150 黒い盾
大きな金属の板にしか見えない盾の持ち手部分を持ち、その具合を確認しながらタブレットをかざす。
「どうさね」
眼帯の女性は得意気な様子でこちらを見ている。
……。
俺は、と。まぁ、鑑定だよな。鑑定結果を確認しよう。
鑑定もなぁ。どうせ、たいしたことのない情報しか手に入らないんだから、こう、パパッと結果が分かっても良いのにさ。
そして結果が表示される。
名前:漆黒の大盾
品質:高品位
魔法を完全に防ぐダークメタルを使って作られたタワーシールド。
お?
お、おお?
何だか中二病的な名前の盾だ。
んー。でもさ、この盾、あまり黒くないよな? 最初に見た時に鉄かと思った程度には黒っぽいけどさ、でも、漆黒って呼べるほどの黒色じゃあないよな。なのに漆黒?
んで、この盾、分類的にはタワーシールドなのか。大きさ的には一メートル半くらいだけど、このサイズでタワーシールドになるんだな。この大きさなら自分の背丈くらいは完全に裏側に隠れることが出来るな。
そんな大きさの金属の塊だから俺でも持ち上げる時にちょっと力を込める必要があるくらい、ずっしりとした重さだ。二十キロくらいはあるんじゃあないだろうか。何というか、普通に考えてこれを持ち歩くとか狂気の沙汰だよなぁ。まぁ、あの大きなカニを持ち運べるくらい力のある自分なら問題ないけどさ。
んで、だ。
一番重要なのは魔法を完全に防ぐって内容の方だよな。完全に、というのはどの程度なのか? これが問題だ。
「その重さを持ち上げるとは……さすがさね」
眼帯の女性が感心したような様子で俺を見ている。
んー。でも、この大盾をここまで運んだ眼帯の女性も同じくらい力持ちってことにならないか? いや、でも、この眼帯さん、カニの殻を割れないくらい非力だったよな? と、そこで気付く。眼帯の女性が手に先ほどまでは身につけていなかったグローブを身につけている。もしかして、そのグローブの力か? 怪力になるとか、そういう感じのグローブだろうか。
「えーっと、少し重いですけど、その分丈夫そうですね」
「そのタワーシールドだがね、秘密があるのさね」
眼帯の女性が得意気に腕を組む。
「それはさね……」
「えーっと、魔法を完全に防ぐ、ですか?」
俺の言葉を聞いた眼帯の女性が驚いた顔でずっこけそうになっている。
「これは驚きさね。私の秘蔵のダークメタルを知っていた……ワケじゃないようさね」
鑑定を行ったので分かりました。って、久しぶりに鑑定で有用な情報が表示されたよな。
「……まぁ、ものは試しさね。構えるといいさね」
俺は慌てて大盾の後ろに隠れ、ちょこっとだけ顔を覗かせる。分かっていたけど、大盾って結構、視界が悪くなるなぁ。これは無視できないデメリットだな。
と、そんなことを考えている俺の前に火の玉が飛んでくる。火の玉? バスケットボールくらいの大きさの火の塊だ。ファイアボール的な魔法か!?
!
火の玉は大盾に触れる瞬間、その大盾の前に生まれた黒い渦に飲まれて消えた。
黒い渦?
何だろう、ブラックホールというか、全てを飲み込む漆黒の闇というか……って、あー、名前の漆黒って、そこから来ているのか。
って、ん?
そんなことを考えている俺の前に次の火の玉が飛んできていた。火の玉? いや、違う。そんな可愛らしいレベルじゃあない。
巨大な――直径二メートルくらいの火の塊だ。
慌てて大盾の陰に隠れる。
……。
……。
予想していた衝撃はない。だが、大盾からはみ出た部分の火が後ろへと飛び散っている。熱い。大盾に隠れている部分は熱くない。直撃の部分は大丈夫だ。だが、大盾に触れなかった部分は火が残っている。地面を燃やしている。
……。
大盾を燃えている炎の中に突っ込んでみる。
……消えない。
この大盾、魔法を消すってワケじゃあないのか。触れた部分だけを消すって感じか。魔法として発生した現象――例えば燃えているとか、そういったものは防げない、と。消滅させるのは魔力だけ、か。となると、例えば俺の周囲を炎で囲うとか、周辺の空気だけを消すとか、そういったことをされると詰みってワケか――あまり万能じゃあないな。まぁ、でもさ、魔人族が使ったような矢に魔力を乗せるとか、そういうのを防ぐことは出来そうだ。
んー、サモンヴァインも試してみるか。
――[サモンヴァイン]――
大盾を指定して草を生やそうとする。だが、生まれるのは小さい黒い斑点だけだ。草自体が生えないな。草を生やすための魔力が消滅しているのか。
――[サモンヴァイン]――
今度は大盾の近くで草を生やしてみる。だが、同じように草は生えない。大盾の近くに黒い点が生まれているだけだ。
ふむふむ。大盾の周囲にうっすらと膜みたいなものがある感じか。ダークメタルって金属はこの膜みたいなものを発生させる金属なんだろうな。
――[サモンヴァイン]――
次に地面を指定して草を生やす。当然だが、これは普通に生える。
その生えた草に大盾を近づける。
ん?
草が枯れた。
枯れた?
てっきり何も起こらないかと思ったのだけど、枯れるのか。
これはどういうことだ? 俺の生み出す草の中に魔力が残っているってことか? それが消えて枯れた?
とにかく魔力に反応するものだと思ったら良いのか。
「どうさね」
眼帯の女性は得意気に胸を張っている。
「えーっと、使い方を考えたら便利だと思います」
「うんうん。竜の咆哮や吐息なども魔力がのったものなら防ぐのさね」
あー、竜のブレスか。竜のブレスって魔法なのか。それを防ぐって凄いな。
「槍といったら盾さね」
そして眼帯の女性はそんなことを言っていた。
えーっと、この大盾を作った理由って俺が草紋の槍を使っているから……なのか。凄い単純な理由だなぁ。
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