194 花開く
とりあえず実験を続けよう。
その前に再確認かな。サモンヴァインの効果は槍の穂部分になっている蕾の再生……か。草で作られているだけあって魔力を纏わせていなければ簡単に切断されてしまうみたいだからな。簡単に切断、か。それってさ、強化されたのか分からない進化の仕方だよなぁ。
さて、次は、と。
グロウの魔法だな。草を成長させる魔法だけど、これを蕾の茨槍に使ったらどうなるかな? サモンヴァインの魔法みたいに特殊な状況じゃないと発動しないとかあるかな?
まぁ、試してみれば分かるか。
蕾の茨槍を指定して魔法を発動させる。
――[グロウ]――
魔法の発動に合わせて蕾が細く伸びる。二メートル近い長さがさらに長く……これは四メートルくらいの長さだろうか。あれだな、古代の兵士が持っているパイクとか、あの辺の槍みたいだな。長く成長したのに重さが変わっている気がしない。草で出来ているから軽いのだろうか。
だが、その伸びたと思った蕾がすぐ元の長さに戻る。
あらら。持続はしないのか。まぁ、ずっと長いままというのも困るから逆にちょうど良いか。
これはアレだな、突きがギリギリ届かない、とかの場合に使えそうだな。後は、あまりなさそうだけど、格好つけて紙一重で躱された時とかに伸ばして攻撃するとか面白そうだよな。
これはこれで面白い効果だった。
さて、次はシードの魔法か。これは草を種にする魔法だけど……使って大丈夫だろうか。蕾の茨槍が種になったら洒落にならないぞ。
……。
いや、武器はなくならない……よな? それに、だ。サモンヴァインの時に発動しなかったように問題があるなら、魔法が発動しないような気がする。
……。
よし、使ってみよう。
――[シード]――
シードの魔法を使うと蕾の茨槍の巻き付いている茨部分からコロコロと数個の種が転がり落ちた。
ん?
種が生まれた?
もう一度使ってみよう。
――[シード]――
先ほどと同じように蕾の茨槍の茨部分から数個ほど種が転がり落ちる。そして、新しく種を生み出したからか、先ほど転がっていた種が萎み、枯れ、消える。一度に複数は種を作れないってことなのか?
で、この種を使って何が出来るんだ? 成長させると新しい蕾の茨槍が生まれるのだろうか。もしそうなら何本も蕾の茨槍を増やせるよな。
って、違うか。種が生まれたのは茨からだ。別のモノが生まれそうだな。
転がっている種にグロウの魔法を使ってみよう。
――[グロウ]――
転がっていた種たちが一瞬にして鋭い天然の草槍となって飛び出す。そして、それはすぐに枯れて消えた。
は、危なっ! 危うく自爆するところだったぞ。
だが! これは……罠として使えそうだ。生み出した種を持っておいて、逃げる。で、追いかけてきた相手の前にばらまく。その後、成長させれば……串刺しだな。恐ろしい罠だ。相手に投げつけて成長させても良いな。
シードからグロウという手順を踏む手間はかかるけどさ、攻撃用の罠、攻撃用の魔法としては有用じゃあないか。
最後はロゼットか。
これは何となく予想できるけど、どうなるか分からないな。おかしな言い回しになってしまうけど、そうとしか言えないなぁ。
まぁ、試してみれば分かる、か。
――[ロゼット]――
蕾の茨槍の蕾が開く。花が咲く。
へ?
いや、まぁ、蕾が開くのは予想通りだけど、それで……?
蕾が槍のように長かっただけに開いた花は大きい。自分の小さな身体を覆い隠すような花だ。
あ……!
開いた花に魔力を纏わせる。そして触れてみる。魔力を纏わせているからか、硬い。
これは盾、か!
魔力を纏わせていない状態では花だけに柔らかく、装飾としか使えないような代物だ。だが、そこに魔力を纏わせれば、一気に便利な盾に早変わりだ。
これは俺だからこそ扱える盾だな。
だが、槍を盾に変形させてしまうと何か他の武器が必要になってくるな。
俺の意思をくみ取ってくれているのか開いた花が元の蕾へと戻っていく。一瞬だ。まるで槍自体が意識を持っているかのようだ。
持ち運びが便利な茨状態から一気に槍に変わって、しかも欠けたり、切られたりしても再生出来て、長さを伸ばすことも出来て、罠や攻撃魔法の代わりになって、盾にもなる、か。
……凄いな。
草魔法との相性が良すぎる。まるで、この槍のために草魔法があったかのようだ。いや、逆か。俺の草魔法が活用出来るように進化したのか。
これは嬉しいな。
だが、まぁ、盾モードの活用を考えるともう一つ武器があった方が良いかもしれないな。両手に武器を持つべきだろう。
デメリットは魔力を纏わせるから常に魔力を消費することか。と言っても、俺は何故か莫大な魔力を身に宿している。この程度の消費なら気にならないだろう。本当に相性が良い武器だ。
最初は使えないと思った草魔法が一気に花開いたな。といっても不意打ちに使ったり、塩を手に入れるのに使ったり、割と便利だったんだけどさ。
草魔法は決して外れじゃあなかったぜ!
「あ、あの……」
そんなことを考えている俺の横で腹を押さえた獣人の男がヨロヨロと立ち上がっていた。あー、さっき腹を殴って眠らせた獣人族か。
何の用だろう?
「すいませんでしたっす! 自分も御屋形様に従います!」
獣人族の男がそのままジャンピングして土下座した。
は?
あー、えーっと……。
「おいおい、情けないヤツだな。今度は俺が相手だぜ」
俺がどうしようかと思っていると、その後ろから新たな獣人の男が現れた。良く分からないが、同じように絡んできている。
……。
これはアレか。
倒さないと駄目な流れか。
新しく絡んできた獣人族の男を蕾の茨槍でたたき伏せる。
一撃だ。
よ、弱い……。
何でこの強さで絡んできたんだよ!
「すいませんしたー!」
その新しく絡んできた獣人族はダメージが無かったかのように飛び起き、そのまま土下座した。
……。
「は! お前ら口ほどにもねえな! 真打ち登場だ。おい、俺に勝てるか?」
また一人の獣人族が絡んでくる。もしかして、どちらが上かたたき込まないと駄目な流れなのか。獣人族って一人一人上下をはっきりさせないと駄目な種族なのか。
あー、面倒だ!
「えーっと、面倒だから、全員でかかってきてください!」
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