217 偽りの力

 魔法で創られた人工物なのに、ぱっと見は人の手が加わっていない自然の状態のようにしか見えない異常な世界。


 偽りの太陽。

 偽りの木々。

 偽りの小川。

 偽りの大地。


 人工物なのに自然の状態。


 そんな異常な場所を小川に沿って進む。


 魔獣が現れる気配はない。そもそも生き物が棲息している様子が無い。


 魔獣が現れないのは楽で良いが、もしかするとここに来るまでに戦ったゴーレムのような連中は現れるかもしれない。あまり油断しないようにしよう。


 にしても、だ。


 ここを創った連中は何をしたかったんだろうな。こんな箱庭みたいな世界を創って、神にでもなった気分を味わいたかったのだろうか。


 森へと入り、小川沿いに歩く。


 とにかく歩く。


 ……。


 ここは無駄に広そうだし、ある程度進んでみて、何も無かったら引き返そうか。


 今の俺は食料を持っていない。生きている俺は水と食料がなければ死んでしまう。最悪、草魔法で生み出した草を食べて何かを食べた気分に浸ることくらいは出来るだろう。だが、それはあくまで誤魔化しでしかない。空腹に耐えられなくなったら……帰ろう。戻ることを考えて進むことにしよう。


 黙々と歩き続けると小さな丸太小屋が見えてきた。ちょっとした休憩所みたいな大きさの丸太小屋だ。


 ……。


 何故、丸太小屋が?


 丸太小屋。


 木を切り倒し、丸太にして積み上げて作られた家だ。


 俺の目の前にあるのがそうだ。


 ……。


 何故、丸太小屋が?


 周囲の木々を切り倒し、丸太にして、この丸太小屋を作ったように見える。何も知らなければそうだとしか思えないだろう。


 俺は右腕に巻き付いている茨をほどき、蕾の茨槍を槍の形態に戻す。そして、そのまま火燐の魔力を纏わせ、すぐそばの木を貫く。


 その一撃で木は魔素と化し、消滅した。


 そう、ここにある木々は偽物だ。魔力で作られた偽物でしかない。攻撃を加えて耐えきれなければ、魔力の元である魔素へと戻り、消える。


 丸太にはならない。材木にはならない。元の魔素に戻るだけだ。


 ……。


 何故、ここに丸太小屋がある?


 おかしい。


 いや、おかしくはないのか。


 この丸太小屋自体も魔法で作られたのだろう。つまり、誰かが――誰かは最初から丸太小屋という形で作ったということだ。


 この丸太小屋も偽物だ。


 どれだけの魔力があれば作れるのだろうか?


 どれだけの魔力があれば、こんな異常な世界が創れるのだろうか?


 この丸太小屋も攻撃を加えれば、耐えられなくなった時点で魔素になって消えるだろう。魔法を使って創れば、こんなことも可能なのか。


 ……。


 異常だ。


 ……。


 と、ここで考えていても始まらないな。


 初めてのいかにもな人工物だ。いや、まぁ、本当は、回り全てが人工物ではあるのだけれど、人の手が加わったと一目で分かる、それらしい建物というのは、この丸太小屋が初めてだ。


 中に入ってみよう。


 丸太小屋の中に入る。


 そこで待っていたのは……白骨死体だった。


 まるでダイイングメッセージを残そうとしていたのかように腕を、指を伸ばした状態で骨になっている。


 この白骨死体が、この異常な世界を創ったのだろうか。


 この白骨死体は、何故、こんな世界を創ったのか?


 ……。


 にしても、すでに死んでいた、か。


 これでは答えを聞くことが出来ない。


 この偽りの世界を創った理由は気になるが、もう答えを聞くことは出来ない。


 白骨死体か。


 俺は何かヒントでも無いかと白骨死体に近寄ってみる。


 ……ん?


 あれ?


 ちょっと、おかしいぞ? 俺の足元が……?


 これは俺の気のせいではないはずだ。この獣耳の少女の体は聴覚に嗅覚、それに第六感と言えるような感覚に優れている。


 その体が違和感を覚えた。


 何処だ?


 白骨死体の周囲をくるりと回ってみる。


 微妙なのは白骨死体が伸ばしている、この指の辺りか?


 多分、これ、下が空洞になっている。


 もしかして、地下室――隠し部屋か?


 この下には何がある?


 何を隠している?

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