151 槍と盾

 槍と盾、か。


 矛盾が生まれそうだなぁ。まぁ、俺が持っているのは矛ではなく槍で、盾も大盾だから矛盾にはならないな! って、まぁ、そんな詭弁はどうでも良いか。


「えーっと、それで、何故、急にこの盾を?」

 何故、作ったか、だ。槍には盾だから、盾を作った。それは分かる――分かった。だけどさ、俺は今まで調理道具とかしか頼んでいない。それは草紋の槍で何とか出来るだろうという思いがあったからだ。まぁ、対価となるものが用意出来ないって理由もあったけどさ。足元も固まっていないのに強さを求めすぎるのは――欲張りすぎるのは駄目だって話だよ。


「作りたいと思ったから作ったのさね」

 眼帯の女性はこちらを見て笑っている。面白いものを見つけたという感じで笑っている。

「えーっと、対価は?」

 魔人族は対価がなければ交換をしないというルールで動いていた。それは、この眼帯の女性も同じだろう。俺は対価として払えるものが無い。さすがにさ、昨日食べさせたカニが対価になるとは思っていない。魔法を完全に防ぐ盾なんてさ、魔人族に対する切り札になるような代物だろう? 要は魔人族全てと秤にかけるような代物だ。それがカニ一匹と交換になるとは思えないよな。


「今世の帝に対する期待が対価さね」


 ……。


 格好いいことを言うなぁ。


 しかし、だ。それはどういった期待なんだろうな。俺が魔人族の味方をして人と敵対することへの期待なのだろうか。


 俺は眼帯の女性を見る。


 眼帯の女性が俺を見る。そこには先ほどまであった笑みが消えている。


「私の名前はミルファクだ」

 俺を見ている。俺の奥底、心の中まで見通すような強い力を瞳に込めて俺を見ている。

「自分は――」


 眼帯の女性――ミルファクが笑う。

「帝の名前を貰うのは恐れ多いさね」

「いや、えーっと……」

「その盾は帝が自由に使ったら良いさね。私が好きに作って好きに押しつけたものさ。気に入らないなら投げ捨てようが、売ろうが自由さね」

 いや、自由にってさ。


 って、ん?


 売る?


 ここって、この魔人族の里って、交換が基本だったよな?


 どういうことだ。


 ……。


 いやまぁ、とにかく、大盾が手に入ったってことで納得しよう。それよりも、まずはBPだ。これの振り分けをどうしようか考えている途中だったからなぁ。そうなんだよ、そっちの方が重要だよ。


 BPは『2』ある。時魔法をもう一段階進めてみるか? それが一番アリな気がするんだよなぁ。でもさ、それは確実に、戦う力の強化にはならないだろう。試すまでもなく予想できる。強くなるなら大盾も手に入ったことだし、盾技や槍技をあげた方が良いだろう。だけどさ、それで手に入る力は――少し気持ち悪い。魔法は良いんだよ、本来なかった、自分に加わる能力だからさ。でもさ、槍の扱いが上手くなるとか、技が使えるようになるのは自分が改造されているみたいで、少し気持ち悪いんだよ。


 うーん。


 これはやはり魔法だな。


「後は帝に戦い方を教えようと思うんだがね」

 ん?


 俺がBPの振り分けに対して悩んでいるとミルファクはそんなことを言い始めた。


 戦い方?


「えーっと、いや……」

「優れた鍛冶士は優れた戦士でもあるのさね」

 ミルファクが唇の端を持ち上げ、笑っていない瞳で俺の方へ近寄ってくる。


「帝は戦い方を知らないようだからね」

 戦い方って槍で突くとか、そういうことじゃあないのか。って、それは二段突きみたいな技を教えるってことか? いやいや、さっきまで、そういう技をBPで覚えるのはなぁって悩んでいたところだからさ。ちょっとなぁ。


 ミルファクが俺の前に指を突きつけ、その指を横に動かす。


 ん?


 ミルファクの指の動きに合わせて光が――魔力が動いている。

「これは見えるのかい」

 そりゃまぁ、あの魔人族の少女に狩りの邪魔を散々やられたからな。見えるようになったよ。

「なら重畳さね」


 ミルファクが何も無い空間から剣を取り出す。プロキオンと同じ空間魔法か?


「まぁ、これは玩具みたいな剣さね」

 ミルファクが言うように鑑定するまでもないくらい普通の鉄の剣だ。いや、普通じゃあないな。刃が落とされている。これじゃあ鉄の剣とは言えないな。握りのついた鉄の棒板だ。


「次はこいつさね」

 そして、同じように何も無い空間から俺が受け取ったのと同じくらいの大きさの盾を取り出す。盾が地面に転がる。

「それをこうするのさね」

 その刃を落とした鉄の剣に魔力の光が広がる。ミルファクは、そのままその剣を地面に転がっている盾へ叩きつけた。


 は?


 それは一瞬だった。


 盾が二つに分かれている。


 刃を落とした鉄の剣が行ったとは思えないくらい綺麗に真っ二つになっている。綺麗な切断面だ。


「魔力を走らせれば、その武器は、盾は、鎧はその力を増すのさね。そして、使い続けて魔力が馴染めば武具は生まれ変わるのさね」

 魔力を走らせる? 魔人族の少女が弓と矢にやっていたようなことか? それを武具に? って、それよりもだ。生まれ変わるってどういうことだよ。どういう意味だ?

「これは大陸の連中でも殆どが知らない秘技さね。だが、あくまで殆どさね。やつらの中でも英雄クラスは知っていると思った方が良いさね」

 は?


 大陸って、えーっと、人ってことか? 英雄って……強いヤツは使えて当たり前ってことなのか。でも、俺が知っているはじまりの町の人たちは誰も使っていなかったよな?


 ……。


 本当にレベルが違うってこと、か。


 強さの次元が変わってくるってことか。


 はぁ。


 どうやら、これは覚えないと駄目な力のようだ。


 俺は別に戦闘狂でもないし、強さを求めているワケでもない。でもさ、俺は弱かったがために一度死んでいる。もう死ぬのはゴメンだ。だから、この世界で安心できるだけの力は欲しいと思っている。


 だから、これは覚えないと駄目なようだ。

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