どれくらいですか?」
「まだ距離があります」
「そうか」
まぁ、歩いて一日の距離だからな。そんなすぐには到着しないか。
「姉さま、分かりました。全力で走ります。お前ら! 私は先行する。お前たちはそのペースを維持しろ。あまりに遅いようだと再訓練だ!」
アダーラが身を屈め、地を這うような姿勢で飛び出す。さらに加速するのか。
追いかけよう。
アダーラと併走して走る。周囲の景色が、壁が、一瞬で後方へと消えていく。この速度で走れるのは気持ちよいな。
そして、一時間ほど走り続け、やがて扉が見えてきた。
扉?
扉というよりはシャッター? それとも隔壁? という感じだな。
「えーっと、アダーラ、ここが目的の場所ですか」
「姉さま! その通りです」
アダーラが足を滑らせるようにして速度を落とし、止まる。
ふぅ、やっと到着か。一時間も走り続けることになるとは思わなかったよ。全身に魔力を纏わせているからか疲労感とかは特にない。まだまだ動けそうだ。
一時間ほど、か。歩いて一日かかると言われた距離が一時間かぁ。
歩きの時速を5㎞として、休みなく一日中歩くとしたら……進めるのは120㎞くらいか。これが玉座の間からここまでの距離だ。その距離を一時間で到着出来たのだから、時速120㎞か? かなりの早さで動いたことになるな。
と、そこで到着した気の緩みからか、纏っていた魔力が霧散する。気の緩み? いや、魔力の限界か。毎日、魔力の容量を鍛え続けて、かなり容量を増やしたはずなのに、一時間しか持たなかったのか。かなり燃費が悪いな。
って、へ?
体が痛い。全身、筋肉痛になったような痛みが、ががが。
「えーっと、機人の女王、背中から降りてくれ。ゆっくりとだ、ゆっくりお願いします」
「うむ。任せるのじゃ」
機人の女王が俺の背中から飛び降りる。
お、おう! 衝撃が、衝撃がぁぁ! ゆっくりって言っただろうがぁ。
「まーう」
どうやって追いかけてきたのか羽猫もやって来る。待て待て、近寄るな。今の俺はヤバい。全身凶器だ。触れたら……俺が死ぬ!
はぐわぁ。ヤバすぎる。
「姉さま、どうしたのです?」
「あ、えーっと、ちょっと、力を使った反動が……、動けるようになるまで少し待ってください」
便利な力だけど反動もヤバいな。
魔力消費も大きく、普段の倍以上の力で体を動かすからか酷い筋肉痛になる、と。普通なら体のエネルギーを消費し過ぎてガリガリになってそうだ。食事をしないと死んでしまうような状況だな。まぁ、この世界だと消費するのは魔力だから、漂っている魔素を吸収し続ければ、食事をしなくても何とかなる。
でも、まぁ、本当は食事もするべきなんだろうけどさ。
でもさ、今回、何も準備していないからなぁ。
さっき食べた昼食のエネルギーが全部消えている感じがする。はぁ、失敗したなぁ。これ、帰りはどうするんだ?
なんだかなぁ。
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